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悪役令嬢とハート?

「くらい」


 エレナがぽつりと呟く。


「仕方がないだろう。」


 ミツヒロが不機嫌な声で答える。


「暗い暗い暗ぁーい!!!!

 せっかくの窓なんだから、ちゃんとフルオープンに!こんなんだったら気分も沈んじゃう!」


「「誰のせいだと思ってんだ」」


 ミツヒロにイザベルまで加わって抗議の声を上げる。


「私生活までフルオープンにするつもりはない!本当なら店も閉めたいくらいだよ!

 窓の隙間から朝飯から、夕飯までチェックされる俺の身になれよ」


 令嬢xのインタビュー記事掲載以来、他の新聞社まで乗り出してくるようになった。

 貴族街はさすがに追い払われるが、下町(ここ)は張り放題。

 ミツヒロに続いてイザベルも不満を漏らす。


「出先でも、こそこそ嗅ぎ回わられて」


「『公爵令嬢の恋人の今日の食費は100ロゼ』とか、打ち上げでちょっと奮発して焼き肉にしたら『令嬢と未亡人二人でホルモンナイト』とか、わけわからん記事を書かれて・・・」


『教会での奉仕活動』の打ち上げで食べた、ガーリックとごま、甘辛ソースで『ほるもん』。その肉の脂で焼いたキャベツももやしもおいしかった。庶民の味と言うのもなかなかあなどれない。


「あんたも『臓物をオーガのごとくむさぼり食う令嬢』なんて書かれて、腹立たないのかい?」


 あれは、エレナがナイフとフォークでぷるぷるのモツに苦戦している間に、イザベル家族が、モツを次々とフォークにぶっさしたり、ミツヒロが木の棒二本でパクパク食べたりしていたのが悪い。

 お嬢様的な食べ方をしていたんじゃ完全に乗り遅れてしまう。


「ソーセージだって、腸詰めなんですから、令嬢が食べても何も問題ないです!」


「おまけに子供たちにも直接声をかける始末で・・・」


 それはさすがにまずい。子供たちには不快な思いをさせるわけにはー


「新聞社のやつらが、入れ替わり立ち代わり子供に菓子やらを与えて聞き出すから、夕飯を残すようになってね。

 まあ、残ったもんはこの男が文句も言わずに食べてくれるから無駄にはなっていないけれど」


 ため息をもらしながら、嫌みを言われる。


「あう。マジすみません」


 エレナ自身は、母の手料理と言うものを知らずに育ってきたが・・・少ない時間で、子供たちのために端正込めて作った料理が、肝心の子供らに残されることほど悲しいことはない。


 何とかする簡単な方法は思い付くが、


(・・・それも確実じゃないし)


 エレナはその答えを口にするのを躊躇した。


 ◆


 雨戸と扉のすりガラスから漏れる光とランタンの光に照らされる店内だが、裏庭からの光も入っているので、真っ暗と言うわけではない。


「で、今日は何を作っているんですか?」


「最近ちょっとやる気が出てきてね。二月分のイベント飾り。猫にチョコレートっと」


 教室の成功に気を良くしたのもあるが、皿洗いのバイトに行けない分(バイト先に記者が突撃してきたらバイト先にまで迷惑がかかる)、他で稼がないといけない。


 彼は折り紙工房として各商店の季節ごと、月毎の店頭飾りを請け負っている。


「かっわいい」


 猫がハートを咥えている姿がありえないくらいかわいい。


「これ買います!」


「まあ、買うって言うなら、売るし、気に入ったのなら作り方教えるけれど」


「教えてください!って、なぜに猫にハート!」


「俺の世界じゃ男が女の子からチョコをもらうリア充イベントがあるんだ。く、リア充め!」


「リアジュウー幸せな人を呪うイベントですか...」


 たまに彼の口から『リアジュウ』の意味は何となくわかる。


「万年ボッチの俺は、バレンタインもクリスマスも、正月も誕生日も家族で祝ったらあとはゲームをやっていたな」


 どうやら、彼はチョコレートを食べたいらしい。庶民にはまだまだ贅沢品。


「よし!今年は、私がチョコをあげます!」


「おう、よろしく・・・期待せずに待っとくわ」


「で、なんで『ハート』を咥えているんです?」


「「『私の心をプレゼント』的な?」


「え?奴隷契約な感じの物騒なイベントなんですか?」


 エレナは首をかしげる。

 さすがにこの国では奴隷制度はとうの昔に廃止されている。


「そういうのじゃなくて女子が好きな人に想いを伝える的な告白イベントだよ」


「は、はあ!?こくはくー!?」


 そういう大事なことは先に言え!


「私ってばこくはく予告をしちゃったのー!!?」


 全力で叫んでしまって、ぜーはーと肩で息を整える。


「お、落ち着け。大丈夫だから。誰も公爵令嬢から本命チョコもらえるなんて思っていないから!

 そんなでっかい声で叫んだら、外で張っている新聞記者に聞こえてしまうだろうが!!」


「本命?」


 エレナが落ち着きを取り戻したのを確認して、ミツヒロが説明を続ける。


「『本命チョコ』は本当に思いを伝えるためのチョコで自分で作ったりめっちゃ高級なチョコを渡したり、『義理チョコ』は家族や友人、会社の同僚に配るチョコな」


「わかったわ」


「一月はお正月、二月にはバレンタイン、三月はひな祭りとホワイトディー。四月はお花見と入学式、五月は端午の節句でー、六月は結婚式が多い。七月は七夕で八月はお盆、花火大会。九月、十月が秋祭りに中秋の名月、ハロウィン、十一月は思い付かんが、十二月はクリスマス」


「ほぼ毎月お祭り騒ぎなんですね。日本は」


「まあな。日本に元からあったイベントもあるけれど、いろんな国のベントをアレンジして楽しんでいる国だったな。で、ハートと猫覚える?」


「もちろん」


 一時間も経たずに猫とハートを繋げ、完成。


「で、ハートをなんでわざわざ折っているんですか?切った方が早くありません?」


「自分で切ったら、なんかかわいい感じにならないんだよ」


「次はバラとかいいですね」


 花の王様。ロゼリアの国花でもある。できれば一度は折ってみたい。

 

「バラか?何度か挑戦したことあるけれど、失敗したな」


「そうなんですか」


 何でも折れると思ったのに残念。


「偉い学者さんが考えたものらしいけれど、展開図見た瞬間に無理って思ったな・・・。それでも、チャレンジはしてみたけれど。・・・うーん。一つだけ成功したのがあった・・・ような」


「じゃあぜひ」


「一、二度折ったきりだから、手が覚えているかどうか。二、三度練習して思い出せなきゃ諦めてくれ。どっちにしろ今日は遅いから次回だな」


「はい」


 ◆◇◆◇


 翌年の二月に送られてきたチョコに光弘は首をかしげる事になる。

 子供たちやイザベルには高級菓子店『プチトリアノン』のチョコ。

 箱も宝石箱のように美しく、チョコの一粒一粒が繊細な技術で作られた口の中で甘く儚く蕩ける宝石だった。


 対して光弘に送られてきたのはハート型なだけの、普通のチョコだった。


「俺って嫌われてたりする?」


 光弘は少々堅いそのチョコをがりっと噛んだ。

ハート...黙々と折ってる最中、折るよりか切った方が速い?とか思ってしまったダメな作者。


バラ、いいですよね。一度は折ってみたい。

バラの折り紙は難しいのから易しいのまで色々あります。

興味のある方は一簡単なものからチャレンジしてみましょう。

○○ローズってお名前がついているのは、展開図見た瞬間に諦めてしまった過去が。そして未だ折れない。


焼き肉屋さんはじめて行った時は、部位すらわからず、こりこりしたものをもたもた噛んで完全に出遅れてしまった過去が...。


チャリティーパーティー回、フィフス公爵夫人の子供『娘』→『息子』に変更しました。


お読みいただきありがとうございます。

次回より、『海外布教編(あと乗り遅れた襲来者もちらほらと)』始まります。


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