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王太子妃とじゃがいも

「ここは王宮ではない。せっかくなら君の故郷の名で呼ぼうか。マリア・テレジア」


「ぶー!?」


 あったかシチューを美味しく食べていたはずのミッチが唐突に吹き出す。


「なんで吹き出してるのさ?」


「は?マリア・テレジア?最強の名前じゃん?なんか怖いからここはかわいくテレサで。俺の心臓が持たない」


「はいはいはい。お口閉じようねぇ」


 何をパニックになっているのかさっぱりわからない。とりあえずミッチがブレーなことをいっているのだけはわかった。


「私としてはじゃがいもを救荒植物として普及させたいが、母と一部教会が反対していてな。昔は公爵夫人も反対していたが最近になってこの食堂の料理で考えを改めたと聞いた。」


 第一王子の言葉にスベルは首を傾げた。


「キューコー植物ってなに?」


「うーん。荒れるのを救うって感じで、小麦が不作になったりもっとひどい飢饉になったときに食べられるものってところか。多少、土地が痩せていたり、寒かったりしても育つとか」


 説明してくれたミッチはそこでため息をこぼす。


「おいしくっても固定概念を崩すのってなかなか難しいですから。特に、タコ、タコ、タコ。

 俺もエスカル○やカ○ルがおいしいよって出されても食えねえしな」


「どんだけたこ布教させたいの?」


 スベルの突っ込みを無視してミッチは真面目な顔でじゃがいもの説明を続ける。


「じゃがいもは小学生の理科でも習うくらいだから、育てるのそんなに難しくないはずなんだよな。連作禁止とか、調理時には芽をしっかり取り除いて、日光に当たった緑の芋は毒があるから食べちゃダメで。芽がすっごく生えた芋や小さい芋は食べずに種芋にするとかか。一個の種芋を四つぐらいに切って植えれるとか」


 毒部分の注意事項はしっかり店主にも伝えている。


「四つに切ってもちゃんと生えるんだ。じゃがいもの花ってどんな感じ?」


「さ、さあ」


 スベルの質問にミッチはそっと目を逸らす。が、アデレート王女が答える。


「白やピンクや紫色をしていてかわいいの。前の舞踏会の時におかあさまが髪飾りにしていたの。今度見せてあげる」


「見たいなー」


 アクセサリーのモチーフとして興味がある。次期王妃様が身に付けていた花なら人気が出るかもしれない。


「スベル、去年の『糸電話』みたいに、今度はじゃがいもの研究やってみないか?プランターは深いのを用意するのは面倒だし、麻袋に土詰めてさ」


「えー。別に?お花は見たいけれど、芋自体には興味ないし」


 ああいう研究は自分で好きなことを突き詰めないと面白くない。

 が、子供でも育てられる、一個からたくさん作れるってのが本当なら・・・カス団の子供たちは喜ぶかもしれない。


「芽はわかるけれど、じゃがいも切っちゃった場合根っこはどこから生えるの?」


「う?そ、それを調べて見るのが自由研究の醍醐味、だよ!」


 スベル「知らないんだ?」

 アデル「知らないんだ?」


 スベルばかりかアデルにまで復唱されてしまいミツヒロはがっくり肩を落とした。


 ◆


「じゃがいもグラタン美味しいです。特にパプリカパウダーを振りかけてくださっているのがうれしいですわ」


 (とりあえず王太子妃が気に入ってくれてよかった)


 光弘はほっと胸を撫で下ろす。


 この『パプリカパウダー』にも結構苦労したのだ。


 当初はジャガグラタンやドリアの見た目を鮮やかにするために『グラタンについている辛くない...味のしないテンション上がる赤いパウダー』と店主に伝えるもなかなか伝わらなかった。


 光弘自身もパプリカパウダーの正体をいまいち知らなかった。なんとなーく赤いピーマンというイメージしかなかった。


(だって、我が家ではグラタンに振られていたくらいで、ほとんど使わなかったよな)


 そもそもがこっちの世界では唐辛子もピーマンもがごちゃごちゃに『ピーマン』に翻訳されていて大変だった。

 唐辛子は『辛いピーマン』。ピーマンは『辛くない緑ピーマン』で伝わり。パプリカは『辛くも苦くもない赤ピーマン』で伝わった。


 唐辛子はさすがに見分けつくだろうと当初は思ったが、細いパプリカも普通にあったり、ピーマンだと思ったら青い唐辛子だったり・・・。


 今は翻訳機能も学習したのか、正しく使い分けされている。


 苦労したおかげかパプリカパウダーの効果は絶大で、じゃがグラタンやドリアに一振りすると子供たちの食いつきも大人の食いつきも断然良くなった。


 子供たちは『パプリカ』をピーマンの仲間だとは知らずに、赤い粉が振られたグラタンをパクパク食べた。


 ばれたときは三日間、口を聞いてもらえなかったが。


「わたしの課題は山ほどあるが、じゃがいもをこの国に浸透させることも課題の一つだ」


「じゃがいもが病気に感染したじゃがいも飢饉なんてのもありますから、主要品目を無理に置き換えるようなことはなさいませんように。何事もほどほどに」


「ほう。そなたは博識だな」


 王太子が興味深げに光弘を見る。


「うーん。ラノベの知識というか・・・特別詳しいわけじゃないので」


 オープンサンド形式で千切りキャベツ、チーズ、ポテトサラダ、ちょっとだけ見栄を張って厚めに切られたハムが載せられたサンドイッチの皿がテレーズ王太子妃の前に運ばれる。


「おいしいのですが、バゲットをもう少しだけ薄く切っていただけます?少し固くて・・・」


 王太子妃はやっぱり護衛と侍女を気にして後半の声は恥ずかしそうな小さな声でささやいた。


「やはりここにもないのか。この不思議な店ならあるいはとは思ったが・・・」


 王太子は、妻の落胆ぶりにため息をつく。


 娘から柔らかいパンが出ると聞いて期待してー


「ですよねー!!よかった!!賛同者がいてくれて!!テレサさんの国のパンってどんな感じです?柔らかいです??どうやって作ってるんです!?フランスパンとの違いは生地ですか!酵母ですか!?それとも酵母以外のなんかがあったら教えてください!?米が毎日食べられないのは諦めたけれど、いいかげんコンクリパン卒業したいんです!!マジお願いします!!!」


 いたのだが、無礼な男ー光弘が賛同者に会った感激で、うっかり未来の王妃様の手を握ってしまったのだ!


 今の光弘は相手が王太子だろうが王太子妃だろうが関係ない。朝昼晩白ご飯の生活だったのに、三食コンクリパンに急に変わってしまったのだ!なんとか出来るチャンスを逃しはしない!


「は、はあ??」


 まあ、もちろん光弘の手は愛妻家の次期国王によって即座にひっぺがされるのだが・・・。


 ◆◇


 半月後。


「はーあ」


「ため息ついてないでさっさと語呂合わせ年表覚えようよ。僕早くケーキ食べたい」


 歴史が苦手なアデルは歴史学者三人が角突き合わせて作った語呂合わせ年表帳を放り出してしまった。


 アデルがある程度お勉強してくれないことには休憩時間(お菓子タイム)がいつまでも訪れない。


 ミッチによれば第三段くらいまでレキジョにする方法を考えているらしいが、話を聞いただけで手間がかかる方法だった。漫画とカードゲームで釣るとかなんとか。


(今から一から作っていたら僕ら大人になっちゃうよ!)


 歴史の先生には『歴史を語呂合わせで覚えるとは何事だ!』とか怒られるし、一人で作るよりか三人で作る方が早いだろうと助っ人に呼んだ学者さん二人と歴史解釈の違いで喧嘩するし。(全員五十歳超えのおじいちゃん)


「あれ以来、お父様とお母様がわたくしのこと『アデル』って呼ぶのよ」


「よかったじゃない?」


 親との距離が呼び方一つでグッと縮まったなら良い。それなのに王女様はちょっと浮かない顔だ。


「だってスベルと秘密の名前だったのに・・・」


 と言っても食堂の店主もその名で呼んでるのだが。

 まあ、『ヘーカ』が『アデル』って呼んだときアデルはちょっと不服そうにしていたから、ちゃんと新しい呼び方は考えている。


「じゃあ、『アディ』ってのはどう?」


 『ヘーカ』に聞こえないようにアディアディアディと三回、もごもご唱えて、


「すっごくいい!」


 ◆◇


 異国から嫁いできた王太子妃は、王妃他ロゼリア貴族との信頼関係を築けず、食が細くなり儚くなる予定だった・・・が。

 この日をきっかけにじゃがいもの普及とパンの改良に力を入れ、エレナの紹介で『ヴィーナウェル』を味方につけることができ・・・結果ふっくらしていった。

マリー・テレーズ(フランス語読み)=マリア・テレジア らしいです。


緑の芋は一度だけ遭遇。皮剥きのときに毒々しさに「なにこれ?」ってなって、母に聞いてみると「気になるなら厚めに剥けば?」って答えが。一応気になってネットで検索。加熱しても消えない毒だそうで、かなり厚めに皮を剥けば食べられなくはないそうですが、安全のためサヨナラしました。小さなお子さまのいるご家庭は特に気を付けてください。


学者さんの一人は南ロゼリア大学の先生。


私も歴史わりと好きだけれど、語呂合わせで覚えるのは苦手。

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