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ミリムの始まり

ミリム満年齢十二歳。

 エレナとの結婚から一年ほど経ったその日、ミツヒロは妻の代わりに『王妃様のお茶会』にミリムの保護者として付き添っていた。

 ちなみに新たなスリーズ公爵夫人も懐妊中だったので、ピンチヒッターに呼ばれたわけだ。


(前でも現でもいいから公爵の方が良かったんじゃないか)


 前公爵夫人クリスティーン様は出版作業が忙しいとか、隠居した身とか理由をつけて、婚約候補者リストとともにこっちに丸投げだ。


(クリスティーナ様のお眼鏡に叶う貴族って、もう人だかりできているだろう)


 王妃のお茶会という実質のお見合い、保護者の夫人がたの熱とこどもたちのギラギラした目にミツヒロが若干しり込みしていると


「暗殺者のスーベル・イルがなんで王女様と仲良くしちゃっているわけー!?」


 ミリムは突然大声をあげて王女の隣に侍っているスベルを指差す。


 指を指されたスベルと王女はきょとんとしている。


 光弘は少女の口を手で塞ぎ、ぺこぺこ周囲に頭を下げ、そっと庭の隅に下がる。


「生麦生米?」


「へ?」



 ◇


「生麦生米!?」


「生卵」


 おっさんにがしっと肩を掴まれて二度同じことを問われ、訳のわからないままそう答えた。


「東京特許?」


「許可局?」


 きょとんとしたまま、『ナナミ』がそう答える。


(何この変な男?)


 二十代半ばの見知らぬ男が、肩を触ってくるなんて気持ち悪い。お巡りさん呼んだほうがいい?


「やっぱりかー、僕はここが何なのかは聞きたくない。が・・・。ミリムの意識は...」


「みりむ?」


 ミリム・ミリムスリーズ。『強欲のペルソナ2』で没落してしまったあらゆるてを使って、公成り上がって王子様やなんやらと恋に落ち、失われた指輪を見つけ出して国を平定していく・・・。


 目の前の男はわずかに青ざめさせる。


「俺の名は?」


 ああ、知らない男ではなかった。溢れる記憶に処理が追い付いてない。


「お姉さまの旦那様のミッチおじさま?えーっとミツヒロ・スギータ...」


 そこで、ゲームとの相違に気づく。


「え?え?没落していない?エレナが結婚してる?」


「で、あっちは?」


 男はスギタ・ミツヒロは王女のそばの少年を指差す。


(スーベル・イル)


 でも、今答えるべき正しい答えはー


「スベル・ダネス・ナクト・バルス」


 王女やヒロイン他貴族令嬢を『僕のママン・・・』って言って、ことごとくぶっ刺す『ヤンデレショタ』がなんでナクト皇子の継子になっているのか・・・。


『とりあえず名前で殴れる者は名前で殴れ』


 バルス風の名前は、本人のお父さんの名前、おじいさんの名前、出身地域名を並べるのが習わしらしい。


「で、ゲームに僕はいた?」


「えー、ヒーローやるにはおじさま標準容姿に達していないと思うんだけれど」


 『強欲のペルソナ2』もやったが、外伝の隠しキャラにもいなかった。せいぜいいたとしてもmobだろう。


「ぐ、?・・・ミリムは...死んでないんだな。よかった」


 おっさんはぽろぽろ泣き出した。


「なんで...泣いてるの」


「そりゃ、今までさほど接点がないとはいえ、君はエレナの妹。僕の義理の妹がいきなり死んで別人になったら泣くよ」



ー...死?


 たった一言でー


「い、いや!?いやー!!」


 17で死んだこととそのときの恐怖、痛み、苦しみ、死にたくないという怨嗟。すべてを突如思い出してしまった。


 『死』から抜け出そうと、男の腕の中で必死にもがく。

 息がーできなー


「息をゆっくり吸って吐くんだ」


「大丈夫?」


 心配した王妃様がわざわざ声をかけてくださる。

 もう一人の私が「王妃様に無様をさらすな」とうるさく叫んでいる。


「だ、だいじょ...うう」 


 鼻をすすってぎゅっと目を閉じる。嫌だ。それは私の言葉じゃない!


「毛虫だかミミズを見て、びっくりしたみたいです」


「あら、そう?それにしては・・・」


 大人たちが笑って何事もなかったように勝手に話を終わらせようとする。ちゃんとこの状況を説明して!私の話を聞いて!私のために泣いて!誰でもいいから私を助けて!


「いやっ、ひっく、ひっく」


「落ち着くんだ」


 おじさまの声。

 王女とスベル、アンリエッタが駆け寄ってくる。


「せっかくのプレお披露目になんてザマなの?」


「アデレート王女様、言葉遣いはお気をつけ下さい。あなた様も見られているのですよ」


「とにかく、追加の冷たい飲み物と、部屋をすぐ用意させます」


 王女様はつんけんしてて、スベルは似合わない敬語でたしなめて、アンリエッタはジュースを渡してくれる。


「ミリム様歩けますか?」


 ミツヒロおじさまはまだ混乱している私にそんなことを言った。私はとてもじゃないが、まだ動けない。


 公爵令嬢としての自分は泣くな!涙を拭え!立ち上がれ!微笑め!と叫んでいるが、もう一人の『七海』はいやいやと首を振る。


 どちらが自分なのかわからない。一秒だって一緒のカラダに居たくない。魂と一緒に身も裂けてしまえ!


 ミッチおじさまにひょいっと抱き上げられる。


「お、おも?」


「そこは男として言っちゃだめなところじゃない?」


 王女が、ミツヒロにダメ出しし、私『ミリム・スリーズ』はほんの少しだけ笑った。


「ミリムも、アン姉ちゃんみたいに、行き遅れになるのかな」


「失礼な!私はこの歳で二回も婚約していたのですよ!誰よりも進んでいますし、もっっともっっと美人になります!」


 建物内に入って人の目がなくなったことをいいことに、アンリエッタはうにーっとスベルのほっぺをひっぱった。


「スベル、それセクハラな」


 ミツヒロおじさまがため息を漏らした。



 ゲームの中では厳しい淑女だったアンリエッタもこんなだったのか。


「私、帰れないの?」


 ミツヒロがほんの少しだけ首を縦に振る。と同時にほんの少し身体が揺れる。三人のうち誰かがミツヒロをこっそり蹴ったようだ。


「っ、お前ら危ないからヤメロ」


 帰れないのはすごく悲しい。公爵令嬢としてもせっかくの縁談を棒にふったのは、心苦しい。


 でも、心配そうにこっちを見つめてくるスベル、かわいいw


スベルの幼少期を生で見れるゲーマーはきっと私だけだ。そう幼少期からの成長をじっくりとっくり眺められるのはプレイヤーのなかで私だけ!


「この男が先に帰ってしまってもちゃんと馬車は出しますから」


 年下でありながら、主人公をいつも小バカにしていたお姫様は真剣に私を心配してくれている。


 一人になったら、泣こう。


 でも、今は・・・ぐしゃぐしゃの顔のまま仲間に笑顔を向けた。


「うん」

一応、(七海)は推しのスベル狙いですが、友情と恋と身分差の板挟みです。

ミリムは恋に夢を見ない。年上のしっかりした地位の男性が好み。七海の趣味にはドン引いています。

人格が統合するかは微妙なところですね。

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