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光弘の話3 ガント

過去話はこの回で終了。過去話飛ばした方のために『◆◇』以降にエレナのざっくり要約が入ってますので。

私が書きたかったのはこれだけだったのに、なんで三話に・・・。



 教えてもらった西マール通りに入ったところで、急に寒くなってきた。雨が降りだす。


「あー、もう閉まってるか・・・今日はここで野宿か」


 古着屋らしきものは確認できたが、それももう店じまいを始めている。活気が増しているは飯屋のみ。


「所持金770ロゼ。服も買わないとだし、ガントさんに会うまでは無駄遣いできないな」


 こんな病衣と新聞紙だけではすぐ風邪を引く。


 酒場から漏れ出る酒と飯の香りから離れたくて、飢えをまぎらわすため通りの一歩裏に入る。


 雨の中ゴミ箱をじっと見つめていると、声をかけられた。


「あんた、どうしたんだ」


 ガタイのいいロマンスグレーな髪のおじさん。その後ろにはちょっとこちらを警戒している女性。奥方だろうか。


「ガントさんに酒おごってもらえって?」


「あ。飯の上に、酒まで出せってか?」


(しくじっった!ちゃんと順序立てて説明しないと)


 糖分切れで頭が回っていなさすぎ。


「ごん箱犬みたいに漁ってないで、さっさと家に入れ。夕飯の残りくらいなら、食べるか?」


 漁ってませんと言うことばと涙をグッと飲み込むが、


「あ、ありがとうございます」


 明日には本当に人様の家のゴミ箱を漁っていたかもしれないと思うと涙が溢れた。


「ちっ。ガキじゃねえんだから泣くな」


 ◆


「酒飲んで、飯食ったら出ていけよ」


(酒飲んだだけで助けてくれるなんてそんな都合のいい話ないよな)


「あの僕未成年なのでお酒飲めないんですが」


「がきの一人や二人いるようなナリで何が未成年だ。ちゃんと鏡見てから物を言え」


 ガント(仮)が指差した姿見を見ると、


「へっ」


 立派な?大人になっていた。


(????)


「まあ、いいや、『酒をおごられろ』って言ったんだな?もう飲んでるぞ」


「?」


 食事を用意してくれた奥さんらしき人が光弘のコップを指差す。


「ホットミルクに酒を入れてたんだ。『ピケット』って言ってワインのしぼり粕を水につけたもんよ。火はしっかり飛ばしているから、そこまで酒精は残っていないはずだよ」


(粕汁みたいなものか・・・)


 腹一杯になったところで光弘は床に散らばっている赤い紙に気づく。折り紙にちょうど良さそうなサイズだ。


「お支払できるほどのお金なくって、あのこちらの紙を一枚いただいていいですか?」


「まだほしいのか...なんに使うか知らんが切り落としだ。どうせごみになっちまう。持っていきたきゃ持ってけ」


(芸が無さすぎだけれど)


 光弘は、なるべく正方形になるように紙をちぎって、『鶴』を折る。また踏みつけられるかもしれないが、お金は死守しなければならない以上、できるのはこれくらいだ。


「お礼にもなりませんが」


 できるだけ丁寧に折った鶴をガントに渡す。

 ガントは渡された鶴を一通り検分し、光弘は息をつめてその様子を見つめる。


「性根は悪くなさそうだ。金はいくら持っている?」


 やっぱり、お代払わなければならないか。


「はい。これだけ」


 残金の770ロゼを見せる。


「ばか正直に金を見せるやつがあるか。

 ...自分でアタマ下げにこねーで俺にお前を押し付けたやつ。名前は聞いたか」


(そういえば名前聞いてない!)


「馬車通りの職人で、彼女できたら店で買い物してって言ってたけれど、なんの店かもお名前とかも聞けてないです。お嫁さんとお子さん三人。ピエロと仲良し。あとはー」


「ふ~ん。とりあえず脱げ!」


「はっ?」


「いつまでもそんな薄着だと風邪ひいちまうだろ」


 言われてみれば借りたごわごわタオルで軽く拭いたが、病衣は軽く拭いた程度ではどうにもならない。


「今日は俺のを着ろ。あした朝イチで、イーデスばあさんところ行って、冬物揃えればいいだろ。食堂で皿洗いすれば、飯にありつけるだろうし、家は空き家が余ってる。衣食住、しっかり世話してやらぁ」


「皿割ったりしませんかね?」


「大抵木の皿とかだな。あとは焼き物屋で買った安物の陶器とか。つうか割るな」


 光弘の五年を奪った女神は一応、言語翻訳機能は転移だか召喚だかの特典としてつけてくれたが、本を翻訳する機能まではつけてくれなかった。(そもそも庶民の識字率が低くて必要になる場面はほぼ無かったが)


 最初のうちは酒を飲むのをためらっていたが、普通に賄いにワインが使われているもんだから、『料理酒』『身体は成人』と割りきって、ガントたちに付き合ううちに、次第に飲めるようになった。

 生きることに精一杯で、全く仕事がない日や疲れた後、ガントに誘われるなど理由をつけて酔い潰れるまで酒を飲む。


「他の人に譲った方がもっと有意義に命を使っていたんじゃなかろうか」


 と時おり思っていたところに、エレナと会った。


 ◆◇


「きゃ!」


 エレナが目覚めるとミツヒロの顔のどアップがあった。


(まって!私なにやらかしちゃったのよ!?)


 冷静に寝る前のことを思い出す。


(昨日は結婚式で・・・)


 お酒も飲んでたし、怪しげな薬も飲んで。こんなあり得ないシュミーズで自ら迫っちゃったような気がする。かあぁっと顔が赤くなったところで、


「のわ!」


 ミツヒロは驚いた顔で、ベッドから転がり落ちる。


「まてまてまて俺なにやった!?セーフなのか?アウトなのか?」


「お話ししてそれで終わりだったみたい。たぶん?」


「たぶんじゃなくてだなあ。重要なことはしっかり覚えとけよぉ~。どこもなんともないんだな?」


 確認されても・・・本当によく覚えていない。お互い寝巻きはしっかり身に付けているから大丈夫だったのだろう。


 ミツヒロの話を聞きながら眠ってしまい、気づいたら朝だった。


 眠気にまかせた飛び飛びの話。ずいぶん荒唐無稽の話だった気がするが、よくは覚えていない。


 虎の皮をかぶった死神にこの世界につれられてきて、馬車通りに放り出されたけれど、親切な人にガントさんを紹介してもらったという内容だった気がする。


(それにしてもいきなり馬車通りに放り出すなんて配慮の足りない神様ね)


「俺は何をやったんだぁ!?」

怪しげなお水は普通のお水でした。


謎の人物xが光弘をガントさんのところに行かせたのは、ガントの言うことには基本みんな従うから。

食堂の店主のところに先に行かせたら『怪しげな外国人』を雇わない可能性があったから。ガントに頼まれれば「うん」と言わざる得ないので。


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