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最後(?)の襲来者

 エレナが海外留学して一ヶ月近くたったある日。

 『ケーキのお礼に』とエレナに送る立体クリスマスカードを作っていたのだが・・・。


「やっぱり、サンタとトナカイの絵は難易度高いし。そもそもクリスマスとか無いようだし。雪だるまならなんとかなるか?」


 (去年の冬に子供たちが作っていたのを見たことがあるから)


 この世界にもーっと思ったところで、視線に気づいた。


 エレナの父親が、工房の窓に張り付いていた。光弘はカーテンを閉めようかと暫し悩み、扉を開けて声をかけてみた。


「えー。なんのご用でしょうか?」


「エレナの作品を一つ買いたい」


 とりあえず、以前みたいに大量買いして処分するって話じゃなさそうだ。


「ではお入り下さい」


 エレナの作品の区画を教えたあとは、特に話すこともないので、なるべく邪魔にならないように茶をすする。

 なるべく、声をかけてくれるなアピールだったのだが、それが逆によろしくなかった。


「客に茶を出さないで一人で飲むのか?」


「はい。貴族様にお出しするようなお茶ではありませんので。寒いというのでしたらお好きに自分で注いで飲んで下さい」


 サンドラがいくつかエレナ用に常備しているお茶をおこぼれで使わせてもらっているので、茶葉の質はいいが、貴族様にお出しするには技術が追い付いていない。


「ふん」


 一杯だけ、茶を飲んだあとは真剣にアクセサリー選びに戻る。たまにこちらに視線を向けているようだが、光弘はなるべく視線を合わせないよう、話しかけられないようちびちび茶を飲む。


 エレナ父がエレナの作品を吟味して、選んだのは、タイピンだった。


「おまえ暇か?」


「・・・一応、暇です」


 昨日はクリスマスイブで、その少し前は、今年最後の原稿を書き直し。

 年末年始のもろもろの準備も...残ってはいるが...。


 まあ、一応、年末だし。適当に掃除する振りはするが、片付けるために広げてそこで時間切れ(正月)になることが多いので、結局軽く埃をぬぐう程度だ。


(今年は叱る家族もいないし)


「西マール食堂に案内せよ」


「はあ」


 ◆


「エレナの部屋を逢い引きに使っただけでなぜ私が怒られなければならないんだ!私はスリーズ公爵家当主だぞ!?」


(ないわー。マジないわー。それもなんで食堂で管を巻いてるんだよー。)


 昼間っから酒に酔っぱらっておいおい嘆くエレナの父親に冷めた目をちらりと向けて、光弘は枝豆を一口、ついでビールを煽る。


「君も男ならわかるだろ!?」


(あ、これ頷いたら死地が見えるやつだわ)


 鬼と化したエレナが『裏切り者』と罵倒し、蹴りを入れてくる姿がありありと想像できる。とばっちりで被害を被るのは避けたい。

 誰だよ、あいつに危険な技を授けたのは・・・リタか。大元をたどればイーデスばあさん発祥だそうだが。


 なんでも、今までは諦め顔でてきとーに頷いていた息子が、最近は頷いてくれなくなったそうで。

 家の中で完全に孤立無援の状態らしい。


(結婚近いらしいからなー。さすがに留守の妹の部屋でやらかされたらなー)


「で、何で俺なんですか?息子さん以外にいるでしょ」


「部下に愚痴ろうものなら、その妻によってお茶会で言いふらされかねん。そして部下も最近は私の妻の存在を恐れて付き合ってくれんようになったのだ。何より急に消えたら、仕事に支障をきたす」


(急に消えるんだ・・・こっちもこっちで、ブンバーが隣のテーブルで、チャーハン食べてるんだけれどなー)


 視線を向けると目がかち合う前に、ブンバーはチャーハンを一口食べ「ん。ちょっと味を変えたか?」とわざとらしくコメントを漏らした。


「それに君なら、妻に目を付けられて始末されてもちっとも心が痛まん」


(ちっとは心を痛めろー!冬の海に沈められたらどーしてくれるー!?)


「・・・自分の部屋は?」


「夫婦の寝室は・・・あれだ。前科があって鍵がかけられて」


「家庭内別居してなかったんですか?もしくは客間を使うとか」


 決して推奨はしないが、外で楽しむとか。赤風車とかにお宿はそこそこあるだろ。


「ヘレーネローズの香りが漂う部屋が良いと言われて」


「ヘレーネローズ?」


「娘の名前の元となった異国の女神の名がついた黄薔薇だ。そんなことすっかり忘れていたが、庭師に聞けばちょうどエレナの部屋の前に植わっていると言うではないか」


 えー。それ娘が生まれた記念に植樹したとか、そういうことじゃないのか?

 浮気相手がそれ知ってて、指定したなら悪質じゃない?


「扇十本も使って殴り倒してくるとは夫への敬意が足りない!

 仕舞いには『別宅でお暮らしになったらいかがですか?』だと? 

 むしろあいつを追い出して、『公爵夫人』が必要なときだけ通わせたいくらいだ!」


「・・・扇十本」


 とりあえずエレナは泣いていいと思う。次戻ってきた時にたぶん部屋は代わっているだろう。


 うなずくのは避けて、あつあつドリアを食べる。背後に人の気配がした。


「夫と仲良くお酒を飲んでいらっしゃるそこのお方。夫に付き合っていただいてありがとうございます。お名前をうかがってもよろしくて?」


(よろしくないです)


「わたしはその、仲良く飲んでいるわけっでは決して無くてでしてね。私が座っているところにたまったま!相席になっただけでしてー」


 ぶるぶる震えながらゆっくり振り替える。


(ラスボスキター!!)


 そこにはエレナ母(仮)とがっつり目を逸らしたサンドラがいた。


「ん?」


 年配の貴婦人は聖母のような微笑みを浮かべる。


 エレナと扇の持ち方が違う。エレナは苛立ったときパチパチ扇を開け閉めするが、公爵夫人はゆったりと扇を胸に当てている。女性の扇言葉なぞ知らんが、今、逆らえばエレナが帰ってくる前に始末される!


「ご・・・ご用件は?」


「娘とも親しくしていただいているようですので、我が家にご招待をと思いまして、こうしてまかり越しましたのよ」


 公爵夫人のその言葉とともに後ろで控えているサンドラが金縁の封筒を渡してくれる。


(わざわざ、招待状を持ってきてくださった公爵婦人のお誘いを断れないよなー)


 現実逃避しても許されるのではなかろーか。


「おまえも夫の前で若い男を誘っているではないか!」


「だまらっしゃい!」


 夫の言葉に妻がピシャリと言い返す。


「気になるのでしたら、同席は許可しますが、おすすめはしませんわ」


「で、ミッチ、試食会は本当にしあさってで変更無いんだよな」


 大将が話の途切れ目に確認をとる。

 準備が大変なのはわかるが、今聞かなくても。まあ予定がかち合うよりましか。


「「試食会?」」


「年越しそばならぬ年越しラーメンを食べようと思いまして」


「エレナからここの料理はおいしいものが多いってお聞きしていますのよ」


 これは不味い。他の試食会ならまだしも、今回はまずい。


「えーっと、今回は本当に試作品で・・・」


「ポテトチップスわたくしとても気に入ってましてよ」


「お嬢様から『美味しくないものも多い』って聞いていません?」


 エレナは貴族の令嬢で舌がけっこう肥えているはずなのに、わりと目新しい物好きだ。

 それでも『試食会』には一度も呼んでない。

 最初の料理なんてロゼリアの料理のタブーを破りまくりの『不味い料理』なのだ。


「新しい料理、大変楽しみですわ。では、明日我が家に」


「明日ぁ!?」


 光弘の驚きをよそに、公爵夫人は、公爵の隣に座った。公爵は暑くもないのにだらだらと汗を流し、寒くもないのに顔がみるみる青くなる。


「夫とこんなに近くで食事をしたのは久しぶりです。店主、おすすめはなんでしょうか?」


 大将は公爵夫人の問いに、ちらりと公爵をみやってー


「まあ・・・お嬢様が好きなのは、あっつあつドリアとか、焼きそばパンとか、たらこスパゲッティーでしょうか。癖がなくて食べやすいのがキノコスパゲッティーですかね」


「ではドリアを」


 ◆


(俺の熱々ドリアが、かき氷みたく冷えちまったよ)


 ブリザード吹きすさぶ地獄の昼食を食べ終えて、家に戻った光弘はいやいやながら金縁の封筒を開けた。


 そこには明日の日付と、


『バンブミッツ先生の没ネタすべて持参するように』


 という短い文面。招待状というより裁判の召喚状にしかみえない。


 そして、翌日。

 最近気になってきた女の子の母親の前で謎の朗読会が始まるのであった。・・・orz。

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