予言の書
※いつもと違うR15注意報。
『強欲のペルソナ3』
三番目の女神が世界を司る、終演と混沌の世界。
光弘は花婿修行の合間に神社、お寺、教会を回り直した。
王都にあるファテストネと神の書の写し(お土産感覚で売られている)はすべて集めた。
目を背けていたことに、目を向けなければいけない時期に来ている。
『神の書に関わらない』信条を曲げた一番の理由は西マール教会の『神の書』に書かれた主人公の名前。
「物語の主人公はミリム・スリーズ。テーマは原点回帰。
前作と打ってかわってかわいい系の学園乙女ゲーではなく、がち戦争物。
途中までは学園物なんだけれど、かつての学友は敵味方に別れて争うことになる。王族や他勢力と仲良くなると政策方針を進言できる機能が解放されたり。
で、シルエットから前作の悪役令嬢エレナ・スリーズが超余計なことをしたために公爵家は没落。国の守りが崩れ、人の恐怖や怒りがバンバン化け物化して現れる。ヒロインの目的は失われた秘宝を手に入れること。...エンディングは百個超えとか・・・
攻略対象は国王(現時点では第一王子)、第二王子(ハーレム)、第三王子(誘拐犯)、王都の革命家、南ロゼリア革命家、敵国皇子(レペス、イスト、バルス、ベイルシュタット、ジェムリア、エデル他)。暗殺者他。
...て、なんでエレナのお兄さんまで攻略対象なんだよ?」
ほぼ全員ヒロインよりか年上。ぶっちゃけ乙女ゲームの皮をかぶった国盗りゲームである。
エレナ兄の方は後程血が繋がらないとかの事実が湧くのかもしれないが・・・。それはそれで公爵家が荒れそうだが。
「南ロゼリアの革命家は数学者と一致するし、バルスの皇子はナクト皇子だし、暗殺者はー」
「エレナのやらかしは...一応回避したのか?神話のラストが物騒すぎるからな・・・」
ゲーム的には回避できているかもしれないが、現実にはそんなことでどうこうなる類いの話ではない。
◇
『おかあさま、おかあさま...彼の顔がしわしわになってきたの』
シャルノが国を統治して百年を超えた頃、女神の一人は気づいてしまったのです。
『あら大変。神と人は生きる時間が違うのよ。いずれ死んで土になってしまうわ』
『そんなのいや!ぜったい!』
『天にお誘いしなさい。星座になって天に上がればずっと楽しく暮らせるわ』
女神三人はシャルノにお願いしました。
『「天の宮殿で世界が終わるまで楽しく暮らしましょ」って言ったのに「人として死にたい」って』
『地上に居づらくしてあげなさいな』
母神はやさしく囁きます。
『どうすればいいの?』
『嫁入り道具に持たせた宝石を一つ私に預けなさい。』
それは大事な婚姻の証。
女神ネヴァはためらいますが結局頷いて、宝石を母神に渡します。
それは民の心を一つにする宝石。疑問を消し去り、反感を押さえつける奇跡の宝石。
こうしてネヴァは何度目かの裏切りをしたのです。
『王はほとんど歳をとらない化け物』
『妃たちも』
『いつまでも王座をゆずらない』
民は今までの疑問、不満、不信を王にぶつけました。
声の中には王よりも歳をとってしまった王子たちも混じって。
王は子供たちに殺されます。王が三女神の父を殺したときのように...
『どうして』『どうして』『どうして』
三女神は嘆き悲しみますが、やがて言い争いを始めてしまいました。
『これは私のもの』『違うわ私のもの』『私が最初に出会ったの』
宝石は人の心だけでなく仲の悪い三女神の心さえ鎮めていましたが、夫の死と宝石の喪失が重なり三女神は今まで我慢をしていた思いを抑えきれなくなってしまったのです。
シャルノの身体は三女神に思いっきり引っ張られてしまいました。
以来、第三の女神ネヴァは死の先触れの女神になってしまいました。
シャルノを殺された女神は天に帰り、人の時代が始まったのです。
◇
死して星座(神)になることを拒否したシャルノは死後・・・三女神に肉体を七つに引き裂かれてしまう。三人が二つずつ持ち・・・
夫をシャルノに殺された母神が最後の欠片・・・シャルノの魂をさらに七つに分けて世界の果てのさらに果てに捨てた。
以来、死した人の魂は七つに別れる。七つの魂を組み替えてしまうので、来世へ記憶を持ち越すことはほとんどない・・・とされる。
(神話のハーレムわりと容赦ないよな・・・)
「俺、これから当事者になるんか・・・はあ」
手元にあるのはファテ・ストネの取説の写しだけだ。
「国内にあっては人心を鎮め、戦争に当たっては人の心をひとつにする指輪・・・ね」
(人の心を操る神具)
人の心を押さえつける神の宝玉や化け物・・・そんなファンタジックなことが起こるかどうかは置いておいて。
「『強欲のペルソナ2』のエレナの入学年は合っている。問題の『3』はあと七年か」
この国に来た次の日に見た、この国の暗きところを思い出す。
「だからってただの市民に何が出来るんだ」
首相が変わろうが大臣が変わろうが、選挙の投票率が少なかろうが、十七歳の光弘には関係なかったし、きっとあの世界で成人しても政治に関心を持たなかっただろう。政治なんてお偉い人が決めればいい。
◆
「新しい小説のネタかね?うるさい~」
寝ぼけた声でママン...お母さんが言って、スベルが起きているのに気づく。
「...しっこか?」
「ううん。王女様のこと考えてるの」
スベルの答えにお母さんが楽しそうに笑う。
「おーぅいっちょまえに初恋か」
「ママ...お母さん、おやすみなさい」
毛布をかぶりつつも、壁の向こうの独り言に耳をそばだてる。
(ミリム・・・学園ってことは王女も関わってくる?)
◆
最近は家を留守にすることが多いミッチ。その間にスベルはミッチの部屋にこそこそ忍び込んだ。
一応二階の各部屋は鍵が付いているが、無精なミッチはほとんど鍵をかけていない。
出掛ける時は「盗られるもんもないし、スベルもいるし、空気の入れ換えにもなるし」とか言ってむしろ自室の扉を開け放っている。「出掛ける時は鍵閉めといて」とか頼まれる。
ミッチの国の言葉で書かれた『シャルン英雄譚』のネタ帳と発売された『シャルン英雄譚』を付き合わせて読むが・・・。明るいところで読もうと思って、一階に持ってきたのがいけなかった。
「おもしろい試みをしていますね。どうして知りたいんです?」
唐突に現れたのは新聞屋のブンバーおじさんだ。
「死なないために知りたいの」
思わずそう口にしてしまって、口に両手で押さえる。
カス団の副ボスが年を越せずに亡くなってしまった。副ボスはちゃんと後継の子が繰り上がったけれど・・・。本当に戦争になるならスベルたちがこれからも同じ生活を出来るとは限らない。
「子供でここまで解読するとは・・・数字のところは合ってますよ」
それはミッチがとっさの計算の時にはニホンの数字で計算しているからだ。
ニホンの数字で計算して、スベルたちに見せるときには、ロゼリアの数字に直していると言った方が正しいか。
「こどもの遊びだよ~」
「やはりひっかかっているのは『カンジ』の部分ですか・・・まあ一部は私も解読しておりますが・・・。言葉の組み立て順が違いますし、協力しませんかね?」
「なんで僕?」
「私はあの方に警戒されていますが・・・こどもの君にはずいぶん甘いようだ。良いビジネス関係を築けるとは思いませんか?」
「・・・・・・」
「『1788年』に何が始まるんでしょうかね?」
悪い大人がニタリと笑った。
光弘は『政治なんてお偉い人が決めればいい』って考え方を変えるのはたぶん難しいです。ぐだくだ考えて結局何もしない。
ので、危機感が強いスベルがちょこまか頑張るようです(物語の裏で)。
歴史や宗教のあれこれは置いておいてざっくりと国名。大半の国はほぼ本編に関係ないです。
・ロゼリア(物語の舞台) ・レペス(ヒューの奥さんビオラの出身国) ・イスト(三女神教の総本山がある) ・ベイルシュタット(トゥワイス家ご令嬢の駆け落ち先) ・ジェムリア(ロゼリアの隣国) ・エデル(王太子妃の出身国)、バルス(ナクト皇子の出身国)。




