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エレナのご聖印巡り

章タイトル『帰国編』ですが、今回より実質『恋人編』に移行します。

「付き合うって何すればいいんだ?」


 女の子と付き合ったことなんかない光弘は途方にくれていた。


 映画館×→観劇。チケットがバカ高い。ドレスコードあり。

 美術館→個人のサロン扱い。曜日が決まってたり、事前許可が必要

 遊園地×→公園or植物園。マスコミの格好の餌食。

 寺社仏閣巡り→地味? 近場は御朱印集めしたばかり。

 夜景→高校生の女の子を夜まで連れ回せない。 天体観測→同じ理由で却下。 

 有名な観光地に日帰り旅行→オイスター教会。近くの村ではカキ食べ放題。お腹壊す予感。旅行代ない。

 温泉→そもそも温泉文化ある?混浴×。

 馬車通りのこじゃれたレストラン、カフェ→基本割高。

 西マール食堂→いつもと同じ。特別感ゼロ。


「さんざんエ...恋愛小説書いといて何いってんだい?」


「イザベルはデートでどこ行ったんだ?」


 もう、一番恥ずかしいイベントは終わったので、ここは人生の大先輩の意見を参考に・・・


「旦那と時間めい一杯使って、アクセサリー作りしていた。

 あとは、てきとーにメシ作ったり、あの食堂で飯食ったり、寝室に」


「う。それは要らんから。

 今六月だろ?来年の春には別れる予定だから、一ヶ月に一度なら、計九回。誕生日を考えると今月はクリア。残り八回」


「真面目に付き合う気があるのかねぇ」


「テーマパークも映画もない。夜景。この世界、夜は暗い。そもそも貴族貴族のお嬢様だったら...観劇?ダメだ。チケットも服もない。公園を散歩...絶対に記者に付けられる。」


「美術館と植物園らへん」


「やっぱりそこら辺が無難かぁ」「あと...赤風車通り」


「そんなところ近づいたら俺の首が飛ぶ」


「公園もまあ、ちゃんと道がついている散歩コースとか開けた芝生だけにして、あんまり中にはいらないこと。夕日が傾く前にてっしゅうだね。茂みでいちゃこくカップルとか、赤風車の客引きがわいて出てくるからね。あとおすすめなのが馬車通りでショッピング」


「あそこ全部高いだろ」


「別に高い服買わなくても露天やら大道芸とか、人形劇とかやっているだろ。見て回るだけでそこそこ楽しいし、一本中に入ったら、手頃でコジャレた店もあるよ。安全な通りも教えるけれど、西マール通りより狭かったり、暗かったりする通りは使わないこと」


 最近はスベルに感化され、多少文字を覚えたイザベルがさらさらとおすすめのお店や見世物を書いていく。


「市を見て回るのもいいがスリには気を付けなよ」


「ありがとう。次はデート服について...」


「向かいの店のくそばばぁに聞きな」


 このまま光弘の相談にのっていたら日が暮れると判断したイザベルは会話を打ちきり暇な母親に丸投げすることにした。


 最近やっと母娘の関係に雪解けが見えたというのに、イーデスが娘にナクト皇子との再婚をしつこく薦めたおかげで、冷戦状態に逆戻りだ。


 ◆


「って、ことでご朱印集めってどう?」


「ゴシュイン?」


 エレナが不思議そうにするのも当然。日本でブームになったのもごく最近。


 近場で数がこなせて、お金がかからなくて、めんどくさくなくて、いかがわしくなくて、一応ちょっとだけリードできる...。


 ショッピングしつつ、名所旧跡探訪が一番無難だろう。目指せ、誰から見ても文句のつけられない清き交際! 


「神社仏閣、教会を参拝して、神殿の名前と聖印をいただく。参拝証明?」


「そんなのあるの?」


「あまり大々的にやっていないけれどね。モーリン様とパズラ様のところは言えば押してくれることが多いね」


 モーリンとパズラと言うのはネヴァ様の姉だ。モーリンが神社を担当していて、パズラは寺を、ネヴァは教会に祀られている。

 人気なのはその三女神だが、恋愛、商売、出産など、八百万の神の信仰も残っている。


 エレナに神殿のご朱印ノートを見せた。

 エレナが留学に行っている間に健康維持のために回ったものだ。


 普通のノートの片側にご朱印(聖印)と宗教施設の名前と・・・聖堂によっては由来も細かく書いてくれるところもある。もう片方に、日本人目線で見た神殿の見所を記したメモ書き。


 本来の使い方とは違うが、世界が違うので怒る人もいないだろう。


「行ったところなら一通り案内できるけれど」


 正月を過ぎてから比較的暇だったことと、もうそろそろ『ゲーム』のことが気になっていたこともあり、三女神について調べる名目でブンバーから一神殿100ロゼの支援を受け、各宗教施設を回ったのだ。


「参拝記念のスタンプみたいなものね。それぞれ細かい違いがあるのね」


 一応、関心を示してくれてる。これなら、デートコースに悩む必要もない。


「あくまで参拝がメインでご聖印をいただくのは参拝の後ね」


 きっかけは『厄落とし』だが、ただ歩くと言っても、目的がないとつまらない。向こうの世界でやろうと思っていた『ご朱印』巡り。

 三ヶ月で近場をほとんど回りきった。


 ブンバーに取材ノートを見せたら、いたく気に入って、ガイドブックにしようなんて言っている。


 これで、シャルン英雄譚がぽしゃってもすぐには困らない。


「で、なんでブンバーがついてくるんだよ。奥さん付きで」


「ブンバーさんの奥さま?エレナと申します。ブンバーさんの記事を大変興味深く拝見しております」


 エレナが言葉の端に載せた嫌みに気づいているのかいないのか、あるいは流すスキルを身に付けたのか。


「これはご丁寧にありがとうございます。わたくしブンバー・ストーンの妻のチェリー・ブンバーと申します」


 半年前は公爵夫人相手にアワアワしていたのに、今ではエレナ相手に丁寧なカーテーシーを返している。


(こうしていると普通なんだけれどなー)


 前回のやばいトランス状態を目撃してしまっている光弘はトオイ目をする。ただの平民がカーテシーをそつなくこなしている。つまりは頻繁に公爵夫人と会っている?


「もちろん、ミツヒロさんの一世一代の告白の場に居合わせましたからね。ガイドブックにするにしても、イラストがあまりにもあれですし。エレナ様の『ご聖印』巡り、是非私どもも同行させてください。決して邪魔はいたしませんので、どーんとちゅーしちゃってください」


「絶対するか!」


「あなた若い子をからかいすぎたらダメですよー」


「イラスト?」


 エレナが首をかしげる。


「彫刻や絵とか?結構細かかかったり、きれいに色がつけられていたり。 天井の宗教画も結構迫力だったりするから、」


 宗教施設の彫刻を見るとだんじりにもこんな細かな細工されていたなとか思い出して、絵を描き留めていたのだ。


「で、行く?」


 ◆


 エレナは頷いてくれた。


 これでデートが月二回、三回でも困らない。二回はご朱印巡りで、あと一回は博物館とか、植物園とか公園とか、ウインドウショッピングとか。

 女の服選びに付き合うのだけは勘弁だが。


 取材の時に日本のガイドブックを参考に食事処やお土産もまとめといて良かった。

 中には外から列のならび具合を確認しただけで、実際には食べていないところもあるが、光弘でも割り勘なら入れるお店も何ヵ所か押さえている。


「この流水の彫刻は吉祥紋でこのお寺のお守りのマークに刻まれている。悪い縁を退けてくれる」


「なんか言われてみると、彫られている天女の表情とか結構細かいわね」


「この井戸には超美人な水神がいて、ちょっかいかけてきたシャルノから逃げるために大洪水起こして井戸の底に逃げてしまったんだと。」


「洪水ってまわりの人の迷惑を考えなさいよ」


「こっちの祠にまつられているのは織姫」


 織姫と言っても日本ほど有名じゃないし日本の七夕伝説とは結末が若干違う。


「ある日仕事を忘れて、シャルノのいちゃこいているのを、父神にとがめられて、別れさせられたんだけれど、あんまり織姫がなげくもんだから「一年に一度川を渡って会いに行ってもいいよ」って許可を与えるんだ。

 一年後、肝心のシャルノは織姫のことなんかすっかり忘れて、さっきの水神さんを口説いていたわけだけれど。ちなみに水神さんは織姫のお姉さんね。以来、雨の季節になるとこの寺は水浸しに。あの池にあるのが、縁切り橋」


「浮気神話じゃないの...。」


「こういう建国王が方方で浮気したり婚姻したりってのは、あれだ...領土を拡大していった比喩だね。実際はもう少し血なまぐさいかもしれないね」

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