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悪役令嬢と留学準備

 翌日、エレナはペンチの使い方に悪戦苦闘していた。

 エレナの隣では孤児院の子どもが二人、古い道具ワンセットを交互に使って、アクセサリーを作っている。

 授業を受けているのはあくまでエレナ。子どもたちはあくまで見学。本当なら授業料も要るところを道具の借り賃(材料費込)100ロのみ払っている。


「お嬢様。聞きましたぜ。留学ですって」


 そう言って店内に入ってきたのはブンバーだ。


「情報早っ!?」


 留学を決めたのは昨日。どこから情報が漏れているのだろう。


「お嬢様のファッション特集どうするんで?」


「さあ、私に聞かれても。私は許可した覚えなどございません。色刷りなら赤字じゃ有りませんこと?」


「そこは問題ありません。高級ブランド店からは広告費をがっぽりいただいております。アイテムとしてそちらの折り紙もちゃんと混ぜてますし?実際、似たようなアイテムでお忍びに出る令嬢もいるらしいですし。

 あとはちょっと背伸びしたい中産階級や庶民が真似をするように・・・」


 ミツヒロから「ほとんど丸パク・・・」などと言う呟きが漏れる。


「おおむね好評だと?購入店や値段まで書いといて?」


 安物を着ているなんて思われるのは不快だ。ピンク以外の大衆紙が好き勝手に衣装を評価してくれちゃっているのも気にくわない。


『公爵令嬢は安物を?問われる貴族の品位』『税金の無駄遣い』『奇抜?斬新?公爵令嬢のお粗末ファッションセンス』


(確かにファッションセンスはちょっとないけれどー人に言われたくはないわ!)


「まあ、人によって見方が変わるのは仕方のないことです。ですが、色刷りのファッション誌って言うのは今まで貴族が見るもんだったんですよ?それが庶民の手の届くところに。 新しいことを始めるにはそれなりの覚悟も必要かと」


「なぜ覚悟をするのが私なんですか!? 大体私は許可なんてしていません!!」


「許可は他の方からいただいてますので」


「許可って私以外の誰が!」


 はたっと気づいて、サンドラを見るとそっと目をそらされた。


(つまりはお母様か残念親父の意向ってことね?)


 それなら何を言っても無駄だ。思わずため息がこぼれてしまう。


「庶民の識字率向上のためです。お嬢様はいい意味でも悪い意味でも、注目度が高いのですから。自由のためにはそれなりの犠牲を払って」


 庶民の識字率の向上って、両親ともそんなことは気にしてなかったはずだ。


「好き勝手したければ、多少はピエロを演じろってこと?」


 これが母と私のイーブンということか。母の真意がどこにあるのかわからないがここはおとなしく従っておくしかない。


「なので、ご遊学の単独密着取材なんていかがです?」


 ◆


 アクセサリー教室のあとはいつものように食堂にお邪魔する。いつもはテーブル席を使うのだが、今日はわけあってカウンター席に座った。


 夜の客層が集まり出す直前。エレナはビールを受け取りながら、愚痴をこぼす。


「西マール食堂のご飯が食べられなくなるのが痛いのよねー」


「嬢ちゃんどっか行くのかい?」


 昼の営業と夜の営業の隙間、今ならタイショーは話に乗ってくれると信じていた。


「ええ。三ヶ月から半年くらい布教活動に。ぜひタイショーにもついてきて欲しいんだけれど」


 タイショーを無理矢理連れて行こうものなら、タイショーに胃袋を支えられている西マール通りから反乱が起こりかねない。


「お嬢様、真の目的は『布教』でも、対外的な目的は『留学』です。『布教』は大事ですが、世の中に無理を通すには偽りの理由も必要なときもあるのですよ」


 横のサンドラがチクリと言った。


 別に無理難題とは思っていない。


「わかってるけどー。裏の理由は『婿探しで』、真の目的は『布教』ってことで」


「んー。わからん。俺は行けねーけど、俺の一番弟子に声かけてみるわ」


 断られるの前提での誘いだったのに、割りと色よい返事で驚いた。


「ほんと?じゃあ、よろしくー。二、三注意事項があるから、次都合のいいときに面接ね」


 夫婦二人と娘さん一人で店を回しているイメージだったけれど...他の店にいっちゃった人だろうか?


(私が欲しいのはミツヒロの国の料理なんだけれど...)


 条件に会わなければ、断ればいいだけだ。



 ◆


「お嬢さん海外行くんですよね!」


 翌日、食堂で席を確保したとたんエプロンを着た男がこっちに駆け寄ってきた。

「はい?あなた誰?」


 年はミツヒロと同じくらいだろうか。


「俺を連れていって下さい!」


 威勢のいい声に若干引いていると、タイショーが男の頭にげんこつを落とした。


「いきなりれレディの手を掴むな!ちゃんと俺が紹介するまで待て。すまねえ嬢ちゃん、こいつは俺の息子のー」


「息子?」


「ヒューって言います!21歳独身です!」


「少しは落ち着け!こいつが俺の一番弟子で、一応、ミツヒロの料理も一通り覚えている。」


「イスト語とレペス語は?もしくは共通語は?」


「目と舌と香り、あとはフィーリングと体当たりで覚えます!!」


 条件は後で詰めていくとして、とりあえずその根性だけは気に入った。


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