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光弘の条件

「うーん...わかった。本気でお付き合いを考えているなら、お互いの安全にお付き合いするためにいくつか条件を出すけれど」


 光弘が三日三晩真剣に考えて出した結論が、『エレナを傷つけずに遠回しに断る』。


 断るにしても、エレナの貴族としての名誉は守らないといけない。

 条件が折り合わないのなら、庶民がお貴族様を振ったことにはならない。


「いいわ」


「まず、親の許可を取ってくること」


「はい?」


「親の許可!まずこれ絶対。」


「親に報告だなんて恥ずかしい。って、許可なんて降りるわけないでしょ」


「こっそり付き合ってもすぐばれるよ。後から問題になるのは困るだろ」


「保身に走りましたね」


 サンドラがため息を漏らす。


(なんとでも言え)


 光弘が三日三晩考えた条件は完璧。攻略不能の無理ゲー。

 親の許可が降りなかったのなら光弘の心も痛まない。


「二つ目。付き合うのはエレナの誕生日から卒業式まで」


「..........。まあ、いいわ」


 エレナとしては不服だが、一度付き合ってしまえば、いくらでも延長戦にもつれ込む自信はある。


「三つ目。互いに別の人ができたり、婚約が決まったらきれいに別れる。二股禁止。」


「ええ。それは」


 もちろん、と言葉が続くはずの声を打ち消し、光弘は更なる言葉を被せた。


「四つ目。デートは割り勘で行けるところ」


「ぷっ」


 エレナは思わず吹き出してしまう。


「あとは.....プラトニックな関係で」


「ぷらとにっく?」


「ピンクの小説みたいに破廉恥なこと全面禁止。手繋ぎまで!デートには必ずお付きの人の監視の下」


「口づけは.....?」


「いや、.....それは、とにかく第一条件をクリアしないと交際は無理!話は親の許可をもらってから」


 言い切って光弘はほっとため息をついた。


(まあ、最初の条件がクリア不能だろうがな)


 親から却下くらったあとはパトロン兼従業員兼友人という今までの良好な関係を続けていけばいい。それだって、いずれは切れていってしまう縁だが。


 光弘が三日間真剣に考えて出した条件は、考えすぎた故に大きな穴があった。


 ◆


「親の許可なんて降りるわけがないじゃない・・・」


 帰路。エレナは肩を落としてとぼとぼ歩いていた。


「エレナ様、ミッツ氏は『親の許可』と言いました。それならなんとかなるかもしれません。まず奥さまから落としましょう」


 サンドラの提案にエレナは「・・・お母様から?」と暗い声で返す。


(お父様よりも難攻不落なんだけれど)



 ◆


「これがミツヒロ氏が出してきた条件です」


 公爵夫人は、カチコチに固まっているエレナを一瞥し、サンドラが渡した報告書を読む。


「自分の立場をわきまえた条件だこと.....。」


 ガチガチに固められたルール。一番目の条件だけならお話にならなかったろう。


(親の許可。高校卒業、もしくは婚約者出現までの割りきった関係。侍女付きのデート。関係は手繋ぎまで。.....こどものおままごとね。逆にいうと...実現可能な範囲に落とし込んであるということ。そこに私の利をのせるとー)


「彼が自ら許しを乞わず、エレナ一人を矢面に立たせたのは大きな減点ですが.....いいでしょ。この条件を守れるのなら許可します」


「はい?」


 あっさり降ってきた母の言葉にエレナはぽかんと口をあけた。

 

 浮かれて肝心なことを忘れてもらっては困る。ここはしっかり釘を刺して置かねば。


「ただし、貴族の務めを忘れてはなりませんよ」

 

 ◆


「お母様の許可は降りたけれど.....次はお父様.....はあ」


「お嬢様。お父上の許可は必要ありません」


「は?」


 ◆


 翌日。


「お母様の許可をもらって来たわよ!」


 エレナが高々と掲げた紙にはー


『エレナ・スリーズとミツヒロ・スギタの清き交際を認める。 クリステーナ・スリーズ』


 ご丁寧に桜と二つの砂時計の紋章印まで押されている?


「マジ?」


「ええ。本物です」


 エレナがこくりと頷く。


「何考えているんだ貴腐人!」


「貴腐?...ワインのこと?」


「ワイン?」


「宮廷の晩餐会で供されるような最高級のワインだけれど?」


 それが?と少女は首をかしげる。


「関係あるような。無いような...ないな。でも公爵様は」


 光弘は息を整え、臨戦態勢を取る。


「必要なのは『親の』って言いましたよね?」


「だからご両親の・・・」


 そこで光弘は昨日の記憶を辿り自分の凡ミスに気づく。


『まず、親の許可を取ってくること』『話は親の許可をもらってから』


「って言ってないいいぃ!!」


「わかっていただけましたか?」


「いや、ちょっと待って・・・。いや普通許可が降りないじゃん。門前払いじゃないの?」


「あくまで『清き交際』が条件ですので、そこはくれぐれもお間違えのなきように」


 サンドラが念を押す。


「・・・交際を認める代わりに『英雄譚』の外伝を書かせようなんて魂胆が隠れていたりして?」


「んんんん、何のことですか。ミツヒロ殿?」


「あくまで交渉の場につくには、交際許可を取ってからって言っただけで、仮の条件クリアしたからって即、付き合うって言ってな・・・」


「ああ、公爵夫人に署名と印まで押させて許可をもらったのですから、今さらお断りになったりしませんよね?」


「ミツヒロは私のこと好きなの嫌いなの?」


 こういう時だけうるうるお目々で迫って来るエレナ。間違いなく罠だ。


(かわいい...じゃなくて!選択肢に『普通』プリーズ!)


「その二択では、好きの分類だけれど...

 身分差が・・・、嫁入り前の評判が、婚期が・・・」



 ミツヒロはしばらくぐだぐだと懸念事項を漏らし続けたが・・・結局ミツヒロの口からその日は明確に答えがもらえなかった。


「返事は、誕生日前日にする」


 とは言っても、三日後には六月一日。つまりはエレナの誕生日になる。

 その翌日はなにもなく過ぎ・・・


 誕生日前日、ミツヒロが声を掛けてきた。


「明日ひま?」


(光弘に誘われた!)


「えっと、その日は、」


 当然、当日は家で盛大な誕生日パーティーが行われる。貴族同士の社交の場、エレナのお見合いも兼ねた席になるから、庶民は招待できない。


「じゃあ明後日、みんなで帰国祝いと誕生日のお祝いできたらなって」


(みんな・・・)


 それが、答えか・・・。

 でも、恋人同士じゃなくても、誕生日は一緒に過ごしたい。


「いえ!明日の夕方なら!」




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