新たなミッション
「ダンスパーティーも無事終わったことだし、次のミッションよ!」
エレナの宣言に、集められた一同、光弘、イザベル、ベル三兄弟、イザベルの弟子の二人は怪訝な顔をした。
「まだ、なんかあるのか~。もう俺恋人に振り回されまくってへとへとなんだが。水着姿10秒じゃわりに合わないんだが」
「次は、仕事の依頼よ!ちゃんと報酬がは発生するわ。」
「また折り紙教室か~」
定期的に、収入があるのは嬉しいが、やっぱり準備に手間取るし、思い通りにいかないことも多々ある。ビオラや子供たちが加わってかなり楽になったが。
「次は結婚式よ!」
「「「「「「「はああっ!?」」」」」」」
◆
公爵家の客間。
エレナ兄と兄の婚約者の向かいに、光弘と書記のスベル、保護者のイザベルが座っている。ふかふかのソファーで、スベルはおしりをぴょんぴょん跳び跳ねさせるが、イザベルにすぐに頭をはたかれおとなしくなる。
この人選に若干の不安を覚えるが、選んだのはエレナで公爵家の正式な招待。文句を言える訳がない。
「ふふふ。元気のいいお子さんですね」
「俺たちも早くあんな元気な子」
エレナ兄たちが甘い雰囲気を漂わせはじめ...。後ろに控えていた男の人が空咳をする。
「公爵家の庭でガーデンパーティーを行う予定でね。エレナちゃ・・・エレナさんの作品を飾り付けたいの。くす玉というものも気に入ったし、千羽鶴も飾りたいわ。大きな手裏剣や、山のような兜も。各テーブルに小さな折り紙を置いて。ダメかしら?ネックレスや髪飾りもお願いしたいわ」
「はあ」
光弘が生返事をする横で、スベルがノートに要望を書き取っていく。
「え、その結婚式に折り紙のネックレスや髪飾りを身に付けるんですか?」
「もちろん、結婚式はふさわしい装飾品を。ガーデンパーティーでは多少のお遊びも許されます。本当は結婚指輪もイザベルさんにご依頼したかったのですが・・・」
「と、とんでもありません!」
さすがのイザベルも緊張ぎみで、降って湧いたビッグチャンスに飛び付くような真似はしない。
エレナの指輪が新聞に載って以来、依頼が殺到して忙しくしているとはいえ、将来の公爵夫人が正式な場で身に付ける結婚指輪としてはふさわしくない。
10月下旬に結婚予定らしいから、とうの昔に老舗ジュエリー店に依頼済みだろうし。
「えー。その、大変ありがたいお話なんですが、会場も方もウエディングプランナーみたいな業者さんがいらっしゃるんでしょう?私どもがそこに割り込むのは・・・」
「ちょこちょこっと付け足すだけですもの。そうでしょ?」
次期公爵夫人(仮)が、背後の男性に声をかける。
「はい。わたくしどもは新郎新婦様に大切な日を思い出に残る最高の一日にするのがお仕事です。よろしくお願い致します」
背後の男性はりつけた笑顔を返す。
執事さんかと思ったらこの人がウエディングプランナーさんみたいだ。
「そのお話が大きすぎて、一度、工房に戻って検討させていただきます」
とりあえず、光弘たちは互いに頷き合った。逃げの一手。一気に茶を飲み干す。が、
「ねえ、お菓子持って返ってもいい?」
帰ることを感じ取ったスベルが無邪気そうにそんなことを言ってくれる。
「「だめに決まっているだろ!」」
「だってお兄ちゃんたちの分も」
お皿に盛られた茶菓子の山をたっぷり未練げに見つめる。
「ふふふふ、お兄ちゃん思いのお子さんね」
「俺たちも兄弟思いの子をー」
(いや、俺にも妹がいるからわかる。『自分の分+ついでに兄たちの分』が本音だ!)
「そのクッキーと、それに合う茶葉もお包みしますね」
エレナの一族は十分対策を練ってから...。
「イザベルさんは残っていただきたいのですけれど...」
「...は、はい。」
「ふふふ。取って食おうだなんて思っていませんわ」
「...私に何かあったら、子供たちを頼む」
悲壮な顔で急に子供を託されても困る。
その日の夕方、イザベルは五体満足で帰ってきた。
◆
「ってことでどーするよみんな?年少組から意見をどうぞ」
昨日、渡してもらったクッキーとお茶を先日エレナが集めたメンバーに出し、皆が一通り茶をすすったところで光弘は話を切り出した。これを飲んでしまったからには皆関係者だ。
子供から先に言っといてもらわないと、大人の意見に左右されて考えを引っ込めてしまうかもしれない。
「僕はせっかくなので受けた方がいいと思います」
「シャーリー様にはよくわたくしどもの品を購入いただいております」
イザベルの弟子二人はエレナの提案に興味津々。飛び付きたいようだ。
「んー、僕は失敗したときのリスクを考えると・・・一生に一度の晴れ舞台、エレナの家が悪口言われちゃうのはイヤ」
「まず、会場を見てみたい。」
「雨の時はどうするんだ?屋敷の中も飾り付けるのか?」
スベル、ネソベル、ダベルがそれぞれ発言する。
「私は、折り紙の方はタッチしないけれど、普段使いの結婚指輪の依頼は受けた」
イザベルの一抜け宣言に光弘が目を瞬かせる。
「普段使いの結婚指輪?」
「なんか、公爵家令嬢の婚約指輪や結婚指輪って公爵家の家宝だったり、王家に嫁ぐ場合は国宝が貸し出されたり、まあ、公式な場以外は宝物庫に厳重に保管されてて、日常使いに向かないんだと。
最高の宝石と最高の金属で最高の品を作ってみせるから、折り紙の飾りつけはそっちで勝手に決めてくれ」
「エレナは?」
「ビッグになるチャンスよ!」
「また、それか...。エレナがお兄さんの婚約者に無理強いしたんじゃないよね?」
「違うわよ。お義姉様は純粋に私たちの作品を気に入ってくれたのよ」
エレナが唇を尖らせる。
「絶対受けるべきよ」
◆
『とりあえず現場を確認してから結論を出そう』ということで皆の意見は一旦まとまった。
「スリーズ公爵邸のお庭を見学させていただきたいのですが・・・。披露パーティーでは、キャンドルサービスみたいに火を使う可能性はあるのですか?」
ダンスの練習の時は、ダンスを覚えるので手いっぱいで、庭の中を散策するとかは無かった。
大きい兜やら手裏剣やらを作るのは構わないが、風に吹かれて飛んで行ってしまうとかは不味い。
「キャンドルサービス?」
エレナの兄の婚約者は逆に問い返してくる。
「え、なんか招待客の各テーブルに二人で回って。ろうそくに灯をともすとか」
「ほうほう。他には?」
「えー。ゴンドラとか?ドライアイスでスモークとか?」
ウエディングプランナーさんの目は『プランを勝手に変えるな』と言っている。
「あとはブーケトスとか、新郎が新婦をお姫様だっこするとか。なんか、テディベアのセットに『ウェルカム』のカードを持たせて入り口に飾るとか。外国の式とかだったら、車・・・馬車にかんかんつけて」
そもそもこの世界で缶詰を見かけたことがないが。
「それらはどんな意味があるのかしら」
「いや、俺・・・詳しくないし」
親戚の結婚式に二度出ただけだ。
シャーリー・・・エレナ兄の婚約者。この話を書く五秒前には名無しでした。エレナ兄の名前は必要になれば作る・・・たぶん。
イザベル、露店売りしている時に次期公爵夫妻とは知らずに、何度か吹っ掛けた過去が...。どっちにしろ公爵家ならおもちゃのアクセサリーくらいの値段です。




