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イーブンとは?

 エレナとミツヒロは月三回のデートで、手を打つことになった。

 まあ、西マール食堂での食事やらを含めるともう少し多いのだが。


 一応、六月中には大聖堂での慰問も済ませた。大司教は講演みたいなことを望んでいたようだが、エレナは『神様からいただいた励ましのお言葉は、わたくしの心の中で秘めておきたく存じます』と答えて、講演は断固拒否した。



 今日はエレナが異国で気になった料理の試食会。


「フーロって王族の留学の度に各国の料理を自国の食文化に取り入れてるの。で、これがフーロで発見したミートボールスープよ!」


 エレナは自慢げに言っているが、作ったのはあくまでヒューだ。


「ってミートボールでか!?」


 スープの中には、じゃがいも、えんどう豆、そしてハンバーグサイズのミートボールがどんっと入っている。


「ミートボールは挽き肉と米でできていて、中に梅干しが入っているのよ。一応安全のために種は取ってあるから」


 にっこにこで説明するエレナ。


「あ・・・りがと?これを俺にどーしろと?」


「故郷の味にちょっとでも近かったらなって」


 100%善意の笑顔。梅干しと米から日本を連想してくれたのかもしれない。


(梅おにぎりとかは好きだけれど、梅肉使った肉料理はちょっと苦手なんだよなぁ。...素材は知っている範囲の物。たぶん大丈夫!)


 フォークとナイフで大きなミートボールを切り分け、一口食べる。


 覚悟してたような感じではなく、外国の料理としてみると普通といったところ。この国でたまに紛れ込むどんびきメニューよりかは全然普通。


「不思議な...味だね。僕の国の味とはちょっと違うけれど」


 まあ、年に四回くらい食べれば十分なお味だ。


「けっこういけるな」


 大将がそう言って笑う横で、エレナはちょっと残念なようなほっとしたような顔をした。


◆◇


 次のデートは、馬車通り。露店の小物を手に取ったり、劇や大道芸を見学したり。


「ねえ。どれがいいと思う?」


「買わないぞ」


 バッサリである。

 もちろんミツヒロからは『どれがほしい?』とかそんな言葉はでないが、子供のわがままをたしなめるみたいにばっさり切るのはどうかと思う。


(ちょっとは期待したけれどさぁ。真っ赤になって指輪をプレゼントしてくれた彼はどこ行った)


「そうじゃなくて、こっちとこっちならどっちがいいと思う!」


 髪留め二つを指差して、訪ねる。二択にすれば、さすがに選んでくれるだろう。


「自分のもんは、自分で決めればいいんじゃ」


「どっち!?」


 しぶしぶといった感じで、彼は髪飾りを軽くエレナの髪に近づける。


「んー。どっちもかわいいと思うけれど」


「~~っ!?」


 急にかわいいとか言うのやめて!



 結局エレナは自腹で髪留めを二つとも買い・・・ミツヒロはあるピエロの前で立ち止まる。


 ナイフを何本も投げ、時には手品のようにナイフをどこかに消して、代わりに卵を投げる。

 ショーが終わって、お客に丁寧な礼を終えたピエロにミツヒロは声をかけた。


「よ、ひさしぶり」


「どなた?」


「この国に来たときにいろいろとな」


「いっつもはしょぼいのに今日は結構な額を落としてくれてありがとよ! 」


「一応二人分、あとで徴収する。で、あの人会えた?」


 いや、徴収なんて聞いてないし。


「・・・うんにゃ。もうすぐで二年になるからやっぱりもうここには来ないー」


「うん。でも見かけたら、お礼伝えといて!」


「ああ、わかったよ」


 去り行くミツヒロの背に、涙目に彩られたピエロがほんの少し悲しそうな笑顔を向けて手を振っているように見えた。


 ◆◆


 馬車通りの後は、二回続けて神殿めぐり。順調にデートを重ねて、七月も半ばを過ぎた頃。


 エレナとミツヒロは植物園を訪れていた。

 そこらの公園だとマスコミに邪魔されてゆっくりできない。前の神殿めぐりにも幾人かに尾行されていた。


「ミツヒロの国のお花あったりするの?」


「んー。花とか詳しくないしな。実が成っていたらちょっとはわかるかもしれないけれど...」


 エレナがたまに「きれい」と感嘆するのみで、ミツヒロは草花にあまり興味がないようだ。


「こ、恋人つなぎというのをしてみたいわ」


(恋人つなぎってあの互いの手をがっつり絡めるやつだよな)


「手は前も繋いだろう・・・」


 人混みに呑まれないように軽く手をつないだ程度だ。スベルを送り迎えするときとさほど扱いは変わらない。


「人前でするのは恥ずかしいけれど、これだけ静かなところなら・・・」


 平日の昼。王宮の外庭にある植物園は人がまばらで静か。

 その静かな植物園で見事な『見本』が仲良く歩いていた。またもやブンバー夫妻だ。


「よく見ろ!あれは罠だから!罠!」


 ◆


「もうすぐで私たちが出会ったあの日よね」


「まだ、一ヶ月以上先だろう」


 去年の九月の始めごろだったろうか。そういうのも記念日としてお祝いしたほうがいいのだろうか?


「そうよね。まだ一ヶ月以上あるわよね?」


 エレナがにこやかに微笑む。


(なんかやばい罠にかかった気がする)


「私、一度でいいからちゃんとパートナーにエスコートされてみたいの」


「は、話がつかめないんだが」


「二学期初のダンスってテストも兼ねてるの。一昨年は王子のエスコートがつかずに50点。去年はやっぱり王子のエスコートはなく、その上踊る前に婚約破棄されて会場を逃げ出したから、屈辱のゼロ点で、補習受けたのよ」


「いや、俺、完全に部外者。学園には入れないだろう?」


「その日は、デビュタントの練習も兼ねているので、パートナーであれば入れます。婚約者の歳が離れていて学生では無い場合もございますでしょう?平民なら厳重な身体検査の上で、入ることになりますけれど」


「え、エスコートとかそんなん俺にはー」


「一度でいいから恋人にエスコートされて、ちゃんと学園の大広間で踊りたいんですの! ダメ・・・ですか?」


 最後は弱々しく懇願されてしまった。


(要求がさりげに増えてるし!)


「・・・・・・ぐぅ。俺、踊ったこと無いけれど」


 いや、体育で嫌々踊らされたことはあったが、この世界のダンスとは全然違うだろう。


「私、パートナーと楽しく踊った思い出が一つもないまま卒業してしまうのね」


 ダメだ。このままじゃ潰れる。押し潰される。付き合っている限り延々と。いやきっと付き合っていなくても。


「いいかげんにしろ!俺は、貴族の気まぐれでボロボロにされるおもちゃじゃない!無理難題押し付けてくるな!」


 今まで溜まっていたモノに急に火がついて、自分でも思いもしない大声が出てしまった。


「っ!!わたし・・・そんな」


 泣き落としでなんとかなると思ったら大間違いだ。


 勝手に貴族化されるのも気にくわないし、例え完璧なダンスを披露したとしても、貴族のお坊っちゃま、お嬢ちゃまがたは光弘を笑い者にするだろう。


 エレナは目を潤ませると走っていってしまった。


「『貴族令嬢と平民の恋』特集が第五回でまさかの終了か~!?」


「ブンバーおまえ、いい加減にしろよ」


「走りなさい・・・」


 サンドラに剣を首に突きつけられる。


「走ってどうするんだよ。絶対出ないからな!」


「あなたは、お嬢様と本当に何もないまま終わるつもりですか?たしかに、あなたはお嬢様のペットではありません。せっかく恋人になったならお嬢様のわがままを叶えるだけではなく、一つくらい自分の無茶な望みを叶えてもらっては?それがお嬢様の言うイーブンでしょう?このままならあなたは損なだけです・・・わかったなら走りなさい」


 サンドラは知らずに積もっていた光弘の不満を見事言い当てた。

 侍女兼護衛などというのは徹頭徹尾、令嬢のわがままに振り回される仕事である。当然、それに見合っただけの給料はいただいているが。


 光弘は走り出し、普段は姿を見せない護衛たちが指で方向を指し示してくれる。


 ほどなくして、植物園外の池にたどり着いた。座り込んでアメンボぽいなにかを見つめている。どうせならきれいに咲いている蓮でも眺めていたらいいのに。


「っ~。わかったよ!ただしその間のデートとか無しだからな!」


「え~」


 明るい声に一瞬前言撤回しようとしたが、振り返ったエレナの頬には涙の跡がしっかりあった。


「え~じゃない。最低限のステップも知らないんだ。あとちゃんと踏まれる覚悟しておけよ。...でも一度くらいはごほうびに水着回がほしい。」


「は?水着回?」

光弘は花より『知っている食材はないか?』の観点で植物園を見学しています。都合よく実がついていたらいいのですが、葉っぱと花だけじゃ判別つきません。


キャラメルが安売りされていることを知ったのはたぶんここら辺の時系列。

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