ファテ・ストネ
裏設定的話。本編とはあまり関係ないです。
「...『強欲のペルソナ《仮面》3』」
ガッツリ読めてしまった。
『3』ってことはどこかに『1』と『2』もあるはずだ。
「暦石って実際見た人がいるの?」
光弘はごくりと唾を飲み込みながらエレナの同級生シスターに尋ねる。
これは『眼鏡をはずせば美少女シスター』に浮かれている場合ではない!
「地方では教会保護下にない数基が掘り起こされて、売られたり、村興しに展示されたり・・・嘆かわしいことです。実物を見たいのでしたら大聖堂には回収保護に成功したファテ・ストネとアークが展示されていますよ」
微妙な笑顔は、アークとファテ・ストネを盗掘者から買い上げちゃっかり展示、集客している大聖堂への嫉妬と怒りがわずかににじみ出ていた。
「どこの世界でも盗掘はあるんだな。ファテストネって?」
「暦石のことよ」
エレナが答えてくれる。
「古墳とかみたいなもんか。そんときも世界が揺れたってことでいいの?」
光弘が転移してからこの一年、地震なんて経験したことがない。
「村興しで掘り返し作業をした数日間小規模な地震が各地で頻発したそうです。
考古学者は神の罰を信じず因果関係を否定し、それどころか『学術研究』の名のもと神秘を、神域を暴こうとしています。地方領主の中には勝手に発掘許可を出す始末で」
シスターはまた「嘆かわしい」と呟き、爛々とした目でエレナに詰め寄った。
「エレナ様は、神秘は神秘のまま派ですか?神秘は暴くべき派ですか?」
「えーっと」
ぶっちゃけどっちでもいいー興味のないエレナの顔がこっちに必死に助けを求めている。
「えー、僕の個人的な考えでよろしければ...古代の神秘をその目で見たい、自分達のルーツを知りたいという気持ちを抑えるのは難しいでしょう。
ですが、十分な技術も、その遺跡への崇敬の念も無いまま神秘を現世にさらすのは...神秘と知識の汚損に繋がるかと思います」
そして、自分が知る例を挙げてみる。
「故国の大昔の墓には美しい壁画が描かれていましたが、人が足を踏み入れると、カビが生えてぼろぼろになったそうです。別の国では他国の調査によって神殿の彩色を剥がされたとか、一部を持ち去られたとか」
「神殿の彩色を剥がす?神への冒涜ですか?」
シスターが眉をひそめる。
「さあ、その方の美的感覚の問題ですかね。ところどころ色が残っているよりも純白の方がきれいだとか」
古代のロマンとか好きな方だったので、ある程度は自分の考えを言えたが、あんまり調子づいて戦争による異文化の破壊、略奪は正当か?なんて話になったら、もしこの国が『やらかしている側』だった場合、異端認定とか国家反逆罪とかされかねない。
エレナもスベルもぽかーんとしていることだし、もうここらへんで切り上げよう。
「僕自身は神秘を知りたい派です。ということで、今ここにある神秘をゆっくり見学させていただきたいのですが?」
「はい。貴重なご意見ありがとうございます」
シスターが離れ、光弘とエレナ、スベルで見て回る。
「聖典の写しですって。誰も読めない神聖言語で書かれていて、『解読を禁じられている』そうよ。自由におさわりくださいって。」
ロゼリア語が苦手な光弘とスベルの代わりにエレナが解説文を読む。
「...ゲームのせつめーしょじゃねーか...」
じっと見つめるまでもない。『強欲のペルソナ3』とガッツリ書かれている。
エレナが聖典の写しをぺらりとめくる。
「読めたらちょっと面白いかもしれないわね」
ちらっとこちらを向き、にっこり微笑んだエレナ。どきりとする。
先程は考古学とか神秘には全く興味なさそうだったのに。
「そーだな!」
読めるとばれていないよな。
中世ヨーロッパの細密画風になったキャラクターイラスト。
赤毛の少女に目が止まる。
『スリーズ』
今度こそ心臓が跳び跳ねた。思わず、乱暴に聖典を閉じてしまった。
「いくら、複製だからって乱暴に扱ってはダメでしょ?」
「あ、・・・ああ」
怖い。これ以上は絶対読んではいけない。表紙にも、一番最初の紹介イラストにもいたから、恐らく主人公。髪色が金ではないから、エレナでは無いはずだが...。
なら、“俺には”関係ない。
とりあえず、今見たことは全力で忘れよう。それでも一応確認は必要だ。
(問題は)
紹介文はなるべく目にいれないように、モノリスの回りをぐるっと一周。
モノリスの下辺に近づいた光弘は台座に半ば埋もれそれを発見する。
「...これ、『B』じゃなくて『D』かいっ!?」
「な、なに怒ってるの!?」
エレナが驚きの声をあげる。
「モノリスは3つ?」
ちょっと距離を取っていたシスターに声をかける。
「サイズや形は異なりますが国内では全部で15個あります」
「は?15!?外伝?ファンディスク?移植?」
「うち三個は外国です。イストと、レペス、フーロに一つづつですわ」
ぶつぶつと見つめている光弘に、それまで一行の様子を観察していたブンバーが近づいてきた。
「今の話が売れなくなったらファテ・ストネの謎を扱った小説でも書きましょうか?」
「神の謎に挑むつむりはないよ」
答える光弘にブンバーはさらに問う。
「次工房が休みの日はいつだい?」
◆
子供たち相手の慣れない講義にどっと疲れた翌日は、工房を休みにした。
明日は、打ち上げの予定だ。
光弘の部屋に通されたブンバーは言った。
「聖職者になるつもりがないなら、あの『原稿』は他人にお見せにならないほうがいいですね。聖典の勝手な解釈をした方が裁判にかけられたとか、不審死を遂げたとか」
まあ、『この世界はゲームです』説なんて、地動説よりか洒落にならねー。
「そういう忠告はもっと早めにしろよ」
見られたのは、ブンバー、エレナ、それにサンドラ。
シスターは自分の不審な行動に疑問を持っただろうか?
「実際に見てもらってからの方が早いですから」
ブンバーが薄い茶をすすって、それにーと付け加える。
「そのうち三女神を出す予定なんですから、主神殿は一応回ってみて損はないですよ。聖地巡礼されるなら多少は経費をお支払しますが・・・」
「ブンバー。『自分が何の上の立っているのか』知るのは怖くないのか?」
「先生、あっしは『真実をほじくり返す側』の人間なんですよ?」
日本語を教えたことはないが、最初に原稿を見せたときにブンバーは大変興味深げに...食い入るように見て、その後の打ち合わせのときも毎回読めもしない原稿を必ず一回は目を通していた。
「先生のところは文字が多い上に、複雑だ。全部読むには...ただ先生が気にされていたところ、1はZ、2はD、3もDでしたね」
余計な情報さらっとぶちこむなよ。
「勝手に解読するのは構わないが、俺を巻き込まないでくれ。まあ、発表は『人の先祖は猿』ってとんでも説が出て落ち着いた頃がいいかな」
「本当にとんでも説ですな。さすがに私でも信じませんぜ」
◆
手を掲げて、自分の手を見る。
「この世界にいる俺はなんだろうな」
電子の一部になったのか?他の人は?
また女神に会えば質問に答えてくれるだろうか?
昨晩もさんざん考えた。何度も考えた結果。
『モノリスがゲームソフトのケースだったことは永遠に忘れよう...』
光弘としても『ゲーム』に巻き込まれるのは、ごめんだ。
三神殿に赴いて聖典を読めば、未来がわかるかも...苦難から逃れられるかもしれない。だが、未来を知るのはこの世界の人々に不公平とも思う。
この世界が...最初に助けてくれた人、ガント、イーデス、イザベル一家、食堂の人たち、子供たち、サンドラ、エレナ。彼らをゲームだなんて思いたくもない。
光弘はそう心に誓うが...。
この物語は、『ジャンル異世界恋愛(?)』安全安心のB~Cを目指して書いております。
光弘に世界の謎とか古代の神秘を解いてもらうお話にはなりません。




