第三王子とレーコのエンディング2
エレナが選んだのは赤い屋根のお屋敷。
最低限の家具は備え付けてある。
「家具はすべて村で作られたもので、素朴ながらもそれなりに品のよいー」
「管理費、きりのいいところで50万ロゼにしてくれませんかね?」
王子の説明を遮って軽く聞いてみるが、王子は顔をしかめる。
「庭の清掃は子供たちの大事な収入源だ。言っとくが室内清掃はオプションだからな。事前に手紙を送ればシーツも整えとく。
芋掘り体験、牛の乳絞り体験等は一回 1000ロゼだ。
畑を借りるならアドバイス、世話、肥料、苗や道具、作業着貸し出しなどもろもろ付いて一ヶ月5000ロゼ。半年世話込みで自宅敷地内で家庭菜園も可だが、別途管理料が必要。食べ時になっても家主が現れないなら、村の食料になる。本当にそんなことやって楽しいのかは疑問だが。
他には季節限定で木苺狩りや、山葡萄狩りも体験できる」
そういうアイディアの源は横についているレーコなのだろう。
男爵位を土地付きで買うようなーちょっとお金に余裕のある都会のブルジョワには面白い体験なのかもしれない。
出来上がった野菜を郵送できれば、試みとしては面白いのだろうが、距離が離れすぎている。
「まあ、避暑とかにはいいかもしれんが・・・住むにはちょっと不便そうだな。で、いまいち王族が分譲住宅の販売員になっているんだ?」
「ぐっ」
「ここって、国境に接してない・・・軍事上特に重要じゃない土地なのよね~」
答えに詰まってる王子の代わりに、エレナがにこにこ顔で話し出す。
「うん」
「ちょっと懐具合が寂しいからどーでもいい土地と爵位をセットで成金商人に売り付けようって話」
「えっ?」
「王族が土地を一時的に貸し与えているにすぎない。勝手に転売した場合は処刑になるから注意するように」
王子が顔をしかめて釘を指す。
「まじ!?」
「外国に転売なんてされたらややこしいことになるもの。最低限のルールは必要でしょう?」
エレナが補足説明してくれる。
「戦争で土地を手に入れるより、お金で合法的に土地を手に入れるほうが、無駄がないって考える国が出てくるかもしれないのはわかるわよね?」
「うん。なんとなく」
審査をざるにしておいて、気づいたら村全部が外国にお買い上げされていたなんて洒落にならないのはわかる。書面上、ロゼリアの土地だろうが、こっそり軍事基地を作ってしまうとか?
「購入が可能なのはロゼリア国民だ。俺が人柄を見て、意見書を書き、最終承認は兄上がする」
「え~この人が人柄を判断?できるの?本当にできるの?」
エレナと二人、疑わしげに王子を見る。
「ちっ。お前は外国人だが、スリーズ家とドゥ家が保証するなら大丈夫だろう」
王子は冷めた茶を飲みため息をつく。
「当然下手なところに売ったら、俺の首も『正当な理由で』物理的に飛ぶ。命がかかっているんだ。真面目にする。」
「王子が卒業バーティーで婚約破棄後、幽閉とか処刑ってまあ、王家にとっても赤っ恥もいいところ。でも、土地売買を王家から委託されて勝手に外国に売った場合はー大逆罪、内乱準備罪、外患罪とか、いくらでも処罰し放題だもの。確実に処刑できるわ」
丁寧なエレナの説明に第三王子は「ふん」と鼻を鳴らす。
「まず購入者名義はエレナ・スリーズ・スギタでいいのか?一応、共同保有者はミツヒロ・スギタ。出身国は?」
「ええ、いいわ」
「えー日本国?」
「知らん国だ。どこにある。証拠の品は?」
一応、婚約した時もスリーズ家に一通り事情聴取はされた。エレナ母に回答のダメだしくらって、『模範解答』をアドバイスしてもらった。
『さっさと自分から都合のいいプロフィールを言ってしまうのです』
「ジェムリアやエデルのずっと東の小さな島国です。海跨いでますよ。証拠の品は全部売っ払っちゃいました。って、わりと真面目に仕事してますね。他の人に任せればいいのに」
部下の一人くらいはついて来なかったのだろうか?
身に付けていた病衣が、イーデスばあさんのところの古着の山の底で売れ残っている可能性はあるが・・・あとは最初に助けてくれた人に売っ払った。
「領民はほとんど文字を読めないし、俺は自分の首を他人に預けるつもりはない。領地を与えられたと思ったら、自分の領地を成金貴族に頭を下げて売らないといけないとか・・・いつ王家に罪をなすりつけられるか・・・毎日身が削られる思いだ」
「契約が成立するたびに自分の領地が減っていくんですものね」
「ご愁傷さまです?」
売約成立のたびに領地が削られるなんて、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからんわな。
信頼できる臣下もいないし。ちょっとでも反乱を疑われたら、処刑されるって怯えて生きていかないといけないし。
何もやらかしてなくても、王家が反乱とか外国との結託とかを信じた時点でジエンド。
『王都追放』を条件にした時は、そこまで考えてなかったが・・・地味に堪える罰かもしれないな。
「まあよいだろう。職業は・・・作家だったな。前職は?」
こいつ俺のプロフィール欄にエ○作家って大文字で書きやがった。
「学生ですけれど?○○高校。平成××年三月三日生。たぶん年は25かな。」
「ヘーセー?」
「日本で使われている暦ですね。」
「聞いたことない暦だ。」
一通り聴取が終わり、細かい見積もりに入っていく。光弘は土地の値段交渉に少々口を出しただけで、後はほとんどエレナと第三王子のバトル。
お茶を十杯ほどおかわりして、値段交渉は終わった。
まあ、庭掃除や家の清掃が村人の大事な収入源と聞けば、そこら辺はほとんど値切れなかったのだが。
◆
「スリーズ家が保証についているなら審査は恐らく大丈夫だろう。
領名はボロスギタ男爵領で登録でよいか?」
ぼろすぎた?
「まっった!なんだその変な名前!」
「この地域一帯はボロという名前だ。ここら一帯すべての男爵家がボロだけでは判別に困る。地名の前後どちらかに自分の家名を繋げるのだ。スギタポロでもいいが?」
(どっちにしろゴロが悪いじゃないか)
「もうどっちでもいいけれど、男爵とか秘書なんとかとか、全然自分が偉くなった気がしない。」
さらさらと、文面の末尾付近に『国王秘書参事官ミツヒロ・ボロ・スギタ男爵』と書かれていくのを眺めながら、光弘はほうっとため息をついた。
「地位を金で買っておいて何を言う」
「だって働いていない新人が国王秘書・・・なんとかってすごい地位に就くのどうなの?」
「まだごねてるの?」
やっぱり名前からしてすごそうだ。
「たいしてすごくないんだがな。わかった一言書き添えといてやろう。一、二ヶ月後に通知が来るので、合格なら期日まで、国庫への納付を忘れずに。紋章を作るのなら、こっちに作り方のパンフがある。登録料が発生するがな。」
「はあ、ありがとうございます。って、紋章一つ登録するのに100万?」
「必須ではないが、あると便利だな」
◆
「さくさくと決まってよかったわ」
「第三王子が真面目に販売員やってたのにビックリしたな」
「スリーズ家の桜とドゥ家の砂時計に、せっかくだから『スギタ』の家名から・・・あなたの姓ってどういう意味?」
「木の『杉』に田んぼの『田』・・・こっちでいう小麦畑?」
「スギがよくわからないんだけど...」
「針葉樹の代表的なもの?花粉がどばどば出るやつ。葉っぱはたぶんこんな感じで」
「どばどば?その感じならシダー」
「じゃあ、杉の木と麦穂でいいかな」
◆
ボロ公爵アルフレッドによる意見書。
『国王秘書参事官ボロ・スギタ男爵は、見たところ野心はなく、異国の民ながら地位にみあう国家への奉仕をしたいと。貴族を名乗りながらも貴族の義務を果たさない商人貴族には無い気概を感じます。機会があれば思う存分こき使えばいい。使えるどうかはわからないが。』
(せいぜい無理難題を吹っ掛けられるがいい)
王子はどこまでも心が狭かった。
第三王子たち特に歴史書に残ることなく終わると思います。(ある意味平和に天寿を全うできた・・・かも?)




