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緑の宮殿

 王都の近郊にあるヴェール(緑の)宮殿。


 元は離宮として建てられたが、現在はここに王族のほとんどが住んでいるらしい。王都にも宮殿があるが、現在は都庁舎みたいな扱いだそうだ。

 別に宮殿が緑色に塗られている訳ではなく、名前の由来は美しく整えられた広大な庭。この宮殿は庭を含めると、王都の倍の広さを誇るらしい。


(庭の散歩に馬車が要りそうだなー)


 庭掃除と部屋掃除の大変さを考えていない作りだ。寺社仏閣を見る癖で、天井にまで目を向ける。


「シャンデリアすげー」


 案内人がごほんと咳をする。


 庭園の一部の植物園には一度お邪魔したが、今考えると維持費大変だよなーとか、思ってしまう。


 落ち着いた客間に通されて、紅茶と茶菓子をいただく。


(このカップ一つが何万なんだよなー)


 と部屋に男が入ってきた。


 着ている服と雰囲気から高官。あと超美形。光弘はとりあえず、胸に片手を当て、頭を下げた。


 十秒ほどそうしていただろうか。ちらっと相手の男性を見るが、にこにこしているだけだ。これって直答OKなパターンか。


「お初にお目にかかります。ドゥ家のミツヒロ・スギタです。」


「はじめまして。楽にかけたまえ。男爵の身で我が王家に要求を突きつけに来たと聞いたが?」


 もちろん男爵に成り立ての平民にそんな真似ができるわけではなく、公爵夫人がなんとかアポをとってくれたのだ。


「お時間をとらせてしまい申し訳ございません。スリーズ家は王家との良好な関係を今後も続けていきたいと思っていますが・・・。私からいくつか条件を追加させていただきたく・・・」


 高官の目の圧がすごい。でも、ここでびびってはいられない。


「第三王子アルフレッド、様とその奥方様、ご子息ご令嬢、将来お孫さまができればそのお孫様も。私とエレナ様、エレナ様の子、孫、公爵夫人、次期スリーズ公爵とその奥方様とお子さま、義妹のミリム様の半径3kmに近づかないようにしていただきたく」


 平たく言うと、ストーカー防止を願い出るものだ。恥をかかされたと、王子が復讐して来ないとも限らない。


「アルフレッドの家族と君の家族が接触しないように配慮せよということだな。公爵をはずしたのは?」


「職務上、関わりを持たないわけにはいかないしょうでしょうから。

 もしそれらを守れないのなら、今度こそアルフレッド王子に公正な罪をお願い致します」


 エレナの兄も、職務上関わりが持つ可能性は高いが、『妹を拐かした者は例え王子であろうと仲良くするつもりはない』と、この提案に乗ってくれた。


 誘拐未遂をやらかしといて、揉み消されるようなことはなってはならない。

 あんなに堂々とエレナが第三王子の罪状を述べたのに、アルフレッドの経歴には未だもって前科がついていない。


『第三王子、元婚約者のエレナ嬢をさらう』と書き立てた新聞社はその次の号で一律、謝罪文を掲載した。『些細な行き違いであり、当人同士の話し合いはついている。十分な取材もせず、身勝手な憶測で記事を書いてしまったことを関係者の皆様と読者の皆様に深く謝罪いたします』


 とかなんとか。


 それでも新聞社名なしの号外がばらまかれた。エレナは王子の罪が消えるのは決してよしとはせず、ブンバーに頼んで、ビラを刷らせたのだ。


 罰はこの際王家と公爵家で勝手に決めてもらっていいが、エレナが望んでもいないのに罪が揉み消されるのは納得いかない。


「面白い要求だね?」


「あと、第三王子から謝罪のお手紙は月一で許容範囲ですが、あくまで次期公爵にお送りください。二枚目以降は王家に通報しますので」


「面白い。手紙を送ることが罪なのか?まあ、謝罪の手紙など書く必要も感じないがな。わかった。細かい範囲は後程決めるとして、その要求を呑もう」


 ストーカーからバンバン手紙が送られてくるのは怖いって発想自体ないのだろう。


「弟が迷惑をかけたね」


「弟」


 弟とは第三王子?つまりはこの目の前のお方が、第一王子か。

 第二王子なら一応聖職者っぽい格好をしているだろうし。


 息がつまりそうになるが、


「王家と王太子への忠誠はいささかも傷つきません」


 一応、それだけは伝えておかねば。元から傷つくような忠義や忠誠はないが。


「近々迷惑をかけるかもしれないが、王家の馬車を損壊し、王太子の時間を割かせた迷惑料だと思ってありがたく受け取ってくれ」


 何度も王宮に足を運ぶのは嫌だったので、王に直に話を通せる人で、ある程度の決定権があって、公爵寄りじゃない人間って言ったが・・・まさか第一王子。


「あの、どんな類いの迷惑で・・・」


「時間だ。失礼するよ。他に要望があれば、ここへ君を案内した者に言うが良い」


「事前にお伝えしていた通り、お会いしたい方が二人」


「ああ、かまわんよ」


 ◆


 光弘が次に訪れたのはレーコの部屋だ。


「アルフレッドが思い余って、エレナ嬢を誘拐したのは同じ女性として許せないわ。だからって、私たちの契約を解除する理由にはならないんじゃない?」


 そこで彼女は、向かいの席から立ち上がり、光弘の横に座る。見張り役の侍女が眉を潜める。


「『食べ物の前には惚れた、はれたなんてどうでもいい』って言ったのはあなたじゃない?」


「誘拐にあなたが関わっていない保証は?」


「そんなわけないでしょ」


 レーコは真っ赤になって怒る。


(でも...。『四年も待てない』くらいは言ったかもしれない)


 それを今確認するのは...。


(許せなくなるかもな)


 深く知ろうとしなければ彼女を利用できる。


「もういい。珍しい食材を見つけても分けてあげないんだから。エレナについているかぎり一生お探しのものは見つからないでしょうね」


「醤油も味噌も見つけました」


「へえぇ?どうだった?平民のー男爵のあなたに買えそう?」


「さすがに躊躇するお値段ですね」


 例え公爵家の財力でも日常使いをするには、かなり厳しいお値段だ。


 ◆


「ドゥ男爵がおいでになりました。」


「そのような者は知らんし、会うつもりもない!追い返せ」


 第三王子は荒ぶっていた。


(普通男爵なんて相手にしないだろうからな。)


「追い返す前に、当事者くらいにはご事情をお聞かせ願いたいものです」


 ブンバーが事前に色々情報を吹き込もうとしたが、こればっかりは先入観なしに自分で判断したい。


「貴様は誰だ!誰の許しを得て入ってきた?私は忙しい!」


 結婚式の準備という名の謹慎を言い渡されているわりには元気だ。


「ミツヒロ・ドゥ・スギタです。王太子殿下のお許しを」


「は?あの平民か?よく化けたものだ」


「なぜ、私の婚約者のエレナをさらったのですか?」


「あのアンリエッタとかいう生意気な小娘と結婚したら、あと四年も待たせることになるんだぞ。どれだけ生意気でもエレナの方がマシだ」


 この国の成人は15歳から。結婚も15歳から認められる。が、付け焼き刃で覚えた人物相関図によると第三王子の婚約者・アンリエッタ嬢は現在11歳。


 一応、王族の結婚というのも順番がある。

 神話ではシャルノに最初に出会ったのは三女神の三女だったが、結婚は一番最後になってしまったという。


 つまりは、王族は三人の妻をめとることはできるが、第二夫人以降は保険。嫁ぐ女性の結婚順というのは、しっかりした地位の正妻が結婚してからじゃないと、第二夫人以降は嫁ぐことはできない。


「そんなことを聞くためにわざわざ乗り込んできたのか?」


「いえ、エレナの半径3km以内に近づかないことを約束していただきたく。王家との細かい取り決めは後程書面にて」


 先程王太子に告げた条件を伝えた。...色々省いてだが。


「はっそんなことでいいのか?やはり平民の力では大したことはできないな。俺としてもあんな品位のない女に二度と関わりたくない」


 ◇


「庭はバカ広いけれど、宮殿はそこまででかくないんだよな。ついでに言うと、王都のサイズって半径2km。そこらへんわかっているのかね」


 光弘はわざわざ王都の最新の地図を取り寄せて『半径3km』の距離を決めた。


 王都は現在進行形で拡張中であるが、仮にエレナが、王都の真ん中にいれば、アルフレッド王子は王都に一歩も立ち入れなくなる。


 王子の臣籍降下による爵位は一応、三代世襲が許されているらしいが、二代目以降はよっぽど重要な土地に婿入りしたのでなければ、伯爵領に移行するのが通例らしい。

 しっかりと功績を上げたところは数代に渡り公爵領を名乗れるらしいが、一代目の間にきちんと貴族間の繋がりを持っていないと、すぐさま落ちぶれる。


 貴族街の一部は離宮周辺に移っているとはいえ、第三王子が直接中央貴族との繋がりを持つのは難しくなった。


 ましてやエレナやエレナ兄が出席するパーティーとかお茶会とか片っ端から出席できなくなる。

 おそらく『王妃様のお茶会』の名目で行われる子供たちのお見合いパーティー的なものも初っぱなから出鼻をくじかれることになる。

 王子王女との縁談は無理でも、ちょっとでもよい縁をもぎ取ろうと山をいくつも隔てた遠方の伯爵領から母親たちが血眼になって子供たちを連れていくのに。



 エレナとエレナ兄一家が王とにいる限り、第三王子は子供を王立学園に入学させることも叶わない。


 そこらへんのことを王子が気づくのはいつのことだろうか?


王都は半径2kmの設定。

江戸(享保最大時)半径2.6kmくらい? ...計算ドジってなければ。


前回お酒補足...お酒については詳しくありませんが、パリの中では税がかかってしまうからパリ近郊でお酒を作っていたようです。今はパリの中ですがモンマルトルとか。

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