子供が考えた能力 『ザ・パワー』
僕の日課を教えよう。
それは中二全開の能力を考える事。
色んな能力を日々妄想している。
研究と考察、そして妄想。
それが日課だ。
中二病あるあるだと思うんだけど、能力を考えるのは、もはやルーティンなのだ。しない日はないと言っても過言ではない。歯磨きをしないと気持ちが悪くなる。それと同じ感覚なのだ。
最近ようやく野営生活から抜け出せた事もあり落ち着いて日課が出来るようになったのだ。
僕は幾つかのメモを数枚取り出すとペンを片手に唸った。
「え~っと。この能力はちょっと肉付けが必要だな。あ、こっちは壊れ性能過ぎるしダメだ。一つでも突出しすぎるとおかしくなる。これはバランス感覚が試される……非常に難しい試練だ」
9つ考えている能力。
そのどれもが強力だが、どれにも穴が必要。
長所と短所のバランスが必要なのだ。
つまりある程度の拮抗状態。
これを生み出したい。
僕ほどのエリート中二病患者になると、最強の能力をただ単に考えるのでは意味がないと思っている。
壊れ性能過ぎず、かつ貧弱な能力でもない。
絶妙なパワーバランスを持つ能力を生み出す事。
それが僕の今ハマってる事なのだ。
「絶体絶命で覚醒する設定。これは……」
するとポンさんは黄金の湯飲みを僕の机に置いた。
「随分熱心だな。何をしてるんだ?」
「研究だよ」
「研究? そんな趣味があったのか?」
「まぁね。僕は今、能力を考えてるんだよ」
僕は数枚のメモを見せびらかした。
「能力?」
「そう。最近能力を想像してないなと思ってね」
「能力創造だと……」
「うん。最近出来てなかったからね。そろそろ形にしていこうと思って。この絶妙なバランスが難しいんだよね」
「待て。一体何を考えている?」
「能力を考えてるんだってば」
「私が言いたいのはそういう事ではない。何を企んでいる? そう言っているのだ」
なんだ。また中二ムーヴかい?
はぁ。仕方ないなぁ。
付き合ってやるか。
僕は物憂げな表情を作り、虚空を眺める。
「企み? ああ。そういう事か」
一呼吸置き。
「……この世は悲しい事ばかりだ」
「あ、ああ?」
ポンさんは片眉を上げた。
「運命とは残酷だ」
「……そ、そうかもな」
「僕はね。悲劇に立ち向かうには力が必要だと思っている。
選ばれし者には力が必要だとね。
世界に抗う為に隠されし能力は必須。そう思わないかい?」
「……どういう意味だ? さっぱり意味がわからないが」
意味なんてないよ。
意味を追求されると苦しいので、無理矢理話を続けよう。
要は雰囲気が大事なのだ。
「パワー・ナインという言葉がある。とても古い、古の記憶」
「前提条件の話だな。ふむ。ぱわーないん? 聴き慣れない単語だ」
「非常に危険な力の名。禁じられた力の総称」
あのゲームのアレである。
能力のコンセプトはあれから着想を得て9つに決めている。
「禁じられた力だと!?」
「そう。それを僕は今想像しているんだ。この力を使う事で、この力がどのような物語を紡ぐ事が出来るのかな、とね」
「この世界を一つの演劇か何かと見立てていると言う事か? ならば言い得て妙か……その力を授けてこの世の結末を垣間見ようと、そういう腹積もりなのだな?」
よくわからないけど。
なんだか乗ってきてくれてるので。
「よく気付いたね。その通りだよ」
ポンさんは目を見開くと。
「一つ訊いていいか?」
「なんだい?」
「一体何の為に、なぜそんな事をするんだ? お前はどうしてそんな事を考え付く?」
何の為にぃ?
そりゃあ。
「……面白いから?」
「お。恐ろしい事をさらっと言うではないか」
「まぁね」
ポンさんは神妙な面持ち。
僕はその演技の迫真さにニヤついた。
ポンさんは、顎に手を置きながら。
「神の筋書きを壊すその心意気。既に人智を超えているか……
いや。原初を束ねる存在とは、そういうモノなのかもな」
ポンさんは少しだけ愉快な表情で微笑んだ。
「だね」
中二ワードのオンパレードで、さっぱり意味不明だけど同意だけしといた。
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/3人称視点/
リリアナ王国戦士長。
戦士長フォルテ・スターライトは辺境の地にて七罪の魔王が堕とされた調査に出向いていた。
彼は今、苦境に立たされているのだ。
七角の魔王。その配下の生き残りである巨獣が戦士団に牙を剥いていたのだ。
野営地の周辺には死の軍勢が取り囲んでいた。
「もはや……ここまでか。奇跡でも起きぬ限り、この絶望的状況を抜け出す事など……出来ない」
瞬間。
逆境の中、彼の下に奇跡が舞い降りた。
それは奇しくも。
世界を捻じ曲げるほどの9つの力が世界に散らばった運命の日でもあった。
人類に与えられた恩寵。
七罪を打ち滅ぼす奇跡の力が選ばれし者の下に顕現したのだ。




