悪役令嬢と女子会
R15注意報発令中。
留学まであと一週間。エレナが金属パーツと格闘しているとリタが工房に入ってきた。
「ミッチ、エレナを借りてもいい?」
「いいんじゃないか?」
ミツヒロは自分に振られた問いをイザベルに投げる。
「ちょうど休憩を入れようと思っていたところだからいいよ」
「やったー!」
エレナは思いっきり万歳し、背を伸ばす。ごきごきと良い音が鳴った。
「でなに?」
そして、スパルタ授業から救出してくれた少女に笑顔を向けた。
「外国に行くんだよね?危ないんだよね?エレナお金持ちだから誘拐されちゃうかも」
「外国って言ってもちゃんと護衛も侍女もいつもの倍ついていくわ。一人で勝手にいくわけじゃないわ」
「いいから来て」
おとなしい印象リタにしては珍しくエレナの腕をむんずと掴む。
「こら、貴族のお嬢様を乱暴に引っ張ったらダメだろ!一体何をする気ー」
「男子には秘密なの!」
ミツヒロの制止にも、リタは険しい顔で言い返す。
「わかったわ。サンドラついてきて」
「わかりました」
◆
去っていく女子三人。スベルに折り紙を教えてもらっていた小さい方のタイショーが顔をしかめる。
「秘密の女子会か。どうしたんだ?」
光弘の問いに、小さい方のタイショーは無言。
「大人の階段昇っちゃうのか~」
「はあ?」
イザベルの呟きに光弘が聞き返すが、イザベルはにやにやするだけで、答えない。
「アレは女子会じゃねーよ...サバドだ」
対して、ガキ大将の方は険しい表情だ。サバドって・・・?
また翻訳機能の不具合だろうか?
「ほんとに大丈夫なんだろな!おい!?」
「気になるなら付いてくるか?女子にみつかったら後からうるさいから建物の隙間からこっそりとな。」
「僕も~」
スベルが、面白いことかと、ついてこようとしたが・・・
「お~っと、お子さまはかーちゃんと留守番しとこーな」
がっつり、イザベルにホールドされてしまった。
光弘が案内されたのは近くの空き家だった。
「これって不法侵入・・・」
「だれも住んで居ないんだからいいだろ」
秘密基地・・・ぽいものか。
こういう空家でのいたずら防止の名目でタダで住まわせてもらっているんだが。
「お願いだから火遊びだけはするなよ」
「わーってるって」
◆
エレナがつれてこられた空き家の庭には、ぼろのシャツとズボンを身に付けているかかしがあった。
ズボンの股部分には『○』が描かれている。
「なんなの?」
「レディーのたしなみ講座」
「レディーのたしなみ?」
エレナは首をかしげる。
「これを習得した女の子は一人前のレディとして認められるの」
張り切っているリタには悪いが礼儀作法、ダンス、お茶会の差配等最低限の淑女のたしなみは習得済である。
少なくとも下町の子供たちに教えられることなど何もないはずだ。
「ちょうどいいのが手に入ったの。エレナあれの、○のところを蹴って」
「はあ!? 淑女が蹴るには微妙すぎるんだけれど」
「さらわれちゃったらどうするの!?大人のレディなら自分の身は自分で守らないと」
リタの目は真剣だ。
それは下町必須スキルで、本物のお嬢様には必要ないとか、護衛がついているから大丈夫とか、いくらでも反論できるが...この下町の通過儀礼というなら一度形だけでもやっておいた方がいいかもしれない。
(まあ、今工房に戻っても、アクセサリー作りの続きが待っているだけよね)
エレナはため息を漏らした。
「一回だけよ」
念のため周囲を確認する。庭には女子三人。エレナは気合いを入れて狙いを定め、足を蹴りあげた。
「お嬢様がそのようなことをー」
むにゅ。
サンドラの制止は間に合わず。
「いま、なんかへんなかんしょくが・・・」
「豚のお○○○○」
すごく善意の笑顔が返ってきた。
「いやああああ。お嫁にいけないいいい!!」
「この通りは9割は安全だけれど1割は危険が潜んでるし、一歩細い道に入ると危険は跳ね上がるから...。ここらの娘は十回蹴れたら一人前のレディだよ!」
「お、お嬢様には護衛がついていますのでこのようなことはー」
◆
「な?サバドだろ」
「あ、ああ。」
ガクガク震えた光弘はガキ大将に手を引かれ秘密基地をにしたのだった。
◆◇◆◇◆◇
「って、ことで婚約者十人釣ってきます」
留学の前日。エレナは商店街の皆に笑顔で手を振りしばしの別れを告げた。
「お腹壊さないようにねー!」
「「「お姉ちゃんバイバイ!」」」
「土産話を期待してるよー」
「ほんと一人くらいはちゃんと釣ってこいよー」
これ以上マスコミやエレナの親類に煩わされたくないミツヒロがやる気のない声援をこっそりしっかり混ぜる。余計なお世話だ。
「半年後には婚約者連れてちゃんと帰ってくるわよ!!」
イザベルからはアクセサリー手書きの図案をもらえたし、ミツヒロには折り紙いくつも教えてもらえたし、布教活動がんばるぞー!!




