エレナの誕生日
翌日。いつもの食堂で誕生日パーティーが開かれた。
「誕生日おめでとー」
ミュール(桑の実)のタルトと骨付きチキンをエレナと光弘、イザベルとその息子たちで分け合う。
「桑って蚕が葉っぱ食べるだけじゃなかったんだなぁ」
「おいしー」
留学中の出来事を互いに話したり、本当に食堂のバイトになった皇子が話の切れ目に大将からのサービスを持ってきて、イザベルにウインクを飛ばしたり。
楽しい時間は瞬く間に過ぎる。
「で、帰ってきたら部屋が変わっていたのよ。ひどいと思いません?」
「理由は?」
「部屋の隅にカビが見つかったそうです。おまけにベッドまで新しい物に変えられて」
「まあ、ベッドにカビ生えてたら健康に悪いんじゃないかなー?」
「わたしゃこどもたち寝かさなきゃだから、帰るよ」
「僕たちまだぜんぜん眠くないよ~」
こどもたちが反論したところで、イザベルに「いいからさっさと帰るんだよ。タルトも肉もさんざん食べたろう。おとなしく撤収」三人仲良く頭をはたかれていた。
「てんちょー僕ベルさんとお子さまたちをお送りしますのでちょっと抜けます」
皇子は料理の腕はそこそこらしい。毒殺を恐れて自分で作らざるえなかったというのが、実態らしいが。
「おう!」
「いや、外も全然明るいし、家すぐそこー」
「まーまーいーからいーから」
眠そうに目を擦っているスベルをひょいと抱き上げられてしまっては、イザベルとて黙るしかなかったようだ。
サンドラが、「花摘みに」と言って席をはずす。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
微妙な沈黙が落ちる。
店内の騒音が遠ざかっていく。
「誕生日プレゼント」
ピンクの紙袋を渡され、中を開けてみると、指輪のペンダントだった。
「どんなのがいいかわからんかったから、店にあるものでてきとーに買った」
ぶっきらぼうな声。
「卒業までの短い関係だけれど、楽しく過ごそう。」
そう言って、ミツヒロは手を差し出してくれた。
「う、う、う、」
思いがけないプレゼント。そして差し出された手をみて、ぽろぽろと泣いてしまった。
「ええと、ダメだった?プレゼントダメだった?」
やっぱり初回で指輪を渡すのは重かっただろうかと慌てる光弘。
「嬉しくてないてんのよー!」
エレナは彼の手を握り返して叫ぶ。
固唾をのんで見守っていた店の客と店員から万雷の拍手が鳴り響いた。
ふわふわした気持ちで家に帰って、自室のベッドに腰をかける。チェーンをはずして、ドキドキしながら指にはめてみる。
「お嬢様。それは人前では指にはめてはなりませんよ。ましてや左の薬指なんて」
「わ、わかってるわよ」
◆◇◆◇
エレナの誕生日の二日前ー
光弘としてはペアリングを贈るのは勇気が要った。
(いきなり指輪贈って引かれないか・・・。でも一年もしないうちに別れるの確定なんだし、その間はめいいっぱい幸せな思いをしてほしい)
つまりは、渡すのなら今年しかない。
イザベルが、外出して、スベルも学校に行っている隙に選んでしまおう。
店内にはビーズアクセサリーだけではない。普通のペンダントや指輪なんかも置いてある。
(てきとーに選んで、会計をすませちまえば、)
そこで、扉が開いてしまう。
「いやー参ったね。雨が降っちまうなんて、ただいまー。って、何してるのかな?」
営業に出てたイザベルとダベル、ネソベルに見つかってしまった。
「エレナの誕生日プレゼントを見てただけで!」
「ほうほう指輪コーナーをねぇ」
「エレナにプロポーズするのか?」「結婚式にはよんでね」
「一通り見て回っていたら、たまったまここに来たときにベルさんが帰ってきただけ!」
「まあ、じっくり見てみな。困ったら店員としてアドバイスするけれど。ほら、おまえらは服脱いで体を拭きな。」
そう言って、イザベルはこどもたちを追いたてながら2階に上がって行った。
こどもたちのガヤガヤした声が響く。
「やっぱちっちゃくても光もんがついている方がいいだろうなー」
(婚約指輪もでかいダイヤ?がついていたし)
エレナの瞳の色と同じ青のガラスが嵌め込まれた指輪に目を吸い寄せられたが、色付きガラスは目立ちすぎる。
銀色の金属でガラスも透明ならさほど目立たない。
と目星をつけたところで、イザベルが降りてきた。
「決まったかい?」
「これなんだけれど、チェーン付きで、お願い・・・します」
指輪を贈るのはすっごく恥ずかしいが、チェーンに付いているだけならペンダントだ。
(僕が贈るのはペンダント。一個700ロゼの安物のペンダント)
「エレナの指のサイズならこれだね。ちなみにあんたの指ならこっちだけれど・・・」
「別に俺はアクセサリーつける趣味ないし」
・・・後日こっそり、おそろいの青ガラスが嵌め込まれた指輪を買う光弘だった。
背中がむずがゆい。砂糖の投与量ってこれで合ってるのでしょうか?




