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小さな襲来者

「む~。どれがお姉さまのなの?」


 赤毛の女の子が腕を組んで商品を見つめている。


「どれかお気に入りの物がございましたか?」


 少女がびくっと震える。大人の男性が声をかけてきたら怖いようだ。今から思えばそう言うところが、子供たちがこの店にあまり寄り付かない原因か。

 高級志向のアクセサリー店に変わりつつある今、余計子供たちが訪ねづらくなっているような気がする。


「イザベル手が空いてるなら来てくれ。ダメならダベルとスベルを寄越してくれ」


 ダベルは口が達者だし、スベルは少女より小さいから少女の警戒をといてくれるだろう。うちの心の看板小僧がいるお陰で本来の顧客層たる子供たちも商品は買わないまでも時おり店を訪れてくれるのだ。


 それにしても『お姉さま』ってことはまたエレナの関係者か?


「妹がいるなんて話聞いたことなかったな」


 兄と兄の婚約者の話はたまに聞くし、実際顔を会わせたこともあるが、妹の話は聞いたことがない。


 孤児院の子供や下町の子供たちより立派な服を着ている。が、高位貴族の令嬢には見えない。中産階級の服装に見える。


「この店の商品、ぜーんぶちょうだい!」


 はい。誰の親族か確定。違うのはちっちゃな手に載ってたのが50ロゼということくらいだろうか。

 父方のいとこだろうか。少女はエレナとはさほど似ていない。


「それじゃあ買えるのは一個かな?」


 少女はしょんぼり顔になり、


「お姉ちゃんってエレナ...さん?」


 しょんぼり顔のままこくりと頷く。


 光弘はそこらの紙のはしきれにカタカナで『エ』と書いて少女に渡した。


「この印がついているのがエレナさんの作品。だいたいあっちのコーナー」


 折り紙の半額コーナーを指差してあげる。


「んー、むー、うー。こっちがいい」


 が、少女は折り紙アクセサリーのコーナーの方がいいようだ。

 女の子なやっぱりきらきらしたものが好きなのだろう。


「んーじゃーこっちだな」


 エレナが留学前にさんざん練習したアクセサリーの数々。

 糸がはみ出ていたりしたのだが、比較的ましなのはイザベルが修正して、コーナーの隅の75%引きコーナーに並べられている。それでも一番安いので200ロゼ。

 折り紙だけなら光弘の裁量で値引きしてもいいが・・・アクセサリーの値つけはイザベルの領分だ。


(勝手にアクセサリー安売りしたら怒るだろうな~)


 そこで二階からイザベルが姿を現した。


「身内割引だ。エレナの作ったもの一個だけなら50ロゼでいいよ」


「いいの!?」


「いいのか?」


 女の子は目を輝かせ、光弘は困惑の声を上げる。


 自分の技術も商品も安売りしないがモットーのイザベルが珍しい。


「あの娘の給料から天引きしといて~」


「いやいやいや、もう折り紙教室の代金あんなに入れてくれたんだから、わざわざ雀の涙の給料差っ引かなくてもー」


「どうせ、給料明細なんかろくに見ていないだろう。あの子」


「それはそうだけど」


「うーんと」


 大人が揉めている間にも、少女はきらきらした緑の瞳で一つ一つ商品を検分していく。

 子供とはいえ女性。いや、子供だからこそ限られたお小遣いの中で良いものを選ぼうとする。その目は徐々に鋭さを増し・・・しばらく悩んだあとー


「これとこれ。ダメ?」


 少女はペンダントとブローチ一個ずつ指差して、上目使いで懇願するが、


「どっちか一つにしな」


 イザベルはぴしゃりと少女の懇願を遮った。


「んー。じゃあ、これ!」


 少女はさんざん悩んだ末、ピンポンマムのブローチを指差した。


「まいどあり」


 イザベルがにっかり笑い、できる限り可愛らしい包装紙に包み商品を渡した。


「バイバイ。またねー」


「「お買い上げありがとうございましたー」」


 子供が手を振るのを、手を振り返し見送ったのだった。


「そーいえば護衛の人いなかったな」


「外で待っていたんじゃない?」


 ◆


 毎月自分の給料明細を眺めてめっちゃにやにやしているエレナを二人は知らないのだった。

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