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エレナと手紙

エレナの海外留学をダイジェストでお送りします。


◆◇で地域をざっくり区切っています。

レペス→南ロゼリア→イスト

 一回目の手紙はー


 塩蔵アンチョビの礼の言葉と代わりに送られて来たのは梅干しと昆布茶だった。包み紙に『エドモン』の『公爵令嬢、怪魚を食す』が使われているのが気になったが。


 二回目はクリスマスケーキのお礼と『明けましておめでとう』書かれた飛び出る立体カードだった。



 年が明けてしばらくして送られて来た三回目の手紙にはー


『レーコ嬢と食事した』


「はあああぁっ!? レーコとデートォ!?」いつの間にーあの女狐!ヒュー!」


「はい?」


「女狐の皮を剥がす方法って知ってる?」


「さすがに人の生皮はぐのは全力で拒否させていただきます」


「裏切り者処すネ」


 臨時のメイドになったビオラが梅昆布茶を飲みながら言った。


「年上美人と同居の上、あたらしーライバルとはネー」


「台所部分が共有なだけであって、住んでいる部屋は別!」


「でも、子供の学校の送り迎えまでしているんですよネ?わざわざ」


 ビオラは追い討ちをかけてくる。


「うぐ、それはイザベルが忙しくて、ミツヒロが暇なだけであって、そう適材適所」


「それふーふの役割分担じゃないノン?」


「何なのよ!イザベルどころか女ギツネとまで仲良くしちゃって!二股なの?こっちは金に困ってそうな貧乏伯爵のリストまで用意してるってのに」


 エレナはキレイに整えられた頭をかきむしった。


 国内の貧乏伯爵家のリストは容易だった。というか再婚約リストをそのまま流用しているのだが。


「そのリスト何に使うんで?」


「...。」


 言えない。彼の養子先の候補だなんて。告白もしてないのに、自分でも気が早すぎると思う。


「たんじょーび一緒に過ごそう計画Ha?」


「...彼の誕生日...三月三日。」


 がっつり留学期間に被ってる。


「エレナのお誕生日は?」


「六月一日...」


 同じ国の中でも地域よって料理は全然違う。

 それぞれの国の(料理の)理解を深めるためにも、一か国二ヶ月は腰を据えて学びたいが、移動も含めるとぎりぎり誕生日に間に合うかどうか。


「うーん。とりあえず手紙の返事を書かないと...」


『裏切り者』



 四回目のスベルからの手紙で、

『みんなでラーメン食べた。』とか『孤児院でたこ焼き作った』とか『鯛をあーんしてもらった』とか書かれていて、ちょっとは誤解が解けたが。


「わたしもあーんしてもらいたかった・・・」


「やっぱ、ミッチサン、おかーさん狙いで子供から落としにかかっているんじゃ」


 その上、仕送り物資を包んでいた『ピンク』にはがっつり肩を寄せ合っている黒髪の男女の姿が描かれていた。


『レーコ様、ついにエレナ嬢の新恋人まで横取りか!?』


「ミツヒロそういうのは鈍感そうだもの・・・きっと大丈夫・・・きっと」


 そうは言ってもあの絵を見せられれば腹は立つ。

 魚卵に異様に執着心の強いミツヒロにカラスミを食べたことをさんざん自慢してやった。

 ミツヒロの反応は薄かったが。


 ◆◇


 二月、エレナはチョコレートに苦戦していた。


「なんつーか。かっちかちですね...。もう専属のパティシエに任せといた方がいいんんじゃ」


 さすがのヒューも菓子類までは精通していない。チョコレートなんて高級品取り扱ったこともない。


「もーこの際かっちかちでいいわ。愛情がこもってたらおいしーに決まってるわ」


「ところで、なんで南ロゼリアに立ち寄ったんです?留学期間を短縮したいなら、そのままイストに」


「南ロゼリアの大学に数学者がいるのよ。」


「折り紙数学でしたっけ。レペスの大学のえらいせんせーは無視されたんでしょ」


「丁寧にお断りされたって言いなさい」


 ◆


 南ロゼリア某大学。


「ガロール教授。数学的観点からバラを折り紙で再現してみたいのですが...先生は折り紙好きだったりします?」


「昔はよく折ってましたよ。今でも行き詰まったときはたまに折りますね」


 十分だけならとガロール教授はエレナの話に耳を傾けてくれた。

 後に革命家になるはずだったこの数学者、エレナのおかげで折り紙沼にハマり、大きく道を外れてしまう。


 ◆


「ふ、やっぱり話のわかる人はいるのね」


 これで、折り紙普及計画が一歩実現に近づいた!


「貴族の令嬢だから話を合わせているだけじゃありませんかね」


 張りぼて護衛のヒューの言葉に、エレナの高揚は萎む。


 むしろ教授の視線は刺々しかった。目が合った瞬間背筋に冷たいものが滑り落ちた。折り紙の話の時だけ和らいで。


 (あの人のあの目...どっかで)


 若くて高名な数学者なら貴族に招かれたどこかの舞踏会でお見かけしたのかもしれない。


「あの人、貴族のことあんまり良く思ってみないみたいだけれど。まあいいわ手応え?はあったんだから、必ず沼にはめちゃる」


「お嬢様、言葉遣いが...」


 母の侍女が、注意を飛ばす。


「に、しても・・・ここロゼリアよね?なんでたこがあるのー!?」


「山一つ越えれば別の国って言いますしね。トマトたっぷりたこパイおいしっすよー。イスト移民の家庭料理だそうで」


「要らないわよ!」


「...それどこで買ったね?」


「いや、バルで意気投合した人が近くの漁村の出身で、作り方を教えてー」


「またきれーな女の子引っ掻けたね?」


「いや、俺はお嬢様から課されたトマト料理の研究をー」


 ビオラのお父様は号泣しながら、娘を送り出したと言うのに...



 南部の貴族との繋がりも作ったら、次はイスト。トマトの楽園であることは嬉しいのだが・・・。


「教皇領へのご機嫌伺いもしとかないと。はー。」


 ◆◇


 三月始め、イスト。


「これが世界最大級のモノリス・・・」


 銀の細長いいたに見える建物の屋上には、鮮やかな殿方の色彩画が微妙に第三王子に似ているのが解せないが。噂ではロゼリアの建国王シャルノの壁画だそうだが・・・。

 なぜ他国にシャルノの壁画があるのかというと、シャルノ生誕の地がここだったそうで。


 イストでは三女神教総本山で長時間の説法を聞き、多額の献金をした(あくまで孤児院への寄付だが、どう使われるかは不明)

 エレナの奉仕活動は教皇の耳にも届いていたようで直接お誉めの言葉をいただいた。


「徳を積めば良い縁に巡り会えるでしょう」と。


 余計なお世話である。


 ◆


 このイストはトマト天国だった。

 そもそもトマトを使わない料理が少ない。この国の王様を含む、国民全員一日一回はトマトソースのかかった料理(特にパスタ)を食べているらしい。


 最初はトマト料理を渋っていた随行の料理人や侍女立ちも食べざる得なかった。なんせどこの夜会にもトマトパスタが出ているのだから。


「トマトピザってこんな味だったのね。これは癖になるわー」


 薄い生地になトマトソース、濃厚なチーズ、くどくなりすぎないように添えられたバジル。


「マルゲリッタって言うらしいね。この国のお姫様の名前ネ」「チーズめっちゃ伸びるわ」


 元々トマト文化のあるところで育ったビオラとミツヒロの料理でゲテモノ料理になれているヒューは憶することなく食べている。


 そして、イスト大学にはトマトに関する研究論文の原本が展示され、写本がお土産感覚で売られていた。


『食と鉛の関係性について。トマトを美味しく安全に食べる方法』


 カラスが毒であるはずのトマトを食べているのを見た学者が研究を始めた学問。


 100年も前に書かれた、そして今も研究が続けられている『トマト学』


 国民のトマト好きは本物で、トマトピザを切り分けるための専用のローラーやら、トマトスパゲッティーを食べるための専用のフォークまである。


 最初はトマトを嫌がっていた侍女たちも、エレナやヒュー、臨時雇の侍女がパクパクとトマトピザを食べているのを見て、次第にその味に慣れていった。


 エレナは論文を十冊購入すると、一週間かけて翻訳し、フォークやローラーとともにスリーズ家と西マール食堂に送った。

ティエル、チエル...たこのパイ包み焼き。イタリアから南フランスに渡った移民料理。

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[気になる点] なんか、この話主人公を幸せにする気ゼロだね
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