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エレナと新聞記者

R15注意報発令中。

 翌日、エレナは11時半過ぎには『工房』に到着し、その日の朝に発刊された『週刊ピンク』の最新号を読み出した。


「『令嬢x父兄襲来!!娘を取り戻そうとするも失敗!』

 令嬢xさんも大変なのね」


 のんきなエレナの声に光弘は「いや、君のことだから」と突っ込みたいのを堪えた。やんわりと危機を伝えなければ。


「詰めてきてるな~。こんなん読んでる場合じゃないよ。僕の言ったことしっかり考えてくれた?」


(ここまでヒントを出してくれているのになぜ気づかない? あっ、お兄さんのときはエレナはいなかったか)


 もういっそ自分の副業(ひみつ)を打ち明けようか。


「あははは。お酒のみ過ぎちゃって寝ちゃった。さっきまで爆睡しててー」


「公爵夫人は人生初の二日酔いかと心配されていたのに、抜け出すなんて」


「サンドラも止めろよ」


「最初は新聞社に行くと言ったので、出版差し止めをされるのかと」


「後に残らないタイプか。今からでも、すっぽかしちゃいなよ。今なら傷つくのはブンバーの首くらいだよ。きっと今ならまだ間に合うだろう」


「お昼に本誌初特大増刊号ですって」


 記事の欄外にしっかり『本日正午に発売』と書かれているのを見て、光弘はため息をついた。


「超イヤな予感するんだけれど」


 ◆


 正午の鐘と同時に週刊ピンクのブンバーが現れた。


「さっそく始めましょうか?」


 エレナは目の前のブンバーを見据える。いったいどんな質問が飛んでくるのか。


「まあ、あわてずに、まずは喉を潤させてください。うん。これはよいお茶ですね」


 温かいお茶を飲んで一息ついたブンバーはにこやかな笑顔をエレナに向ける。


「では、率直に悪役令嬢Xについてどう思いますか?」


 その目の奥は狩人のそれに変わっていた・・・が、エレナは気づかない。


「どうとは?」


「連載初期から読んでいただいているとお聞きしています。実在したとしてどのような感想をお持ちなのかと」


(やはり、虚が8、実が2と言ったところかしら)


 複数の令嬢のゴシップネタを組合わせてコラムを書き上げていたのだろう。


 確かにエレナは第一回から令嬢xを読んでいる。


「難しいですわね。実在するのなら、是非会ってみたくはあります。少々奔放で自分が騙されていることに気づかないおろかな人物。親の反対を押しきって好きな人を一途に想うところは、正直少し憧れますが、現実にはこのような自由な生き方は難しいでしょう。・・・このようなことでよろしいのでしょうか」


「ええ、十分ですよ。令嬢xに会って・・・アドバイスするとしたら、なんと声をかけますか?」


「自分の立場をよく考えなさい。その男に道を踏み外すだけの価値がありますか?でしょうか」


 バッタン! と扉が乱暴に開かれる。現れたのはガントだった。


「うちの若いもんがこれを持ってきた!」


「なんですか、接客中ですよ。お、お嬢様ー!」


 振り返ったがタイトルにエレナとミツヒロは目を見開いた。


『令嬢xは公爵令嬢エレナ・スリーズ!!当紙作家と熱愛発覚!!今までの全記録再掲載!!』


 婚約破棄されたエレナスリーズ公爵令嬢はレンヌ川で失意に沈んでいたときに当紙作家のミッツ・スギータ氏に優しく慰めてもらい、その優しさに一瞬で恋に落ちた。


 以降、その次の日から彼の家に足しげく通い、愛を育んで来た。


 ぎぎぎと隣の男を振り返るとミツヒロはひきつった笑みを浮かべていた。


「こ・れ・は、どーゆーことですの?」


「え~~、と」


「どういうことですの、これは?」


 彼はエレナの再度の問いかけに顔をそらした。


「どうゆうことかと言われましても、記事の穴埋め小説を担当してまして・・・」


「ミッツスギータなんて名前ならさすがに気づくと思うんですが」


「ああ、不定期だし、ペンネームのフルネームは『バンブミッツ・スギータ』なんだ。紙面の都合上たいていは『バンブ』『バンブミッツ』って省略されているけれど」


「あなたが、バンブミッツ先生だったんですか!」


 新聞の記事に憤っていたはずのサンドラがギラギラした眼で、割り込んできて食いぎみに尋ねる。


「バンブミッツ?」


「『シャルン英雄譚』の作者様ですよ」


「あの「あん」とか「やん」とか言っているだけのごみ小説を?」


 主人公がモンスターを退治して女性を救うのは良いが、助けた女性と即一夜を共にするのはどうかと思う。


 一度うっかり目にいれてしまって非常に不快な思いをした。


「ちなみに地の文は僕で「あん」や「やん」や擬音を担当しているのが、ミッツ先生ね。ストーリーは互いの知っている民話や伝承を持ち寄ってって感じ?」


「いや俺だって最初は現代日本のことを書いたら、一儲けできるって思ったんだよ。それなのにどこの出版社に持っていっても「何百人も積んで走る鉄の箱や空を飛ぶ鉄の鳥なんて荒唐無稽すぎる」って言われたんだよ。やっと拾ってくれたのは週刊ピンクで・・・」


「マルドはいつ復活するんでしょうか!?」


「いつって、あれ人気が落ちてきて、しゃーない流れを変えるかってビーエル路線に舵を切ってみたものの・・・」


「一定数、女性読者はついてくれましたが、男性ファンが離れそうになって...。女性の識字率を計算にいれてなかったのが敗因でしたね」


「ぶっちゃけ、闇歴史だな。いろんなもん捨てて書いたわりにはぼこぼこに叩かれて、慌ててマルドにご退場願って軌道修正したら...」


「女性読者から抗議の手紙が100通届きましたね~。しかも手紙の署名の半数は『サンドーラ』」


「それ、たぶん私です!なんとか復活させてください!それが無理なら回想だけでも、もしくはマルドの生きているifストーリーをぉ!!」


「あの・・・話がよくわからないんですが」


 三人で盛り上がっているところ、エレナは手を挙げた。


「いいのですよお嬢様はきれいな心のままで」


 サンドラのは普段は無表情か厳しい顔をしているのに、今は優しく微笑んでる。


「「うんうん」」



「こほん。話を戻して良いでしょうか。つまりはこの令嬢xは私で、ミツヒロは私のことを面白おかしく書いてたの?」


 すごく裏切られた気分だ!腹立たしくて、腹立たしくて。


「『シャルン』は俺だけれど、そっちはぜんぜんタッチしていないよ!」


「僕も記者は引退してるんで。後輩に応援を頼まれて、さぐりを入れましたけれどミッツ先生は口が固くて...」


「まあ、」


 ここでのことをぼろぼろしゃべられたわけではないようだ。ちょっとほっとした。


「酒場でお酒を振る舞ったら、かわいい貴族令嬢のことを皆さん応援していると...昨夜なんかご本人がー」


「うぐっ」


 お酒のんで、サンドラ相手に愚痴ってたのを見られた!聞かれた!?

 成り行きを見守っていたガントが「俺ちょっと用事が」と慌ただしく帰って行った。

 犯人一人みっけ。


「インタビューは打ちきり。帰ってください」


「いいんですか?帰ってしまって。ここで反論しなければ永遠に屋敷に閉じ込められるか、遠隔地に療養に出されるか」


「一日、考えます。明日の同じ時間に...」


「一日?明日には豪奢な馬車で空気の良い土地に引っ越されるかもしれないのに?」


 父の怒気に満ちた顔がすぐに思い浮かぶ。男が言っていることも可能性としては十分ありうる。


「なんで黙ってたんですか?」


 まずミツヒロをぎろっと睨み付ける。


「副業の方をわざわざ生徒に告知する義務はないだろ。...さすがにもうそろそろ言わなきゃまずいかなって思ったけれど...インタビューを受けた後にでもやんわりと、伝えようと...」


 ついで、ブンバー・ストーンを睨む。


「私がこのインタビューを蹴った場合どうするつもりだったんですか?」


「どうもしません。記事自体はもともと九割がた出来上がっていたんです。あとは日付を入れるだけ」


「記事の九割がたコピペだもんな!普通こういうのって事前に当人に連絡入れるだろ」


「連絡はしたでしょ?令嬢xの特集記事を組むと。本来は第三王子との婚約発表の後に刷られる予定だったんですよ。で、どうします?さいは投げられました。今ここでインタビューを受けられますか?帰ってご家族にご相談され(泣きつき)ますか?」


 男は笑顔だ。別に睨み返してる訳ではない。しかし、エレナにはひよこを狙う蛇に見えた。


「今ならエレナ・スリーズ公爵令嬢の御意向に添うようにできますが?」

えー。最初光弘の職業は折り紙職人一本の予定でした。が、折り紙だけではさすがに食っていくのはきついだろうってことに気づきまして。光弘は『読み』は覚えたけれど、『書き』は習得率五割くらいです。なので基本口頭でネタをブンバーに伝えています。


どっかで第二王子って書いてた気がするけれど、王位継承権のスペアが“あの人”なのは、ちょい問題あるので、第三王子に降格。見つけたら訂正します。

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