おせちとおみくじ
翌日。
「『新恋人』ふーん?」
光弘が読んでいたのは『エドモン』のエレナに関する記事だ。
「恋人としてコメントといただけませんか?」
正月早々ブンバーのインタビューに答えてやる義理はない。
「恋人じゃないしー。ピンクはエレナのゴシップ取り扱わないんじゃなかんったのかよ」
「そこはそれ。競合他社に負けるわけには」
一ヶ月も公爵夫人との約束を守って、異国で新たなファッションや、食文化に触れたエレナをその奉仕活動とともに『好意的に』リポートしていたのが奇跡なくらいだ。
たこの姿焼きのような絵面を狙っている風刺画ではなく、ちゃんと現地のレシピまで丁寧にのせて。
「いいからさっさと向こう行け」
「ところでそれはなんですか?」
ブンバーは光弘の前に置かれた箱を指差した。
「おせち。栗きんとんおいしー。大将ありがとう。あ、ブンバーにはやらないからな」
当然本物のおせちは用意できなかったが、いくらの塩漬けと栗きんとん・・・案外それっぽくできている。
家でも食べたことないオマールだか伊勢海老だかのでっかい海老。里芋はじゃがバター。黒豆の代わりに白いんげんの甘煮豆。椎茸の代わりに立派なマッシュルーム。伊達巻の代わりに塩気のあるだし巻き卵。鯛の塩焼き。
数の子も好きだったが、そもそもなんの魚かわからない。
「まあ、なかなか家のようにはいかんだろうが、故郷の味を楽しんでくれ。」
「いや、家でもこんな立派な海老出た出たことないって」
「今年は我が家も一人欠けてちと寂しいしな。多少のわがままくらいは叶えてやるよ。」
「いくらもおいしー。で、結局勝ったのか?」
「うん。ちゃんと買ってもらったよ」
口喧嘩に勝とうが負けようが、聖歌一曲分の時が過ぎたら、最後は互いの店のものを買ってお開きにするらしい。
「おまえらもおせち食べるか?」
光弘についていけば珍味を食べられる気配を感じたベル三兄弟はその言葉を待ってましたのとばかりに元気よく返事した。
「「「たべるー。」」」
「昨日も一昨日もさんざん食べたろうによく腹に入るな。ミッチ鯛はあったかいうちに食った方がうまいぞ」
こどもたちの元気のよい返事に大将があきれる。
そういえば、ラーメン大会にも、たこ焼き屋台にも姿を見せていた。
「こっちの鯛って黒いのかー。でも身はふっくらしていておいしい。結構それっぽくなっていい感じ」
ちょちょいと身をほぐして、こどもたちに取り分けてやると、こどもたちは「うっまー」と満面の笑みを浮かべて食べてくれた。
和風だしのスープにたこ焼きを沈めて・・・お雑煮の代わりにする。
餅米ないしな。
「今年は西マール最下位脱出だってさ。ほら、がんばったごほうびだ。カキフライ。めでたい紅白タルタルだぞ!」
「おまえらもカキフライ食べるか?」
「えーいらない!」「なんでフライにするの」「かきに謝れ」
水質かプランクトンか、牡蠣の種類が違うのか、はたまたロゼリア人の胃の作りが違うのか。基本ここらの人はカキを生以外の方法で食べるのは邪道だと思っているようだ。
「で、これはなんて書いてあるんだ」
スベルにおみくじを渡すと少年はちょっと眉を寄せて読み始めた。
「48番 末吉」
「末吉か~。」
微妙だな。
「願い事 死ぬ気で走れば叶う。」
「ふーん。まあようわからんけれど」
「待ち人 来ず。自ら走れ。失せ物 とにかく走れ」
「いやどれだけ走らせたいんだよ。このおみくじ」
「学問 危うし。死力を尽くせ。」
「まあ、今の俺には学校もテストもないから関係ないや」
「旅行 さわりなし。お引っ越し 急ぎすぎるな」
「旅行も引っ越しも関係ないな」
「商売 相手を良く見極めること。さもなくば足元をすくわれる。相場 待てば利あり。争い事 勝つ。ただし事を荒立てるな」
「よしわかった。つまりはブンバーには気を付けろってことだな」
「恋愛 臆するな。行け。相手に誠実に。 縁談 恐れるな。行け。相手に誠意を持ち、はめをはずしすぎるな。 だって」
スベルと大将がにやにやと光弘を見る。
(行く相手もいないが...)
「お産 安し。健康 睡眠は十分にとるべし。体力作りに努めよ。足に注意。一生残る大ケガの恐れあり」
「いや、お産関係ないけれど、一番肝心なところがめっちゃあかんやん!」
やっぱりお賽銭が少なすぎたのだろうか。
「で、神様からのお言葉は?」
「んー。むずかしい」
ギブアップしたスベルが大将におみくじを渡す。
「えーっと、えー。最初は足踏み状態だが、次第に運が上向いていく。宝物を大切にすれば宝物を取り落とさずに大空を羽ばたいていけるだろう。ってなことが書かれている気がする」
「ふーん」
年末年始の行事がほとんど終わって、あとはだらだらと過ごすだけ。
さて、この後は『神社』と『お寺』も回ってみるか。厄払いに...
数の子...ニシンの卵。たぶんロゼリア北部沿岸をそこそこ泳いでるはず。
末吉...フィンチャンスとかテキトーに訳しましたが、『最後のチャンス』ともとれる。




