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八重桜のくす玉とパトロン

 一週開いてしまったが、『八重桜のくす玉』は完成した。


 20のパーツを辻褄を合わせるように寄せて、引っ張って、押して、接地面を丁寧にのり付けしながら、繋ぎ合わせる。隙間は最小限になったはず。


「ふー。できた?」


「すばらしいです!完璧です!可愛らしいです!お嬢様」


 侍女の白々しい誉め言葉でも、うれしい。


「うん。きれいにできてるよ」


「っ!」


 ミツヒロの笑顔と素直な誉め言葉になぜか一瞬胸がきゅんとなった。


 手の中の花をあらためて見る。

 五片の花が二重になっていて、華やかさと儚さが同居した美しい花飾りになっている。


 はじめてにしては上出来ではなかろうか。


「それ、数ヵ月でぽろぽろ花が散っていくから取り扱いには十分注意ね」


「え?」


 あんなに何度もはり付き具合を確認して、のりを隙間に補充したのに。それよりー


(枯れない花じゃなかったのー!?)


「強力なボ○ドがあればいいんだけれどね。無いもんはしゃーない。あと当然水には弱い」


 ボ○ドとはそれほどすごい物だろうか?


(どこにあるかは知らないけれど、手に入れる方法はないかしら)


 ◆


「一応、目的は達成したけれど」


「まだよ!」


 全然目標にはほど遠い。


「そうなんだ? こっちとしては通ってもらえるのはありがたいけれど、折り紙を極めても、どっかの大学に一芸入試するしか役に立たないんじゃないかな。悪や...貴族令嬢ならほかにすることがあるんじゃ」


「一芸入学?意味はわかりかねますが、王子を見返すためにはあなたにビッグになってもらわなければ」


「は?ビッグ?意味がわからないのこっちなんだけれど」


 ミツヒロの困惑を他所にエレナは構想(ゆめ)を語り出す。


「まずは壁を全面ガラス張りに...」


「へ?なんで」


「外からなんの店か見えやすくする必要があります」


「いやいやいや、そんな金どこにあるよ」


「お金なら心配要りません。わたくしが出します」


「なんで?」


 また彼から疑問の声が上がる。

 窓一つでなぜそこまで疑問符がつくのだ。これは夢の第一歩。ここでさくさく話を進めないと計画(ゆめ)は前に進まない。


「パトロンになろうと言っているんですのよ?」


「ぱ、と、ろん?」


 彼は初めて聞く言葉のようにキョトンとしている。まだ、わからないようだ。


「お嬢様はあなたを支援しようと申し出ているのです」


「なんで?」


「それは・・・あなたの作品に感銘を覚えたからですわ」


「つまりは君が俺にお金をばらまいてくれるってこと?」


「まあ、そういうことになりますわね」


 言い方が汚ならしいが、庶民の感覚では直接的な言い方が好まれるのだろう。


「どこに感動したかはわかりかねますが、たまたま知り合っただけのお客様にーお貴族様にそこまで恵んでもらう義理はないですよ。平々凡々に生きていけたらいいと思ってますんで」


 丁寧に頭を下げられる。が、言葉にとげが含まれている。


「なんて向上心のない!せっかくのチャンスですのよ!」


「君が価値を見いだしてくれたことはうれしいけど、そういうのはいらない」


 顔を上げた彼の表情は険しかった。


 ◆◆


「もらえるもんもらっときゃいいのに」


 エレナから話を聞いたイーデスは呆れた。

 ミッチーに対しても、目の前の少女に対しても。


「お嬢ちゃん物事には順番と言うものがあってだね・・・」


 イーデスはエレナを諭す。


「あいつからしたら、いきなり現れたお貴族様に、それも女に『床にばらまいたからさっさと拾いなさい』って命令されたんだよ?」


「?」


「まあ、男の小さなプライドが傷つくんだろうよ。支えてやるなら、もっと小さなことから支えてやんな」


「窓一つくらい大したことではー」


「行きすぎた施しはあいつには重荷になるんだろうよ。あいつに惚れたんなら、金じゃなくて別のことで助けてやんな」


「はあ!?ちが、違います!!」


「あいつの技術に惚れたのなら、ね」


 ◆◇◆◇◆


 頭の軽い令嬢の背を見送りながら、イーデスは呟いた。


「あいつは、ガントが助けてなければ、今頃物乞いかごみ漁りか...盗人には向いてなさそうだが、死体のどれかになっていたろうよ」


 ◆


 去年の今頃、この時期にはありえない薄着でここらをうろついて。黒髪の青年はガントの家のごみ箱をじっと見つめていた。

 人の家のことだから、こっそり見物させてもらっていたが、三十分ほど経ったころガントが声をかけた。


 黒髪の青年は運が良かった。イーデスの家のごみ箱で同じことをやられていたらさっさと追い出していたろう。


『そりゃ、俺だって、飯食わせたら追い出すつもりだったよ』


 とガントは後に語った。


「お礼にもなりませんが」と言って青年は小鳥を折ったそうだ。

 なにも持っていない身でささやかなお礼をしようとするその姿勢が気に入ったらしく、ガントは空き家をタダ同然で貸し、食堂の坊主に掛け合って職を世話してやった。


 で、ミッチーがやっと人並みの生活ができるようになった頃に、あのお嬢ちゃんは大金を目の前にばらまこうとした。


「せっかくの金づる逃しちまってもったいないねぇ」

今のところ、のりで作った作品が三ヶ月間無事持ちこたえていますが、ケチって一回り小さく作った『梅』は接着面が小さすぎたのか一ヶ月ほどで散ってしまいました。(^o^;)


お読みいただきありがとうございます。ブックマ、評価、いいね、ありがとうございます。

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