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海外布教計画始動!

「そこ、しっかり折り目つけないと、うまく折れないから」


「はい」


「うん。いい感じ」


 なんとか、難所は乗り越えたようだ。


「あとは、ふんわりとしたバラをイメージして、爪楊枝や串で花弁の先を丸く巻く」


「で、できましたー」


 鶴よりかは、難易度が低かったような気がする。


「ミツヒロのよりかバラな感じが出ているよ」


 イザベルが誉めてくれる。確かに、かっちり折られているミツヒロの作品よりかバラの雰囲気が出ている。


 相変わらず、『スギタ工房』前には新聞記者が張っているので、店内は暗い。


「一通り覚えたんだから、工房のことは放っておいて、自分の婿探ししたら?留学先で男見つけてこいよ」


 ミツヒロの言いたいことはわかる。


「でも・・・」


 王子に二度も婚約破棄された娘なんて、海外に行っても貰い手があるかどうか。

 二度目の婚約破棄は未遂だったが、その件も結局新聞に載ってしまった。


 それに今の時期に留学なんて、逃げるみたいで嫌だ。

 逃げるのは嫌だが、実際の被害を被っているのは『スギタ工房』だ。


「母親の姓で行ったらいいだろう?ミドルネーム使うとか」


「国外か・・・いいかも」


 要は負け戦にならなければいいのだ。


 婿探ししろとうるさいのは、なにもミツヒロだけではない。家族が毎日大量の釣書を持ってきている。

 週刊紙が『エレナ・スリーズ公爵令嬢』の記事を書き立てるたび、没落貴族やら老人の後妻やらのランクが下がっていくのだが。


 ちなみに、週刊ピンクはどこからか圧力がかかったらしく、『令嬢xインタビュー』の後は、『シャルン英雄譚』の全話掲載。


 その後は路線を大幅変更。『公爵令嬢お忍びファッション』『ワンポイントアイテムで変わる公爵令嬢の着まわし術』『公爵令嬢イチオシ秋冬コーデ』『公爵令嬢が教えるエレガント節約コーデ』などの特集記事を掲載。


 イチオシた記憶もないしエレガントなんとかを教えた記憶もない。

 服や靴やらバッグやらの購入店から値段まで書かれている上、『着まわし』とか『節約』とかの記事が踊っているのが不快だ。


 公爵令嬢が服を着回しているって思われるのどうよ?

 そりゃ、町歩き用の服は毎回変えているわけじゃないけれど。


 で、今回の記事は『ガーリーからフェミニンまで 公爵令嬢の攻めファッション!!』

 と、訳のわからない特集が続いていた。


「ガーリー?フェミニン?」


 聞き馴染みのない言葉が目に飛び込んできて首をかしげる。

 四分の一ページとはいえ、わざわざカラー刷りでよくやる。


「元は取れているのかしら」


(そう。行くからには元を取らなきゃ。ここで鬱々としている場合じゃない。今の私に足りないのはー)

 

 貴族の中には安物を着る公爵令嬢に眉を潜める者。

 庶民の中にも税金をお高い靴やらバッグに使っていることに怒りを覚える者、様々だが『スギタ工房』の売り上げとしてはプラスに働いている。


 新聞には親切にも購入店まで載っているためイーデスの店とイザベルのアクセサリーはバカ売れ中である(アクセサリーはほぼ閉店状態の『スギタ工房』とは別にイーデスの店に置かせてもらっている)。

 


 とにかく父を二度と、べったり蛙か蛾みたいに店の窓に張り付かせるわけにはいかない。


 何より、このエレナ・スリーズがこの工房のてこ入れしてもうそろそろ二ヶ月半。あらたなテコ入れをしなければと思っていたところだ。


「逃げるんじゃなくて攻め!もっとビッグにならなきゃ」


「やけ食いするのか?」


「『ミッツアクセサリー』の海外進出よ!」


「はあああ!?海外?!てか、どさくさに紛れて店の名前勝手に変えるな!!」


「おおお、さすがお貴族様!考えることがけた違いだね!」


 驚くミツヒロの横でイザベルが面白そうに笑う。


「支店を作るのはもっと後だけれど、ちょっと下見と宣伝を兼ねて教会で奉仕活動をするつもり。でも親のお金で行くんだから、男あさりをしているふりはしなきゃね。友好国二か国+中立国一国を一月半から二ヶ月くらいで回って、計六ヶ月遊学に行ってきます!」


「おーい。帰っておいでー」


 怒濤の勢いで、勝手に予定を組んだエレナの前でミツヒロが手を振る。


「いえ、行きます!ついでにショーユも見つけてきます!」


「おお!そうかそうか!国によって呼び方違うから」


 ミツヒロはあっさり手のひらを返してエールを送った。


「ジャン、ショー、トーバンジャン、コチュジャン、ヒシオ、ミショー、ミソ、が怪しいんですよね!似たような響きのがあったら片っ端から調べてみます。

 じゃあ、ちょっと親と打ち合わせしますので今日は帰らせていただきます」


「はや!まさか、三日後に出発とかしないよな?」


「いくら公爵令嬢と言っても、さすがに三日で準備はハードすぎます。出国の手続きがありますし、侍女やら護衛の選定もあります」


「じゃあ、人様にちゃんと教えられるように手数を増やしてやるから、しばらくは毎日通うこと。で今日の宿題は折り鶴10個。時間をかけてもいいから丁寧に美しく折ること」


「・・・・・・」


 (何個鶴を折らせたら気が済むのよ・・・)


 エレナは無言だったが、顔には出てしまっていた。


「スギタ工房の名を使っておいて各国で大失敗なんてことにしないよな?」


「は、はい」


「それが出来たら、次はアヤメを教える」


「アヤメ?」


「たしかこの国の国花の一つだったろ・・・えーアイ・・・」


「アイリス?」


「難易度は難。『鶴』の応用で、途中でどこを折っているかわからなくなる可能性が・・・俺もぶっちゃけ迷子になった」


「うっ」


 鶴の応用の上、折り紙迷子。一度はまるとなかなか抜け出せない。


「折り紙だけ教えても、あんまりお金もうけにはならんから、君はしっかりアクセサリーの作り方も覚えて教えなきゃならない」


「え?」


 そこで、イザベルが作業の手を止めないまま、顔だけ少し上げて話に加わる。


「あんた、海外留学も奉仕活動もいいけれど、行った先で、アクセサリー工房と伝手があるのかい?道具を全員に買い与えるつもりなのかい?」


 手芸用のペンチがないと、金属の輪を曲げたり繋げたりするのは無理だ。


 そっと生徒の方を見ると視界から道具を隠されてしまった。


 ちょくちょく見学に来る孤児院の少女(名前はアリアというらしい)だ。


 最初のうちは手芸道具が買えなくてじっと作業を眺めていたが、最近はダベルが修行を放り出したタイミングを見計らって、お古の道具を使わせてもらっているようだ。


「ないです・・・」


「まず道具を揃えなきゃ、話にならないし、全員が興味を持つわけではない。やる気のない者に道具を押し付けたって意味がない」


「はい」


「で、最初の問題はあんたがやる気があるかってこと」


 エレナはアクセサリー作りは全くの素人と言っていい。


 ビーズアクセサリーは普段自分が身に付けるアクセサリーと趣が違うのは面白いとは思う。

 が高価な本物のジュエリーを身に付けている身としては、正直ガラスビーズのアクセサリーは見劣りする。それ単品で心惹かれる物ではない。


 少女のように隙間時間を待ち構えて、アクセサリー作りを貪欲に覚えようなんて気はない。

 折り紙の1/10も興味を持てない。


「うっ、イザベルがついて来てくれたりは?」


「やだね。その間子供らはどうするのさ?まともに言葉の通じない外国に引きずり回す気かい?」


 ついで、エレナはちらりとミツヒロを見る。


「あ、もちろん俺もパス。やっとそこそこ落ち着いた環境を手に入れたのに、ここから移動したくない。もう冒険するのはこりごりだ」


「外国語話せる職人さんとか知り合いにいませんか?」


「ないね。やる気があるならペンチの使い方教えるけれど?」


 母がレペス出身のイザベルはイスト語の挨拶や数字位は言えるが、それは話せる内には入らないし、エレナに伝えるつもりもなかった。


「うまくできるかわかりませんが、よろしくお願いします」

アヤメ(かきつばた)・・・私はかきつばたって教わったんですが、一般的にはあやめで紹介されていることが多いようです。難易度は迷子にならなければ普通のはずです。(五回ぐらい失敗して満足に折れたのは一度っきり)。そこそこ折るので、できれば15cm角からチャレンジした方がいいと思います。


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