悪役令嬢と花
今日はお待ちかね『花』の日。
なのだが、自宅で『鶴』を折ってもどこかの行程で失敗してしまったようだ。
一つは完全にグシャグシャ。やっと折り上がったもう一つの鶴はどうみてもよれよれで、全体的に歪んでいる上、何となく太っちょだ。
もう、練習用にともらった折り紙はなくなっている。
失敗作をミッチーに見せると下手な鶴は、小さく折り畳まれ、ものの3分としないうちに見知らぬ花になった。
「手品?」
「違いますよ。『蓮』です。これくらいくしゃくしゃのほうが作りやすいんだよなあ」
「ぐゅ」
「軽く復習してから、『花』に取りかかろう」
◆
「一応、今日は花を一つ作るから、巻き巻きでいくよ。今までは折り紙の基本サイズ。15cmサイズを使っていたけれど。今日はけちって7.5×7.5cmでいくよ」
「公爵令嬢相手にけちらないで下さい」
「君がかわいいって言った『桜ボール』は5×5cmなんだけれど」
「あれで5cm角なんですか!?」
(手のひらにちょうど収まるくらいのサイズですのに)
「ぐ、頑張ります」
エレナの返事に頷いてミッチーはエレナに5枚紙を渡す。
「まず三角に折り、底辺の角をお山の頂点に合わせる。正方形になったところで、左右の三角をそれぞれ正方形の左下辺右下辺に折り返す。ここでしっかり型をつけること」
彼は見本を折りながら流れるように説明している。彼の手元を見ながら言われたように折っていくが、とくに難しさも感じずするりと折れた。
「で、袋をこのように開き、上にはみ出た耳を手前側に折る。袋の形が三角形になったところで、その三角形を半分に折って全体の形を正方形にする。
左右同じように折って、直角三角形の表面にのりをつけ、その三角形同士を内巻きで、ぴったりのり付けする。これで花びらひとつ。おしべがちゃんとあるだろう?」
彼の手の中にはおしべが三つついた花びらが一片。
「はい」
説明は多少難しく長いが、やっていること自体は簡単で、彼の手元を注視しながら難なく折り進めていく。
前回苦労した『鶴』によりもずっと簡単だ。
問題は、
「のりづけは指でするのですか?」
「ん。スティックのりはないからな。指が汚れるのが嫌なら、ヘラとか、つまようじを使って」
(棒のり?・・・また異国の言葉)
すでに出来上がっている五つのパーツを渡される。彼もすでに完成した5つのパーツを机の上に置いた。
「基本は五個をのり付けしてひとつの花にする。これが『桃』。
花びらの先に三角の切り込みを入れると『桜』。花びら全体を丸い曲線にすると『梅』。好みで花びらの数を増やすのは自由」
そう言いながら彼が花びらの先に三角の切り込みを入れると『桜』に、そのまま花びらの尖りを削ると、印象が柔らかく変化し『梅』の花になった。
「せっかく作ってものりづけの段階で手を抜いてぽろぽろパーツがはずれたら努力が水の泡だ。しっかりくっつけるように。
ちゃんと中心を寄せて、花びらの先を押し膨らみを持たせて形を整える。で、十分後くらいにもう一度パーツがゆるんでないか確認する。怪しい箇所があったら、串とかで隙間にのりを補充する。この世界にはボ○ドも両面テープもないからな」
フィンガーボールを持っては来てくれたけれど、部品が小さいのと、指が汚れるのが嫌で爪楊枝でちょいちょいとのりをつけていく。
「花の中心部分から側面1/4~1/3のりをしっかり塗る感じで。花びら同士の接接着面に圧力を加える」
(む、バランスが)
「中心部分にしっかりのりをつけ、一枚目と五枚目の花びらをくっつける。」
「指で花びらを押してバランスを整えるのですわね」
すでに、パーツが外れかけている。慌ててのりを補充した。
完成した作品を軽くチェックした彼は、棚に何個か並んでいる商品の一つを机に置いた。
「で、この『桃』を12個集めてくっつけたのが花くす玉」
単純計算で5×12。計60パーツ。
ため息が漏れる。彼が『めんどくさい』って言ったのがわかる。いったい作成に何時間かかったのだろう。
でも値札は『1000ロゼ』。
「そんな労力を費やしたものがたったの1000ロゼ?」
「一個3000ロゼで売ってたけれど、買い手がつかなかったんだよ」
「それでよくあの服を買えましたね」
一式合わせて一万ロゼ。とてもこの男が気前よく払える額じゃない。
「ガントじいさんと、古着屋のばあさんと俺で君がまた来るかどうかの賭けをしたんだ。二人で金を出しあってな。俺とガントは来る方。婆さんは来ない方。来たら半額にするって。おかげで出したうちの2500ロゼ返ってきたうえに5000ロゼの副収入。ラッキー」
一万ロゼの服を二人で割って5000と言うことは。
-5000(服代)+2500(賭けの返金額)+5000(エレナの支払い額)=2500
「公爵令嬢を肴に2500ロゼこそこそ儲けたわけね」
エレナはパチンと扇を鳴らす。
「あはは...。まあ一番儲かるのはばーさんだろうがな」
「なぜ?」
扇を口許に広げ尋ねる。
「これから通うなら、変装セットがワンセットってことはないだろう?」
公爵令嬢がお針子を自宅に呼びつけて『普段着を』と言っても高級な生地のぱりぱりな新品が出来上がるだけだ。微妙によれた生地で作ることはないだろう。
「一応、『花』の折り方は習得したけれど、まだ通うつもりがあるなら」
「まだ、あのオブジェの作り方は教えてもらってません。古着屋のおばあさんのところに案内してください」
「じゃあ、先程の残り3枚と15×15センチを三枚渡すから、残りの『桜』と『梅』、作ってきてね」
渡されたのは7.5×7.5cm桃色3枚と、15×15cmの黄色、赤、水色が一枚ずつだった。
単色では完成しいないようになっている。
「色味を考えることも課題ってことね」
商品棚にはグラデーションを効かせていたり、一片だけ色を変えているものもある。
「いや。ただ余った折り紙を渡しただけで...」
商品も基本、ガント工房の端材を安く買い取って、組み合わせているにすぎないのだが...。
彼がボソボソ言った声は、どのような配色にするか悩んでいるエレナには届かなかった。
今回の折り紙『桃』『桜』『梅』・『蓮』
説明が下手で申し訳ありません。
興味のある人は『折り紙 立体 桃』で動画検索したら作り方動画出てきます。
『蓮』は折り方は簡単ですが、力加減がちょっと難しいです。案外小さくなるので普通サイズ15×15cmで折ることをおすすめします。