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予想された来訪者

更新滞って申し訳ありません。全く書く予定のなかったスベルまわりの話が思った以上にボリュームが出てしまいました。

更新スピード落として再開です。(一週間に一度ほど)

 エレナとミッチがクリスマスに年越し、正月、豆まき、ヴァレンタインディー、誕生日、ホワイトデーと順調に去年できなかった冬・春イベントを進めている横でー


 スベルも怒濤のイベントを消化していていた。



 十一月。中旬。昼。


 食堂の客が落ち着きかけた頃、アデルはアポなしで西マール食堂に小型サイズのきんきら馬車ときらっきらのドレスで訪れた。


 敷かれたカーペットは当然客と店主の目を引いた。


「ありゃなんだ?」

「わー、ほんとーに来ちゃったよ(棒)」


 極薄のジュースみたいなホットワインをちびちびなめていたスベルは、店主の言葉にため息をついた。


 申し訳程度のジンジャーパウダー他スパイスとフルーツの皮で煮られたホットワインは冬定番飲み物で、一杯飲むと手足がポカポカになる。

 このホットワインは明日の昼にはナニカの肉のワイン煮込みに化けているはずだ。


 王女は従者によって敷かれたカーペットの上を歩き、店内を眺めて一言「汚い」とこぼす。


 店内の染み付いた油はどうしようもないが、衛生面はミッチが口をすっぱくして「ハ○とジ○とネ○ミは撲滅!きれいに!」とさんざん注意していたお陰で、そこらの店よりかはきれい...なはずだ。


「今日はお忍びで来たのよ。皆様楽にしてくださいな」


(いや!床に真っ赤なカーペットを敷いた時点で、全くシノべてないから!)


 エレナでさえさすがにそこまでやらなかった。・・・はず(スベルは最初期のエレナを知らない)。


 王女様はスベルの家と食堂に多大な関心をおシメシになっていた。

 スベルの家への訪問は全力でお断りしたが、食堂の方は「そ、そのうちね?アデルのパパンとママンが『いい』って言ったら良いよ」と曖昧な回答をした。


 まさか、こんなに早く許可をもぎ取ってくるとか。


「あれは、本当に忍んでいるつもりなんかね?エレナ嬢ちゃんとおんなじような対応でいいんだよな?」


「う、うん。たぶん?」


「いらっしゃいマセ!何名様デスカ?」


 カウンターでこそこそ話している店主とスベルを尻目に、誰だろうと臆することなく態度を崩さないビオラがさくさく王女様を案内する。


 馬車通りのレストランを想像していたアデルは少しがっかりぎみだったが、案内された席におとなしく座ってくれた。


 きょときょとと誰かを探している。誰かは・・・


(・・・当然僕だよね。裏口から帰っていい?)


(ダメに決まっているだろう。面倒事を俺に押し付けるな)


 今なら、髪も服もボサボサで、こっそり帰ればばれなさそうだが、そのまま家に押し掛けられでもしたら困る。


 スベルは笑顔を作って学友の元に向かった。


「急に来るなんてびっくりしたよー?」


「私はスベルの姿にびっくりだけれど?」


 庶民の平服を物珍しげに眺めてくる。その視線がちょっと嫌だなと思いつつ...周囲に目を向ける。大人たちの視線がそらされる。


(僕たちが王家の人を見るときもおんなじ目をしているし。別にいいか)


「次は、ちゃんと教えてね。急に来るとお店の人がびっくりしちゃうから」


 スベルも教会学校があるし、放課後は教会の子たちと遊んだり、西マールの子供たちとも遊ぶし、最近カス団に呼ばれることも増えた。家でアクセサリーの内職や家事のお手伝いもする。学校からもアデルの家庭教師からも宿題をモリモリ出されて結構忙しい身の上だ。・・・ついでにエレナのマナー教室も加わる。


「わかったわ」


 にこっと微笑んで軽く返事をする王女様にスベルは疑わしげな表情を返す。


「それで何を食べたいの?」


「ジャム焼きとオムライス!」


 目をキラキラさせる少女にスベルは『食べ終わる頃には約束なんて忘れているだろうなー』などと思ってしまうのだった。


 王女様はたこ焼き(中身はいか焼き)とジャム焼きとオムライスに大変な感動を覚え、夢中になってパクパク食べて、オムライスに絵を描き・・・ドレスにどろどろのソースをこぼしてしまった。


 一応、ナプキンで、ガードをしていたのだが、すり抜けてしまったのだ

・・・ぴちゃっと。

 もちろん背後の護衛さんの眉はガッツリ跳ねる。


 一人前のオムライスとたこ焼きは王女様のお腹に入り切りそうになかったので、スベルと護衛が毒味という名の味見をする。


 (うん。いつもどおりおいしー)


 どうやら護衛さんも気に入ったようだ。


「前は腰リボンだったのに、なんで今回そんな食べにくい服着ているの?」


 例の腰がぎゅっと締まったドレスだ。


「だってはじめてお邪魔するんですもの・・・」


 馬車通りの高級レストランならいざ知らず、この食堂では明らかに場違いだ。


「おいしいものをたっくさんあるんだから、次から腰リボンにすればいいよ。おばあちゃんの店にちょうどいい感じの服があるから、それ買っていきなよ。それならソースでいくら汚れても怒られないから」


 イーデスおばあちゃんちの宣伝も忘れないスベルである。


 古着だろうとスベルが汚そうものなら間違いなく怒られるが、王女様なら、あそこのドレスなんていくらでも買えるだろう。


 たくさん食べてしっかり休憩した王女様が、頷いて立ち上がる。


「次のご来店の際には是非ご予約ください。特別なデザートをご用意してお待ちしております」


「ナクト皇子!?」


「はい。ですがここではだだの料理人見習いです」


「はい。わかりました♡」


 皇子は唇に人差し指を添え、ウインクをキメる。あれは八歳のスベルにはちょっと真似できない芸当だ。

 とりあえず五年後くらいに使う機会が訪れるかもしれないので、一応覚えておいた。


◆◇


「って何勝手に約束しているんだよ!王女様にお出しする特別なスイーツ。キャラメルポップコーンは一番最初に使っちゃったし。ジャム焼きも。・・・冬に食べたらおいしい異世界チートスイーツ...パフェとか?イチゴは厳しくても、チョコパフェ。こたつに入ってアイス...は風邪引かせちゃうし。豚まんとか、コンビニの前で食べるのサイコー。あとはクリームコロッケ...は普通にあるし。両方食後のスイーツじゃねえ。焼きいもに、みたらし団子ってさつまいも見かけたことないよなー。ポテチと枝豆も王女様が目をキラキラさせて喜ぶかってったらなー」


 王女様スイーツ作戦会議本部(夕方の食堂)。


 ミツヒロは頭を抱えたまま器用に机に突っ伏してぶつぶつ言う。

 ミツヒロのスイーツアイディアはすでにネタ切れのようだ。


「ミタラシダンゴ?」

「王女様にイモはさすがにまずくないか?」


 ポテチをこっそり出して、ばれた日にはそれこそ断頭台を覚悟しなければならない。

 じゃがバターやポテトチップスは店主もスベルも知っているが、ミタラシなんとかは知らない。


「みたらし団子は米のダンプリング(団子)に醤油と砂糖のソースをかけたやつ」


「どうせまたソジャをどばどば使う料理だろう。却下だ却下!」


 店主はコスト面から猛反対する。


「それってジャム焼きとそんなに違わなくない?ソースが中にあるか外にあるかだけで」


 スベルはちょっと考えて、首を傾げる。


「もう凝ったもんじゃなくパンケーキにしようぜ」


 店主がなげやりに言い放った。ちなみに、余計な一言を言ったナクト皇子は定時でさっさと帰ってしまっている。



「キラキラタルトにしよう」


 ふいに顔をあげたミツヒロが呟いた。


「キラキラタルト??」


「いや、俺も正式名称は覚えていないけれど、甘く煮たりんごをフライパンの底に敷き詰めてパイ生地で蓋をしてレンチン、じゃなかったオーブンでチンするだけ!」


「そりゃ俺らのアップルパイとどこが違うんだよ。上と下ひっくり返しただけじゃねえか?あ?」


 店主もじいさんの代から西マールの食を支え守ってきたプライドがある。

 最初は物珍しいミッチの国の料理を気まぐれで採用してきたが、ヒューがエレナの留学について行き、料理好きのバルスの皇子までバイトになり。


 客は異国風の料理に舌鼓を打つようになった。珍しい料理を目当てに訪れる客が増えたと言ってもいい。


 ただ、店で出せるメニューの数は決まっている。新しくメニューを増やせば親から引き継いだ、自分が培ってきたメニューを減らさなければならない。


 今まで嫁や子供を食わすことしか考えていなかったが、最近は孫の代までこの店を残すにはどうすればいいかを考えるようになった。


 この店の芯はなにか。『安い、はやい、多い、ついでにうまい』だ。

 この四つのうちどれに重きを置くかは店主の祖父と父と店主、ヒューでそれぞれ意見が割れるところだが、この西マールの住民の食を支えると言う使命だけは忘れてはならない。


(あまり手を広げすぎるのもなぁ)


 ミッチの話では妹だか姉だががりんごの甘煮を焦がしてしまい、パイ生地で蓋をしてオーブンの中に隠したらしい。

 テレビで再現イラストで慌ててオーブンの中にフライパンを放り込む女の子の姿がわりと印象的だったそうだ。話の半分はわからないが。


「もともとアップルパイを作ろうとして失敗したらしいよ。見た目はタルトの縁に生地がなくて、滝みたいに見えるところがー」


「そんな状態でオーブン入れたら焦げねえか?」


「そ、その焦げのパリッとしたところがおいしいんじゃないかな?りんご飴みたいに」


「で、タルトなんとかを食べたことあるのか?」


「な、ない」


 蚊の羽音のように細い声に店主は「はぁー」っとため息をついた。


「ここは菓子屋じゃなくて飯屋なんだがな・・・」


(うまいことできたら、プチトリアノンかスリーズに売り飛ばそう。りんご飴とやらもとりあえず試してみて・・・)



 100年後。


 西マール食堂は『タルト・トリアノン』を巡って、『元祖』か『本家』か、ついでに菓子の名称変更を求めてプチ・トリアノンと争うことになる。


 ・・・先祖の心子孫知らず、である。

スベルがお酒を飲んでいますが・・・この世界では、冬の生姜湯状態です。しっかり煮てできるかぎりアルコールは飛ばしてあります。


※この作品は現実での子供の飲酒を推奨するものではありません。(予防線)


作中光弘が言っているタルトはタルトタタンです。

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