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正月たこ焼き戦争

R15注意報。

 

 時は流れて一月一日。


 光弘は西マール教会に来ていた。


 昨年も三が日最終日にがらっがらの境内?に訪れてはいた。賽銭箱らしき箱にコインを投げ入れたらそれをたまたま目撃したシスターにめっさ怒られたが。


 今年はおとなしく列に並び、丁寧にお金を箱に納め、他の人の作法を真似て手を組んだ。


(今年はしょーゆが見つかりますように。ついでにスリーズ母娘の暴走が静まりますように。あとまじで病気にかかりませんように!あとできれば金運upと、ついでに生活が落ち着いたころにかわいい女の子との出会いがあったらうれしいです。しょーゆと健康はほんまお願いします!)


 たった五ロゼでお願い盛り盛りである。


 他の参拝者は、女神に日々の安寧の感謝と願い事一つだけ伝えて列からさっさと抜けているのに、光弘一人だけ長い。


 お祈りを終えた後はおみくじを引き、お守りを買う。


「こういうところは神社とそんなに変わらないんだなー。えーっと、『チャンス』は日本のチャンスと同じ?『ふぃん』はわからないなー」


 あとの運勢は、大将かスベルに読んでもらおう。


 ◆


 光弘が次に向かったのは、『ジャム焼き&イカ焼き』とイカの絵が書かれた屋台。


「おう、売れているか?」


「うん。たこ焼きもちょびっとだけれど売れているよ!」


 孤児院のお手伝いに出向いていたスベルが元気に答えた。


 デーツを試食していた家族連れの客が店員のこどもに声をかける。


「ジャム四つにいか一つ、たこ一つ。で、袋も一つ」


「はい。ジャム4、いか1、たこ1、袋1、いかたこはチーズいれますか?おいしーですよ」


「え、あなたほんとにたこなんか買うつもり?誰が食べるの?」


「いや、ちょっとした肝試しってか、貴族のお嬢様も美味しく食べたって話だろう?チーズ入りで」


 父親がちょっと目をきょどらせている。


 年末の『シャルン英雄譚』を読んだのかも知れない。


 たこの海獣に襲われた姫を助けたシャルン。たこを食べるとストーカー三女神から受けた古傷も、たこの戦闘で負った怪我もたちどころに良くなり元気りん○ん、姫と楽しい一夜を過ごした。

 とか、そんな内容だ。


 チェリー嬢の描いためっちゃ気合いの入ったたこに囚われる姫の絵も効果があったのかなかったのか。

 いや、ちょっとスカートがめくれる程度って言ったのに、ぎっちぎちに腰回りやら、太ももやらに絡まっていて、絶対領域に不法侵入直前って絵だった。


 酒の席でブンバーに触手の話はしたことがあるが・・・。

 出来上がった新聞見たときは、光弘もどん引いた。


 たこにそんな効果があるのか知らないが、プラシーボ効果に期待しよう。

 あくまでファンタジーだし、屋台では一切そんな効果かいていない。

 ここは日本じゃないから景品表示法とか誇大広告、食品偽装の類いも気にしなくていい。


「その貴族のお嬢様はタールまで食べたって言うじゃないですか」


「いや、たこは俺が食べるから!」


 夫婦が言い合っている横で光弘がスベルに尋ねる。


「オススメソースはなに?」


「タルタル!」


 スベルが元気よく答える。


 たこ焼きを待つ一家を横目に光弘も注文する。


「チーズ入りたこ焼き六つ。ソースは普通の五つ鰹節バジルで。最後の一つはオススメのタルタルをかけるだけで。」


「ここで食べる?」


「ああ。温め直してくれればそんでいいよ」


 あらかじめ作られていたたこ焼きがさくさく温められていく。一応冬だし、30分過ぎたものは下げて早めに食べるよう言ってる。が、ほぼほぼ作り置きがなく子供たちが忙しなく次を作っているところを見るに売れ行きは本当に好調なようだ。


 色形だけは似ているたこ焼きはちゃんと美味しかった。


 最後の一つが問題なのだが。最後の一つを爪楊枝で持ち上げてみる。


「なぜこーなった」


 ショッキングピンクのタルタルソースにため息が漏れる。確かにこの世界の人にとっては『()えている』かもしれないが・・・。


 そもそも光弘の説明がよろしくなかったのだが。


 ◆


 ある日カキフライを食べたくなって大将に頼んだのだが、この国ではカキは生で食べる物。


『わざわざ揚げるか?は?お腹いたくなるのが怖い?俺一日30個食べても腹壊したことないが』とめんどくさがられたので、代わりにフライに合うタルタルのレシピを提供した。


『マヨネーズにきゅうりのピクルスと玉ねぎ混ぜたらいける・・・たぶん』


 と伝えて作られたのがピンクのタルタルソースだった。


『何でこんな色?何入れたらこんなになるの?』


『ピクルスと玉ねぎ入れただけだが、お前の故郷のピクルスは全部梅酢に浸けるんだろ?』


『柴浸けは確かにあるけれどさー。えー』


 で、西マール食堂の顧客アンケートでは、ビンクタルタルが圧勝。普通のタルタルはメニューから消えていったのだった。


 ◆


 アメリカでは青いケーキがあるって言うけれど・・・。


 んー。これはこれで・・・やっぱないな。


「神聖な教会で、たこを売るなんて、たこは悪魔ですよ!毒があると言うじゃないですか!」


 敵情視察に来たのは僧服を着たスキンヘッドの男だった。後ろに配下だか信者だかを数人引き連れている。


「お越しいただいてありがとうございます。ピエール様。毒があるのは小さなたこです。大きさを計った上で、調理していますし、今のところこうやって食べている子供たちもお腹を壊していません」


 シスターがこどもたちの前に立ち毅然とした態度で説明をする。


「それにこの毒々しいソース!」


(それ、俺も思ったなー)


 孤児院出店の屋台は営業妨害があるって本当だったんだな。

 暗黙の了解で、敷地を借りている外からの出店者には手は出さないそうだが、聖職者同士の口喧嘩は、三女神の喧嘩を模していて、見ると福が来るらしい。

 日本人の感覚からしたら微妙だが。


「おじょーちゃんがんばー」「言い負かしちゃれ」「大聖堂はいいとこ取りしやがって」「ひっこんでろー」


 と周囲からヤジが飛ぶ。...ごくまれに乱闘に発展するらしい。


「マヨネーズにピクルスと玉ねぎを混ぜたものです。西マール通りの食堂が開発したソースで、お客様に大変人気だそうです。ソースだけでも試食してみます?」


「それに、これはなんなんですか!」


 僧は次は、デーツを指差す。


「スリーズ家からのご供物です。美肌に効果があるらしいですよ。奥さまやご息女に一袋いかがですか?」


 人が込み合ってきたので、他の屋台をみて回る。


 カラフルな屋台は『かき食べ放題』『リンゴのタルト』『ホットワイン』『射的』。変わったところでは、おみくじを読み上げている人までいる。あと何かよくわからない揚げ物などなど...元の世界と似たような物の中にちらほら違うものが混じる。


『ソーセージ』の屋台でマスタード少な目とケチャップ多目のソーセージを買って光弘は教会を後にした。

梅干しは梅昆布茶くらいにしか使われていないけれど、梅酢はご近所の奥様方に人気。ピンクのピクルスがプチ流行中。


ケチャップはきのこケチャップです。

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