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遅れて来た襲来者

しばらくは光弘メインのお話。

「エレナ・スリーズはいるか!」


 黒髪の女子とその肩を抱いて現れた高校生ぐらいの男子が、乱暴に扉を開けて入ってきたので驚いた。


「えーっと・・・いませんが?」


 エレナの留学の件を知らされていないなら、たいして親しくはないのだろう。


「お前がエレナの男か?ふん?ひょろいだけの不健康そうな男だ。男の趣味は悪いな」


 目上に対する口の聞き方がなっていない。お客様だし、身分の縛りがあるから、こちらから業務以外で話しかけるわけにもいかない。


 光弘は新聞でお馴染みの二人にしぶしぶ声をかけた。


「はあ。何かお探しで?」


(なんで、今なんかなー。最初の婚約破棄から三ヶ月だぞ。三ヶ月)


 エレナの男の趣味が悪いのは納得する。つーか今納得した。


(こんなののどこが良かったんだか)


「エレナ・スリーズだ。ほぼ毎日通っていることは知っているぞ!次はいつここに来る!」


「んー。存じ上げません」


 ざっくりした日程は聞いたような気もするが、従業員兼お客様兼パトロンの情報をわざわざ売り渡してやるわけない。


「もしかしてエレナさんをかばってませんか?...。こんな純朴そうな青年を騙すなんて・・・ひどい。あんな悪女に関わったばかりに世間から言われない非難を受けて」


 そこで、黒髪の子がぽろりと涙を流す。


「なんてかわいそう...」


 まあ、いくつかは同意するが・・・。

 ただの折り紙教室の生徒のはずが、気づいたらなんか勝手に会社の乗っ取りはじめてるし、まあ、マスコミに変な噂を流されたのも事実だ。


「あなたが言っているのはスリーズ公爵令嬢ですか?」


「っ、当たり前じゃないですか!」


「...。こんなところで俺に泣きついている暇があったら、エレナ・スリーズ公爵令嬢様に直接言いたいことを言えばいいんじゃないですかね」


「貴族に対する言葉遣いがなってないようだな」


 某第何王子様の唸るように低い声。


 (ほんと、エレナこいつらの始末きっちりつけてから行けよ)


「私はあなたのためを思ってご忠告を・・・」


 ご親切な忠告なら、ぶっちゃけもう少し早めにしろよ。俺の中のあいつの呼び方すっぽん令嬢だぞ。すっぽん。

 つーか、なんで今ごろ!?なんか完全に時期遅れな感じがするんだが。絶対これ俺の対処案件じゃないだろ!


「はあー。エレナ・スリーズ公爵令嬢が、あなたにどのような嫌がらせをしたのか、わかりかねますがね。この工房に学校でのあれこれを持ち込む前に、裁判でさくっと決着つけたらよろしいでしょう」


「そんな!私が訴えても、公爵令嬢のエレナ様に叶うはずありません。証拠は握りつぶされますわ」


(王子他お偉いがたの息子って言うパワーカード持っているのに何言ってるんだか。ああ、証拠捏造しても王子&恋人側の方が不利なのか)


「そーいえば、国外追放するって言っていた件どーなったんですかね」


 本人は王子にろくに知らせもせず、勝手に海外留学したのだが。


「うっ。あれはー」


「別にあなたたちに国外追放されようが、投獄されようが、処刑されようが、あいつどこでも勝手に元気にやりそうなんだが」


 しぶとく生まれ変わって折り紙の普及に邁進しそうな勢いだ。


「処刑だなんて・・・私は結婚式の席でこれまでの行いを謝っていただいたらそれで」


「心優しいレーコは、ドッゲッザーをすればこれまでのエレナの非道な行いを許すと言っている。私としても不本意な結婚だが、エレナが皆の前で泣いて謝るのなら、側室に迎えてやってもいい。当然愛のない白い結婚だがな!」


 は?結婚?

 なんの話をしてらっしゃるのでしょうか?

 たしか、二度目の婚約もスキャンダルでお流れになったはず。


 良かったなエレナ。とりあえず婚カツ失敗しても、王子さまが拾ってくれるって。・・・絶対、習得した下町レディキックで蹴るだろうが。


 見事な蹴りが炸裂する様を想像して・・・別に王子様に危険をお知らせする義理ないわ。



 にやにやする光弘。第三王子アルフレッドに困惑の色が浮かぶ。

・・・予想(期待)していたのとは真逆の反応だ。


『今、俺間男にびしっと言ってやったのになんだこの反応は』


 王子が内心でそんなことを思ったとき、ぱんと手を叩く音が響いた。


 ◇


「ああ、買い物を忘れるところでした・・・」


 少女が手を打ち鳴らして笑顔で宣言し、ゆっくり店内を見て回る。

 その様子を光弘は黙って目で追う。


「ここからここまでぜーんぶと、そちらの二百ロゼの割引籠丸々くださいな」


 (まあ、日本人なら印に一発で気づくよな・・・)


「ちなみにそんなにたくさんどのような用途で購入されるので・・・」


「どー使おうが私の勝手でしょ?」


 華やかな笑みに一瞬嗜虐の色が差す。


「申し訳ございませんが、こちらの品、販売は制作者に確認取ってからになります」


「学校の事を持ち込むなって言ったのはそっちですよねー? 

 ちょっとぷちっとして、ぐちゃっとして、ぼーって燃やすだけですよ。

 私がされた事に比べたら、ささいな事です。仕返しにもなりませんよ?」


 自分の言ったことをそっくりそのまま返されて、光弘は「ぐっ」と言葉に詰まる。

 が、エレナが作品を一つ一つ作り上げる姿を光弘は見てきた。それを復讐の捌け口にされるのは気分が悪い。


「これらの品は委託されているだけでして、販売は制作者の意向に添う形になります。制作者は『この作品を大事にしてくれる人に売りたい』と。

 申し訳ございません。制作者と連絡が付き次第、販売可否の連絡をいたしますので、可能でしたら、ご連絡先を教えていただけますでしょうか?」


「ふーん。顔はギリアウトだけれど。あなた本当にあの子のこと大切にしているのね。あなた名前は?どんなことできるの?」


 おいこら、今、ギリアウトって言ったか?


「スギタゲンパク。特技はないですね」


 折り紙だって、食うに困ってやったことだ。


「杉田ゲンパク・・・どっかで・・・もしかして偉い人?」


「・・・いえ」


 とりあえず、目の前の高校生は日本人であることがほぼ確定のようだ。


「私と手を組みませんか?同郷のよしみ話が合うことも多いでしょ?帰る方法だって二人で協力すればー」


「はあ・・・」


 最初にギリアウトとか言っている時点でアウトだ。


「醤油と味噌が作れるんでしたら、考えなくもないですけれど・・・」


「ぐっ」


 レーコ(仮)が答えに詰まる。


(ああ、無いんだ)


 じゃあ・・・


「私は、自分で選んでここに来たんです。帰る方法があったとしても・・・・・・・・・帰らないでしょう」


 自分の答えは変わらない。ただ、言ってしまって後悔した。


 受け答えは最小限にしよう。早く切り上げてしまわないと・・・


「私のレシピ盗んだ罪は不問にって思っていたんですけれどー。アル様ぁ、この人やっぱり訴えるしかないですね」


 レーコ(仮)の声が勘に触る。まさか折り紙のことを言っている訳ではないだろう。


「レシピって?」


「私のレシピを盗んで、近くの食堂に横流ししたでしょ?」


 (料理チートかまそうとして見事に失敗したんだろー。そもそもおまえが一からレシピ作った訳じゃないだろ)


 それをこちらに当たられても。

 訴えられるのはさすがに面倒だ。それよりも・・・。

 一瞬迷ったがー。


「・・・もう一つの答えは、二週間じゃ足りないか、三週間後のこの時間でよろしいでしょうか?」


「え・・・。ええ、よい返事を期待しているわ」


「いいのか?」


 王子が、レーコを気遣わしげに見つめる。


「ええ」


 それだけ言ってきびすを返すお客様にしっかり礼をして・・・


 溢れていたものがとめどなく流れた。

 答えの引き延ばしに成功した。どうするかはまた考えるとして・・・。


「あんときは、一分だったもんな・・・はー」


 こんなときすっぽん令嬢の膨れっ面でも見れば元気が出るのだろうか。

空気な王子初登場回。

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