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いか焼きと裏切り者

ご当地ネタ。

公爵夫人はプリプリ怒って帰ってしまった。小鉢とはいえ、四種のラーメン完全制覇して。


(最後おなか回り相当きつそーだったけれど大丈夫かな)


「で、スープは透き通った鶏ガラで、ソースはきのこ。薬味はバジル、細ネギ、オレンジ系の皮、マスタード、ホースなんとかってわさびのことでしょうが...」


 アンケート結果をながめて、レーコはため息を漏らす。


「やっぱみんなふだん食べ慣れている物選ぶからな」


 大将がアドバイスという名の誘導したってこともあるが。


 そもそも食べきらずに「まずい」と言って出ていってしまう者もいた。


「俺本職の麺職人じゃないしなー」


「まあ、アンケート結果は固まったから、次の次...のその次くらいには金がとれるもん作ってやるぜ」


「でも人気でなきゃ、結局消えていくだけだし・・・

 で、レーコ様。おいっしいラーメン食べたい? 

 ちなみに俺、某カップラーメンのカレー味が好きだったんだけれど」


「食べたいわね。てか、思い出させないで!私、シー○ードが好きだったのよ・・・」


「ラーメンの前では、惚れた腫れたなんてク○どうでもよくない?」


 そこだけは一応、王子に気を使って『日本語』を意識する。王子はわずかにきょとんとするが、特に文句を返してこない。

 エレナで実験して置いてよかった。この国最高水準の教育を受けているエレナがわからなかったから大丈夫だろうとは思っていたが。


「あんたはそれでいいの?エレナ側じゃないの?」


「いいも悪いも時間が足りない」


「時間?」


「幕末生まれのご先祖様は四つ足を絶対食べなかったし、大将生まれのひいばあちゃんは肉を食べてたって話。食の欧米化?逆だから日本化?」


「四つ足?」


「牛とか豚とか?爆発的ブームになるならともかく、味覚が変わるのって最低一世代くらいはかかるると思ったほうがいい。そう、タコを食べ物と認識してもらうことから始まるんだ!幸いこっちには粉もん大好きたこ大好き令嬢がついている!」


(※注 某令嬢『たこ嫌いですけれど?そもそもあれは食材じゃありません』)


「たこ?」


「たこ焼きを気軽に買える世界に。たこ焼きを自宅でお手軽に作れる世界に!」


「わたしーたこ焼きにそこまで思い入れないしー」


「君にはわからないのかぁ!?唐突にたこ焼きを食べたくなる衝動が!?」


「わたしもんじゃ派。別にたこ焼きにいか入れればー」


「はっ!?たこ焼きといか焼きはぜんぜん別物だよ?」


 光弘の中にもたこ焼きにたどり着くワンステップとして、たこの代わりにイカやウインナー入れてロゼリアの人に馴染んでもらおう作戦はある。が...たこ焼きといか焼きは全然別物だ。


「いか焼きじゃなくってタコの代わりにイカ入れれば」


 レーコにとってイカ焼きとは、いかの姿を保持した照り焼きだった。

 対して、光弘のイカ焼きはー


「あの適度な厚みと濃厚な黄身。甘辛いタレをベッタリ塗って、噛んだときのイカのかみごたえ。ぜんぜん別物だよ。君は梅○のイカ焼きを知らないのか!?」


「はっ!?知らないわよ!まじ何言ってるのかわからない」


「君はこの国に来て何ヵ月になる?何月にこの国に来た?」


「三月に来たけれどそれがどー」

「予言しよう。一年過ぎた頃から魂のソウルフードの飢餓状態に陥ると!」


「おっさんがなんか言ってるー魂のソウルフードとか意味わからないんですけれどー」


「おっさんではない。君は五年後おばさんと呼ばれたいのか」


「わたしは、十年後だって美人よ!って何で鼻で笑う!」


「さんざん料理を提案して残ったのって、ちょっとしかないんだ。材料が揃わなかったり、採算がとれなかったり、ロゼリアの人たちが美味しいって思わなかったり。俺の知識不足もあるんだろうけれど...。

 君と手を組めば知識は補強できるし、予算も王家の国庫からちょろまかせたら」


 予算はとても大事だ。今回と次回の企画もろもろの材料費人件費にエレナからもらった出張代のほぼ1/2を使い果たした。


「いつまで君がこの世界に居続けるつもりかは知らないけれど・・・醤油を探す一点では協力したい」


 テレビの知識を元に鰯の塩漬けは自家製で試しに作ってみたが、塩の割合がわからない上、臭いがどうしても慣れないし、近所から苦情が来るし、出来上がっても「本当におなか壊さないか」という不安がよぎって結局使わなかった。


「ちゃんとした魚醤が手に入ったって連絡が入った瞬間、思ったんだ。もっとしっかり探せば、醤油も本当にいつかは見つかるんじゃないかって。で、そんなことを願っている時に現れてくれたのが君。一人よりか二人、王子のつてを使えば、醤油を手にいれるのが早くなる。『料理』に関してだけは協力してみない?」


 エレナとこの子を使えば食文化の侵食は早く進むだろう。

 ちょっと邪道に逸れようが・・・レモンラーメンやバジルラーメンが流行ろうが気にしない。


「全部権利を横取りするかもよ?」


「別に裁判とか面倒なこと起こされなければ、料理を独占しなければ構わないよ」


 こうして同盟が結ばれる。


 まあ、同盟関係とは脆いものだが。


 ◆


 一応、光弘は義理として『レーコ嬢と食事した』ことだけは手紙でエレナに伝えた。


 返事は・・・いつもは時候の挨拶から始まる丁寧な手紙なのに


『裏切り者』


 と一言だけだった。


 ◆◇◆◇


 翌年の夏・・・。某所。


「そばが食べたい。とろろと生卵を載せた冷たいとろろそばが・・・」


「とろろそば。やきそばの親戚か?」


「違うわよ!そばに山芋と生卵を乗っけたやつ!」


「ガレットにマッシュポテトと玉子を落とすのか・・・さすがに生はおすすめしないが」


「ぜんぜん!全然違うー!」

光弘が言っているいか焼きは『大阪 いか焼き』で検索すれば出て来ると思います。

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