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ブーケ

「本日はご足労いただきありがとうございます」


 礼を述べたのは本日の新郎だ。花嫁の休憩の隙にこちらの貴賓室に来たのだろう。


「いえ。父は、パーティーに出席できぬこと本当に残念がっておりました。改めてお祝いの宴を開くと言っておりましたわ」


「ありがたきお言葉、感無量にございます。アデレート様、こちらに食事を運ばせますので、おくつろぎのあと、お好きなタイミングでお戻りいただければ」


(アルフレッド王子も本当に余計なことをしてくれたわ。なにもこの時期にことを起こさなくても)


 本来なら、このパーティーには父が出席し、新郎の肩を叩いて、きれいに整った髪をくしゃくしゃにして喜びを分かち合いたかったろうに。

 父は式には公人として出席した。が、パーティーのほうは今朝までぎりぎり悩んで、名代として十歳にも満たないアデレートが出向かせた。当然場馴れしてない少女は、慣例通りの言葉を述べるしかできなかった。


 本来は、新しく一家に加わると言う少女と仲の良いパフォーマンスを見せれば、良いのかもしれない。が、レオンには良くしてもらっているが、公爵の庶子とまで仲良くするつもりはない。


「ええ、適当に見て回って帰ります。本当におめでとう。レオン、シャーリーさんにもお祝いの言葉をお伝えしておいて」


 父が数少ない『私』を出せる場だったのに・・・。


 スベルに会う前のアデレートはイライラがちょっと溜まっていたのだ。


 ◇


 憂さ晴らしに見つけたせっかくおもちゃは、最初の頃は自分を無視して絵を描いたりとか、母親の呼び方とか、父親の名前をもらったとか自慢して、とにかく気にくわなかったが、少年から語られる庶民の話は面白かった。


「家の場所をかたくなに教えなかったけれど、エレナ・スリーズ公爵令嬢のお友だち関係を当たれば割り出せるかしら」


 庶民が自分より美味しくて楽しそうな物を食べているなんて許せない。絶対たこ焼きとやらの正体を掴んでやるんだから!


「アデレートお嬢様、あの子供に不用意に近づいてはなりません。気配の消し方、身のこなし。暗殺者かもしれません」


 少年と語らっている間、少し離れていた護衛が近づいてそんなことを言ってくる。


「あら、とてもそうには見えないけれど」


 少年の態度はゆるゆるのほわほわな感じがしたし、とても非力そうな見た目をしていた。


「子供を暗殺者に仕立てあげ、油断した政敵を斃すなどということは珍しいことではありません。子供でも決して気を抜かれませんように」


「本人の名前。母親と父親の名前。職業。出入りの業者としてだけでなく、エレナ・スリーズと私的な付き合いのある人間。これだけ情報が揃えば、見つけるのは簡単ですよね?」


 アデレートは聞き逃していたが、護衛は会話に出てた人間の名前をすべて記憶しているだろう。


「もちろんでございます」


 ◆◇


「はー、疲れた」


 ミッチの時のように通りの名前を言うなんて大ポカをやらなかったから、大丈夫だろう。


「疲れたのはこっちだよ。ったく」


 母に遠慮無く頭をはたかれる。(もちろんイザベル的には最大限加減しているが)


『続きましてはブーケトスを行います。東方の結婚式の風習で、花嫁から花束を受け取った者には幸運が訪れるそうです。皆様お近くに』


 はじめて聞く風習に皆戸惑うが、参列者が数歩、新郎新婦に近づく。


 花嫁が後ろを向き、ミニブーケを背後に投げる。

 花嫁の腕力がすごかったのか、風向きが良かったのか。

 予想に反してミニブーケは、参列者の壁を越え、少し後ろの方で見学していたイザベルたちの方に飛んできた。子供たちが手を伸ばすが身長が足らない。ナクト皇子が、すっと手を伸ばすとブーケは彼の手に収まった。


「イザベルさんたち家族に幸運が訪れますように」


「あんがとさん」


 受け取ったイザベルは渋い顔をしながら受け取る。貴族からの視線がイザベルに集まっているところで。


「まま・・・おかあさんケーキ」


 スベルは一言声をかけてから遅れを取り戻すべく、ケーキに向かおうとするが、イザベルに手を捕まれてしまう。


「あんたはケーキの前に説教!」


 がっつり母親に手を捕まれたままのスベルに兄たちが自慢げにママンのダンスの話をする。


「残念だなおまえ、説教の上にかあさんのダンス見えないなんて」「スッゴクきれいだったのになー」


「にーちゃんたちが置いてっちゃうから、ママンのダンスみのがしちゃったじゃないか!僕も見たかった!」


 変な女の子につかまらなかったら見えてたのに!


 (※兄二人はダンスのあとも弟のお迎えを忘れてご飯を食べていたが・・・)


 ◇


「見たかった!見たかった!見るまで絶対帰らない!わぁーん。」


「こら!恥ずかしいからおよし!」


 (貴族の注目が集まっている時にわざわざ駄々をこねなくても)


 イザベルが叱るが効果はない。

 普段が比較的おとなしい子なだけに一度火がついたらなかなか大人しくなってくれない。今、ケーキを渡せばおとなしくなるかもしれないが、泣けばおやつがもらえるなんて思ってしまうのは子供の将来のためにも良くない。


(幸運のブーケがどこの誰ともしれない踊り子に渡っただけで、因縁つけられそうなのに・・・)


 なにより、せっかく招待してもらった友人の兄の大事な結婚式を大盛り下がりで終わらせるのは、申し訳無さすぎる。


 楽団が音楽を奏ではじめた。楽団のリーダーらしき男がぱちんとウィンクをする。

 レペスの曲とは違うが、曲調はほぼほぼ同じ。たぶん踊れないことはないだろう。


「はーしゃーないか」


 酒を一杯だけ飲むと前回と同じ寸劇仕立てで、ナクト皇子をパートナーに踊る。

 ナクトにブーケを渡すと、ナクトはイザベルの意図を理解して近くにいた女性に花を渡す。後半は子供たちも参列者も輪に加わり、ブーケは皆の手を渡ってフィナーレとなった。


「幸運はみんなで分かち合った方がいいだろ。満足したかい?」


「うん...。」


 はしゃいで疲れたのか、スベルはまぶたをパチパチさせている。


「明日しっかり叱るからね。おまえたちもだよ」


 当然イザベルは弟を放置していた兄二人にも罰を下すことを忘れない。


「あれ、ミッチは?」


「たぶん色々ありすぎて帰れんだろうよ」

タイトルと内容がイマイチ合ってませんけれど。ビシッとしたタイトルが思い浮かばず。


エレナのお兄さんのお名前レオンで決定。婚約者さんのお名前忘れて、危うくジェ○ミアとつけるところだった。

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