光弘の話2 最初の恩人
過去話。辛気くさいの苦手な人は回避お願いします。
「おい!ばかなんでそんなところに立ってるんだよ!」
「立って・・・?」
杖をつかずに両の足で立てている!?
と、喜んだのもつかの間、
「ぅわっ!?」
光弘のすぐそばを「馬車!?」が駆け抜ける。
「早くこっちこい!」
手招きしてくれた男の方に急いで行く。なんというか彫りの深い外国人さんがばりばりの日本語をしゃべっている。
「ほんとに異世界?」
「は?」
「ここはどこ?西暦何年?」
「ロゼリアの王都で、セイレ?・・・たしか1780年だが、それが?なんでそんな薄着で馬車道りの真ん中に突っ立ってた?嫌なことでもあったか?」
男の声を聞かず、光弘は両手をぐーぱーする。 ちゃんと指の先まで命令が伝わる。
「やった!」
が、ぐぎゅうっっと腹の音が鳴る。
男がははっと笑って、りんごを渡してくれる。
「りんご、ちょっと食べるか?」
3╱4も、かじられているりんごを渡されても・・・。
(親切そうな人だし、お腹すいているのは確かだから。人の食べ差しだろうと贅沢いってられないか)
「すっぱいし、しがしが」
「そうか?結構いいやつなんだが」
「一応聞きたいんだけれど、これ使える?」
なんと言っても使えるお金の確保が急務だ。
所持品は病衣とハンカチ、小銭入れ。
病衣のポケットに入れっぱなしだった小銭入れの中身と無地のハンカチを男に見せる。
千円一枚。五百円玉一枚、100円玉二枚、五十円玉一枚に、十円玉三枚、整理してない五円玉と一円玉多数。
「面白いね。はっきり鋳型が出てて、金貨や銀貨にしては軽いようだけれど。こっちは手形みたいだね」
「紙幣ですね」
「線が細かくてすごいなー。何色刷りなんだ。肖像画の線も細かくて、すばらしいな。彫り師天才だな。すげーな」
目がキラキラしている。
「これって両替できますかね」
「うーん。このコインとシヘー。俺が買い取るってのはどうだ?一応元の価値ならりんご何個分だ」
「・・・うーん。安いりんごなら20個分くらいのお値段かな。ハンカチはリンゴ一個分?」
りんごの値段なんて知らないが、一個100円としたらちょっと吹っ掛けてそんなもんだろう。
「一応、あっちが両替商。そっちが古いコインとかを買い取ってくれる古物商。兄弟店だからコインの値付けはさほど変わらんだろうが。あの店でいくら両替してくれるかまず聞いてきたらいい。あと銀行で手形が変えられるか念のため聞いてもいいかもしれない。一通り確認したら、その場で両替するんじゃなくって俺に報告な」
◆
「金も銀もほとんど入ってなさそうって言われて、両替商の方が500ロゼって言われました。古物商の方がコイン紙幣合わせて700ロゼ。銀行はチラっとみて『当行では取り扱ってません』って。ハンカチはレース付きじゃないと売れないみたい」
男が銀色のコインを三枚渡す。
「ハンカチはそれほど興味持たないだろーから買い取らないが、コインは買い取ってやるよ。1500ロゼ。これで無駄遣いしなければ三日分くらいの飯が食える」
「三日・・・」
つまり一枚五百ロゼ。急場はしのげるが、その後のことを思うと憂鬱だ。
とりあえず、お腹を満たそう。美味しそうな匂いが漂っているあの店にでも。
「あ、ばか!」
◆
「すんませんこれで勘弁してください。1000ロゼもするなんて知らなかったんです。ごめんなさい」
三分後。光弘は早速平謝りしていた。
道端に転がっていた新聞紙の端切れを手で折り畳むと、立体的な「鶴」を折って店員に「これで勘弁してください」と差し出す。
(外国なら鶴は珍しいだろうから、お代の代わりになるかも・・・)
とても安易な思考で店員に渡された『鶴』は当然破り捨てられ、踏みつけられる。
「水が1000ロゼって・・・残り500」
路上でパフォーマンスをしていたピエロが光弘を見て笑っていた。
「あんなところで水頼んだらめっちゃ高いぞ。せめて酒にしとけ。というかこの通りの店は軒並み高いから、ワゴンで売っているジュースとかがいいよ。」
日本円を交換してくれた男が教えてくれる。光弘はこくりとうなずきしよぼんとうなだれてしまった。
「せっかく交換してもらったのに無駄遣いしてすみません」
「コップのどれくらい飲んじまったんだ?どのタイミングで注文したんだ。それとも注文も通さずに出されたのか?」
「喉が乾いていたから、『とりあえず水ください』って言って、半分近く?」
メニューが読めないんでとりあえずハンバーグっぽいのの値段を尋ねたら『4000ロゼ』。それで怖くなって水の値段を確認したら、まさかの『1000ロゼ』だったわけだ。
経緯を聞いた男の人はレストランの中にずんずん入っていった。
「ドレスコードに反します。」
「さっきの男の服はドレスコードとやらに引っ掛からなかったってのかよ?」
「変わった服でしたが身ぎれいでしたから」
「メニューを渡す前に水を注文したんだよな~。不馴れな外国人さんに値段の説明もせずにぼったくろうって言うのか?」
ほんのちょびっとだろ!と言う怒鳴り声が響く。
「お客様・・・あまり暴れられると、衛兵を呼ぶことになりますよ」
「別に俺は暴力振るった訳じゃねえ。ノンだ分の代金だけ払う。互いにお勉強代ってことで、手打ちにしてくれないかなぁ~。どうしてもって言うんなら皿洗いでもさせればいいだろう」
「当店の食器は最高級の物を使っておりまして」
それを聞いた光弘はぶんぶんと首を振る。
◆
「さすがに全部は取り返せなかった。」
男はそう言って取り返したお金を渡してくれた。
「えーっと、怖い職業のお人だったり?」
「普通の職人だよ。昔はちょっとやんちゃしてたこともあったがな。お前、手妻使えるのか?」
「手妻?」
「手で、変わったパハリータ折ってたろ。他にも折れるか?」
「ぱはりーた? 一応、簡単なのは折れるけれど?」
「あれが簡単な部類なのか?」
「んー。折り紙の基本」
「よしわかった!」
男は光弘の腕をぐいっと掴んでピエロの前に連れて行った。叩き出されたとき笑っていたピエロだ。
「こいつの技を見てたんなら、見習いにしてやってくれねえか」
◆
「笑顔が足りねえ。顔にペンキ塗った来るのもいやと来ている。お前が拾ったんだからお前が面倒みろよ」
「かみさんにこってり絞られたあとなんだ。今もこっちをにらんでるな」
「もうすぐ寒くなる。顔は珍しい顔だちしているんだ『花園』を紹介してやった方がいいんじゃないか?でないと一ヶ月後には凍え死んでしまうぞ」
◆
ピエロと男がこそこそ話し合っている声はしっかり光弘にも聞こえている。そして、若干煙い。
昨晩はピエロの家の『軒先』に泊めてもらった。が、それでもかなり渋られた。
「はあ、僕本当に三日後に死んじゃうかも」
屋台の安い手羽先の丸焼きを一個恵んでもらったが、それだけでは足りない。
「カップ麺死ぬほど食べときゃ良かった。ハンバーガー食べたい。照り焼きチキン・・・。豚まん」
「俺も、いつまでもお前に構っていられない」
「迷惑かけてすみません」
一応、二度と水とかぼったくれないように、と数字だけは軽く教わった。
「おまえだってあそこで凍えながら死ぬ日を待つのは嫌だろうから、ダメだったら別のところを紹介してやる」
男の視線につられてなんかヤバげな細い路地の方に目を向ける。ガリガリに痩せた人が目に入って慌てて目を逸らした。
「まず、西マール通りって言ってな。こっから三筋向こうの通りだ。そこから教会に抜けるまでのちょうど真ん中に『ガント』って紙工房があるんだ。その隣に古着がいっぱい積まれている店があるから、見つけやすいはずだ。近くに食堂もあるが、先にガントってじいさんに会って、なんでもいいから気に入られて酒を一杯おごってもらえ。ついでに飯もおごってくれるはずだ」
「おごるんじゃなくて、おごられるんですか?酒飲めないんですけれど?」
光弘は17歳。未成年だ。
「・・・俺だって嫁と、子供三人食わせてやらねえといけねえんだ。じいさんに気に入られれば当面の衣食住はなんとかしてくれる」
「ご迷惑をおかけしてー」
「そこまでへこへこするな。金が貯まって、彼女でもできたらうちの商品買ってくれればいいよ。たぶんしばらくはここらで商売していると思うから。金なくてもたまに顔を見せにこいよー。」
彼女どころか、明日の食料さえヤバいんだが。
豚まん...肉まんのこと。




