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パーティーのあと

 その日の夜。


「あー!楽しかった!」


 エレナは手足をうんっと伸ばし、ベッドに倒れ込んだ。


 一ヶ月半ほどデートを潰してのダンス練習だったが、それに身合うだけの喜びはあった。

 礼服を着ているミツヒロはそれなりにかっこよかったし、身を寄せたときの優しい香水の香りも素敵だったし、真っ赤になって半歩距離を取るさまも、かわいかった。こっちまで顔が赤くなってなかったろうか。


『相手はジョシコーセー相手はじょしこーせー』と謎の呪文を唱えていたのが気になったが。


 第三王子がもめにもめている横で楽しく踊れたのはサイコーだった!


 もう、九月だ。


「卒業まであと半年・・・か」


 それを考えると物悲しくもあるが、感傷に浸っている暇はない。


 後悔しないように、予定をバンバン詰め込んでいこう。


 ◆◇


 翌日、光弘はブンバーから「お疲れさまです」という労いの言葉と共に、パーティー前日の新聞を渡された。


『王立ロゼリア学園の舞踏会に令嬢xと当誌小説家が極秘参加。初の公の場でゲリラサイン会(か)!?』


 最後の『か』の部分をわざわざ小さく書いている。


「もともと恋人というのは公然の秘密になっていて、私はちょっと二人に力をお貸ししただけです」


 ブンバーがいい仕事をしたとばかりに、笑顔で種明かしする。


「変にヒソヒソと品定めされるよりか、ちやほやされているほうがましだけれど」


「いや、あんなに隠れファンがいるとは、ミッツ先生も作家冥利につきますね」


「いや、隠れてなかったし。えっ。ブンバー会場にいたの?」


「そりゃあ、公爵夫人の伝があればなんとか。嫁と一緒にいましたよ。まあ、仕込みは、公爵夫人のご依頼でしたし」


「依頼?」


「エレナ様に恥を掻かせないようにっていう公爵夫人の計らいですよ」


(リヨン先生が早いタイミングで声をかけてきたのももしかして仕込み?)


 高校時代の三年間のダンスパーティーの一回だけでも楽しく過ごして欲しいという親心だろうか。


「次の記事は『十一才公爵令嬢のハリセンビンタ事件の真相に迫る』ってー」


 見せられた絵は、わずか十一才の女の子が、第三王子の口を扇で封じているシーン。


「やめろよ」


 ◆


 さらにその翌日。


「はい。ミツヒロ」


 工房を訪れたエレナから大きな箱が渡される。


「これって?」


「パーティの時に着たお兄様のお古他、正装一式。もちろんクリーニング済みよ。これで、観劇も二人で行けるわ」


「いや、いらんし、チケット代が・・・」


「もう、お直ししちゃったし、ミツヒロの靴とか小物一式、置いてても捨てるだけですもの。知ってる?公爵家って、頼んでなくてもチケットやら招待状があちこちから渡されるのよ。当然無料で」


『捨てる』『無料』が光弘の魂を強く刺激した。


 すなわち、


「捨てるのはもったいないよな」


「ええ。そうですわよね。ということで来週、観劇に」


 机の上にずらりと並べられるチケット。


「恋愛物よりか、友情物とか、アクションとか、新・・・どたばたした感じの喜劇とか・・・」


(映画見に行くと思えば・・・さすがに恋愛物はこっぱずかしい)


 もちろんエレナが選んだチケットは友情も、アクションも、喜劇もある恋愛物だったのだが。


 ◆


 その日の夜遅く光弘は食堂を訪れた。

 客の半数がゲラゲラ笑い、四割が酔いつぶれ、一割が口論からの殴り合いの喧嘩をしている時間帯。


「手紙来てる?」


「来てるぞ」


 店主に渡された紙質の悪い手紙の差出人はレミ。

 そこで、店主はぐっと声を落とす。


「で...俺はいつまで浮気の仲介をしないといけないんだ」


「だから違うって」


 そう言いながら、手紙を大将に渡す。

 こちらは差出人をミシェルとしている。


 『ミシェル』はこの国ではありふれた...男女ともによく使われる名だ。

 『レミ』はこちらでは男性名だ。


 本当の送り主はレーコ。


 『オフで同郷の者と会うことまでは制限される云われがない』と言えたのはエレナが帰国するまでー。


 エレナと付き合うことになってからは、さすがに直接会う訳にはいかず、偽名を使って手紙をやりとりしている。


(さすがに手紙のやりとりまでは浮気じゃないよな・・・?)


 色気のある内容じゃないし、と光弘は心のこっそり言い訳を付け加える。


 店主に渡された手紙は、この商店街とは別地区のグループの子供の手によって運ばれるらしい。


 安酒を一杯飲み本来の勘定より多めの金額をカウンターに置いて、足早に家に帰った。


 早速手紙を開けてみる。手紙の中身はいつも通り日本語。中身もいつもの情報交換。そして、


『はじめてにしてはよく踊れてたんじゃない?』


 というおほめの言葉と共にー


『エレナはあなたを裏切っている』


 の一文が添えられていた。


「うーん?」


 もっとも疑われるのは浮気。


 仮に浮気だとしても、こっちにもびみょーにやましいことがある。

『あなたも女性とのやりとりしているじゃない』と言われれば反論しようがない。むしろ相手が見つかったのなら喜んで祝福しよう。


 水面下でお見合いが進んでいるならば、それはそれでよし。婚約が本決まりになるまでは光弘と付き合っていたいというなら、別に構わない。

 婚約が正式に決まったなら二股疑惑防止のために早めに告知してほしいが...。


「慰謝料請求されたりしたら困るけれど、特に怒ることじゃないよな~。」

光弘の現在の年齢・・・二十代半ばとだけ。この作品は健全な男女交際を目指しております。(水着回はどうしても入れたんです。ごめんなさい)

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