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悪役令嬢と鶴

しばらく修行回が続きます。

 一週間後。馬車の中でこそこそ着替えて、髪をほぐしていく。もちろん馬車のカーテンはがっつりしっかり閉まっている。

 いつも無表情なサンドラはエレナの髪を楽しそうにいじる。


「次はサイドテールなどいかがでしょうか」


「まかせるわ。またお母様が気絶してしまわないかしら?」


 ◆


「また昼間から飲んでいる・・・」


「一週間来なかったけれど?」


「ぐれたって心配されました」


 ついでに、指輪の返却手続きでもめていた。王家はどうやらまだエレナを確保しておきたいらしい。


 机には二つの皿。片方には緑の豆が、もう片方にはその鞘がうずたかく積まれている。


「これは豆ですわよね?」


「豆の鞘の端を切って塩ゆでして、もう一回塩を振っただけのもの。本当の枝豆は大豆を使うけれど、似たようなサイズの豆で代用している」


「そうなんですか」


 ミッチーの動作を真似て、豆をちゅるっと吸う。案外おいしい。塩ゆでしただけの豆のはずなのに。恐らくビールに合うのだろう。

 彼は目の前で、おいしそうにビールを飲んでいる。


「く。誘惑には負けませんわ。」


(令嬢が、教えを請う立場の者が、昼間から酒を飲む訳にはいきませんわ)


 このときはまさか自分がダイズを探す旅にでるなんて思っていなかった。


「長いプリーツってこの世界じゃスケバンなのか・・・」


 そちらは、すでに着替えていたから大丈夫だったが・・・。


「髪の乱れを嘆かれました・・・」


「趣味であのトイレットペーパー巻きをやってるのかと思っていた」


「今ものすごく失礼なこと言いませんでした?」


(扇を取り出したほうがいいかしら?)


「えっと、てっきり国外追放されたのかと。で、婚約破棄はどうなったの?」


「国内の有力貴族との婚約を早急に整えようとしているのですが、噂が足を引っ張って、いいお話がなかなかないんです」


「あっても子持ちとか、ひどければじいさんとか?」


「ええ」


「まあ、国内で婚カツできないなら、海外留学して男漁りすればいいんじゃないか。

 親戚連中や知り合いの中に一人くらい外国出身の人いるだろ。母方の姓で留学すればバレないだろ?」


「なんで私がこそこそ国外逃亡する話になっているんですか!今逃げたら自分の非を認めることになってしまいます。」


「『レーコ様』ブーム到来しているから、そのうちみんな忘れてくれるよ」


 ガントが放置していったであろう新聞紙『週刊ピンク』の大見出しには『レーコ様婚約秒読みか?』。小さく『婚約破棄令嬢登校拒否の真意とは!?』と言う記事が載っている。


(『婚約破棄令嬢』って、これでは私が王子との婚約を蹴ったようではありませんか)


「一応言っておきますが、単位は足りていますし、成績はトップ3ですから」


「あ、うん。じゃあ、次は鶴で。ちょっと難しいけれど、がんばろう。・・・うまく説明できる自信がないけれど」


「ちょっと先生がしっかりしてくれないと」


「じゃあまず三角に折って、もう一回三角で、三角の袋二つになったと思うけれど、片方の三角を半分に折る。これは型をつけるためだからしっかり折って。で、折り目に沿って三角のお口を開けると、三角が四角になる」


「は、早いです」


「ここからどんどん難しくなっていくよ。もう片方の三角袋を、同じように折ると、全体が四角になる。四角の中を確認したら角が二つ生えてー」


「ひいい」


 三十分後。


「ほら、もう一息だよ。この二本が頭と尻尾になる。鶴は尻尾が命。きれいなほうを尾にして」


 ミッチーの中でよくわからないこだわりがあるようだ。


 ようやく完成した鶴は顔が潰れていたが、羽を拡げるとちゃんと鳥っぽくなっていた。


「これを千羽折ったものが『千羽鶴』。病気の回復などを願う時に折る」


「千羽ってすごいですね」


「普通は友人、家族親戚など何人かで折るよ」


「そうなんですか。あのガント工房の『千羽鶴』も一人で?」


「あれはずるして50羽くらい」


「二つ連なった鶴はどうなってるんですか?」


「四等分に折り目を入れて、中心が切れないように残しながら、上下四角をカットして、あとは普通に鶴を折っているだけ。作り方が気になるなら次回おしえ....」


「『鶴』が折れたってことは、『花』を教えてくれるんですよね!?ね?」


 ぐいっと距離を詰めるエレナに、彼は慌てて身を引いた。


「わかったから急に近寄らないでくれる?そんな食いぎみに来なくてもちゃんと教えるから!」


「次回もお願いします。たぶん三日後か四日後に来ます」


 サンドラがミッチーに一万200ロゼを渡す。授業料と変身セットの衣服代だ。


「毎回余計目に授業料もらっちゃって悪いね」


「お菓子までご用意いただいてるので...それにこれでも授業料安すぎだと思っています」


 なぜか、そっと目を逸らされた。


「ま、まあ高級なお茶もらっているし・・・ぐ、きらきらした目がぐっさり刺さる」


(まあ、きらきらした目だなんて・・・ふふ)


 四日後『ぐっさり』刺さった理由を知って、笑顔で扇を鳴らすことになるのだが。

『鶴』...すんません。説明ショートカットしました。

何も考えなくとも折れますが、文字に起こすのは難しい。



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