偽書 神の辞書(ネタバレ回)
約100年後のお話。
ある意味ネタバレ。
ネタバレが嫌な方は次回更新をお待ちください。
100年余り後。
大聖堂の前で自らの頬を叩き、「よし」と気合いを入れた一人の女性。彼女が向かったのはー
『教会聖遺物担当課』
神の遺物の疑いがあるものを発見した場合は、教会か国に届け出なければならない。
年若い神官に狙いをつけて、声をかけた。
「書庫を整理していたらこんな物が出てきまして。念のため鑑定をお願いします」
◆
「そこまで古いもんじゃありませんね。『偽書』って書いてありますし。ブンバー・ストーンさんって?」
神官は面倒くさそうに女性に尋ねた。言外に「明らかな偽物持ってくるなよ」と言っている。
「曾祖父だったか、その前だったが、ちょっとだけ小説にはまっていた時期があったそうで」
(・・・俺の考えた設定!的な、あれか。さっさと昼飯行きてー)
そういうものまで、持ち込まれて余計な手間を取らされるこっちの身にもー
神官のパラパラとめくる手を、ピンク・ストーンが緊張した面持ちで見つめていることに誰も気づいていない。
「個人のお遊び的なものでしょう。一応、用紙だけ書いといてください」
『教会聖遺物担当課』配属三年目の晩夏。ある程度の権限を与えられていた彼は、上司に回すことなく、用紙に自分のサインをし、『偽』の印を押した。
女性が、判を押される瞬間を固唾を飲んで見つめていることにも気づかず。
「偽物で残念でしたね」
「ええ」
慣例通り『真偽鑑定』の常套句を告げると、女性は淡く微笑んで教会を後にした。
その笑顔に神官は一瞬どきりとしたが、ブルブルと頭を振って、昼休憩に行った。
ちなみに、『教会聖遺物担当』の業務は、聖遺物の鑑定、回収以外に、宗教を脅かす本の『禁書指定』も含まれる。
年若い神官は知るよしもなかった。教会の門を潜った瞬間、女性がガッツポーズをとったことを。
・・・このとき犯した大失態で、自分が田舎のオンボロ教会に左遷される未来を。
(ついでに上司も巻き添えを食って、ズタボロ教会に飛ばされる事になる)
◆
ブンバー・ストーン。『週刊ピンク』の創始者の一人にして『シャルン英雄譚』の作者の一人。
ブンバーの死後、100年後。
『偽書 神の辞書』と呼ばれる本が後にブンバーの子孫ピンク・ストーンによって『発見』される。
手書きのノートで、著者であるブンバー自身がタイトルに『偽書』とつけていて、年代も新しいことから、小説のネタとして作ったものとして、教会に偽書認定された。
ピンク・ストーンは偽書認定された直後に嬉々として、自分の出版社で『偽書 神の辞書』を販売。
『ファテ・ストネ解読』といった真面目な学術書、『神の予言』といったオカルト本の火付け役となり、『ピンク出版』始まって以来のベストセラーになる。
教会は、『神秘への冒涜である』と発禁処分を求めたが、教会の権力が弱まっていたため、出版停止には至らなかった。
一族の悲願を果たせたピンク・ストーンは会心の笑みを浮かべてこう言ってのけた。
「『偽書』は『偽書』なんだから、教会が放置しても別に構わないでしょ?」
真実をほじくりかえして、どんな方法を使っても曝すのが私たちの仕事だ。
エンディングはすでに決まっているエンディングにしたかったので。




