スベルの相談
クリスマスのちょっと前に話は戻ります。
「先生、新年の出店で困っているんだって・・・」
今年も残りわずか。いつもの食堂でスベルが真剣にたこ焼きをつつきながら、そんなことを言ってくる。
スベルの先生と言えば、エレナの友達のあの眼鏡っ子シスターか。
「んー。新年の出店て」
光弘は真円のたこ焼きを回しながら尋ねる。
スベルのたこ焼きは真円にはならず、どら焼きみたいにしぼんでしまっている。
「神殿に並ぶ屋台だよ」
「ああー。毎年三が日はお参りに行く神社も焼きもろこしやらリンゴあめ、お好み焼き、いか焼き、たこ焼き、わたあめ、ベビーカステラ・・・まあ、お好み焼きはなんとかぽいものができたし、たこ焼きももうすぐ・・・」
「サンガニチ?お前んとこの新年の祝いは三日もあるのか?」
大将が話に割って入る。
「あとはおせちとお雑煮・・・」
「三日もあればたくさん売れるのかなぁ?」
「んー?」
「この国じゃ新年の祝いは一月一日って決まっているんだ。俗に言う三女神の金取り合戦だな」
「俗すぎ」
あまりに実も蓋もない大将の言葉に、光弘はあきれる。
「自分の近所の神殿か・・・叶えたい願いがあるならそれに沿った神殿にお祈りに行く。そこでガンガンお布施したり護符を買ったり」
やっていることは日本の神社とさほど変わらないらしい。
「去年はミッチはどの神殿に行ったのー」
「去年、つうか今年のはじめは、色々それどころじゃなかったな」
ただひたすら疲れて、やる気がなんも起きなくて寝正月をしていたはずだ。気づいたら年が明けていた、みたいな。
一日休んだら、もう翌日は平日扱いで普通に皿洗いやっていた気が・・・。
「元旦のほうがご利益高そうだが、人が多いから俺んちは、一日は家で過ごして、二日、三日のどっちかに行っていたな。で?」
「・・・西マールここ最近のさんぱい者数?振るわないんだって。屋台の人たちも他の人気のある神殿に行っちゃうから。場所代の利益も少なかったって」
まあ、正月が一日しかないんだったら、出店の人たちもそりゃ人気のあるところに移るだろう。
「・・・ちょうどいいかも」
◆
『令嬢x、怪魚を食す!』の記事を読んでたこ焼きを食べたくなったその日に光弘は大将と動いていた。
ちょうど思わぬ大金が入ったことで気が大きくなっていた光弘は・・・大将と相談して、金物屋にまず一家四人が使うのにお手頃な、6×4の24穴タイプのたこ焼きの型を注文。
次に、大将は提携している魚市場にたこの食べ方を問い合わせた。
港町の漁師が網にかかったのを生きたまま丸ゆでというワイルドな食べ方をしているらしい。
早速試してみるが、ぬるっとしていて味は微妙だった。
で、どうやったら美味しく食べれるかと思案していたところに、ヒューによって南方風たこの締め方と捌き方ももたらされた。
その頃にはたこ焼きの器具も完成。
その後大将は魚市場を通して漁師にわざわざ締め方の指示をした。(漁師は不満そうだったので、それなりの追加料金を払わなければならなかった)
捌き方動画なんて当然この世界にはない。届いたたこをつたない絵と文章の説明を頼りにどう捌くかって段階で、救世主が現れた。
近所にたこを捌いたことがある人がいたのだ。南方出身のイーデスばあさんだ。
「ほー、たことは珍しいね。ちゃんとレペス風の締め方しているからそれなりにおいしくいただけるんじゃないかい?」
「前は、たこを生きたまま運んできてゆでたんですが・・・」
「わざわざ生きたまま王都まで運んだのかい?ご苦労なことで。そのやり方だと味が落ちるだろう?」
まともにさばけたたこの半分はばーさんに持って行かれ、残りの半分はヒューから届いたレシピの試作とたこ焼きの具になった。もう、それはちゃんとこりっとしつつも柔らかな弾力のあるタコだった。
次の便でデーツも一樽というアホみたいな量を送りつけてくれたので光弘も大将もどうやって使いきるか悩んだ。
のだが、干し葡萄みたいな状態で送られてきたので、半分はすでにジャムに加工してもらったり、お好み焼き用のソースに混ぜたりしている。あとは食堂を訪れたこどもたちに期間限定で配ったり。
◆
たこもソースも器具も揃ったこの段階で正月の屋台の話。これは・・・今が布教のチャンスでは!?
「たこ焼きとジャム焼きなんてどうだ?」
「たこ焼きとジャム焼き?」
「たこなんて、この国じゃ食べないだろ?ま、俺は食べたが。むしろスベルもチーズ入り好きだよなぁ」
「うん!」
「じゃあ、とりあえずイカで。アイディアがあるのでシスターさんに西マール食堂に要らしてくださいと。午後二時から午後三時くらいまでの間に来ていただいたら対応可だよな?」
「まあな」
大将の許可は取った。
ということで、まずシスターさんとのプレゼンを乗り切らなければならない。




