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第四の襲来者

 イザベルが仕事に出たのと入れ違いに、四十代くらいの男が入ってくる。どことなく、薄汚れた雰囲気の男だ。


「げ、なんで来てるんだよ。今日は予定があるって言ったよな」

「なーに、ちょっと社に戻る途中だったんでな」


 そして男はエレナの方に顔を向けた。


「お嬢ちゃん、助けてあげようか?」


「庶民の助けなんていりません」


「君の意思なんて関係なく未来が決まっちゃってもいいの?」


 その言葉にエレナの肩がびくっと跳ねる。


「こいつは文屋だよ。週刊ピンクの担当」


「ブンバー・ストーンです。どうぞお見知りおきを」


「どう言ったお知り合いで?もしや私の情報を売っているとか?」


「別のことでお世話になっているだけで!誓って、君の情報は売っていないよ!そりゃ『お弟子さんは元気?』って聞かれたから『うん』って答えたことくらいはあったけれど」


「へーそうなんですか。ありもしないゴシップ記事楽しく拝読しています。特に『貴族令嬢x』シリーズは気に入っています」


「ご贔屓にありがとうございます。・・・近々、『貴族令嬢x』の特集記事を組もうと思っていまして、公爵令嬢様からご意見をいただきたく。まあ、簡単なインタビューです」


「それくらいなら・・・」


 たかが、それくらいで父の決定を覆すことはできないだろうが、もしかしたら少しくらい婚約を先伸ばしにできるかもしれない。


「お嬢様、それは悪魔の罠です。耳を傾けてはなりません!」

「エレナちゃん。絶対やめといたほうがいいよ」


「お嬢様はとてもお急ぎですよねぇ。その気があるのでしたら、明後日・・・いえ、明日の正午に新聞を販売しますので、それまでに今までの『令嬢x』を読み直した上で、ここにいていただきたいのですが」


「急ですのね」


「急いでいるんでしょ? 

...お受けいただけるのでしたら『令嬢x』の過去の記事今すぐお持ちしますが?」


「大丈夫です。ミツヒロに毎回スクラップしてもらっていますから」


 なんと言っても、学生の身。『工房』に毎日通えるわけではない。


「それはそれは大変ありがたいことで。もし、気が変わられましたら、明日の九時までにご連絡を」


 ブンバーはエレナに名刺を渡し、立ち上がった。


「わかったわ」


 ぱたんと扉が閉じると同時にミツヒロとサンドラがエレナに詰め寄る。


「エレナちゃん。今からでもクーリングオフは間に合うよ。ここは、もうおとなしく再婚約?黙って受けといた方がいいよ。インタビューなんか受けたらさ、第三王子、浮気男、ご老人、修道院で尼さんなる道も消えちゃうかも」


「お嬢様お考え直しください!あまりに浅慮です!」


「私はこのままアルフレッド殿下と結婚するのは嫌なのよ」


 婚約破棄を告げられた屈辱も、

 指輪を捨てようとしたときの怒りも、

 声をかけてくれた彼の優しさも、

 この胸に刻まれているのだから。


「エレナちゃん・・・」


 彼は・・・何度か、口を開けたり閉じたりして、


「ちゃんと一晩冷静になって考えてみて」


 結局それだけ告げて、「今日はもう帰んなさい」と追い出された。



「ぷはーっ。もう、あったまきた!」

「ですからお嬢様、淑女がそのようにお酒をがぶ飲みするものでもありません。」


「だって、浮気相手を優しく教えみちびけだなんて ひっどいじゃない!」


「彼の正体についてお伝えしたいことが・・・」


「はぁあああ。王子が品のないピーがぴーな男だってのはわかっているわよ。あははは。こうなりゃ、自由な夜の最後の記念に酒樽ひとつ飲み干しちゃおうかなぁ~。私の真っ暗な将来にカンパイ!!」


「あの週刊紙を参考に余計な言葉を覚えないでください。おのれ、ミツヒロ・スギタ」


「わかっでるわ。あんままイザベルさんと結婚しちゃうのかなー」


 姉さん女房になるが、イザベルのほうが彼との身分の釣り合いが取れている。


「なんで引き合わせちゃったかな~」


 そう言いながら、枝豆を口に放り込む。


 婚約発表後は、外に出ることは叶わなくなるだろう。

 工房がちゃんと軌道に乗るまで、見届けたかった。嫌いな男に嫁ぐなら、せめてあのレーコをけちょんけちょんに打ち負かす自信をつけてから、嫁ぎたかった。


 ああ、だめだ。頭が熱くなって考えがまとまらない。


 ◆◇◆◇◆◇


「そう。インタビュー・・・ね。私はどれを消すべきなのかしら?」


 サンドラの報告と入れ替わりに、『影』が現れる。


「やはり、一年以上前の経歴は洗えません」


 公爵夫人は、ため息をついた。ついに夫は猶予を区切った。下世話な新聞社も娘に接触している。

 あの男を取り込むべきか、消すべきか。


「人間、一つや二つはやましいことがあるかと思いましたが、一年以上前の痕跡が掴めないとは、・・・あれではまるで・・・」


『レーコ』のようではないか。


 近頃、レーコが必死に提案している料理の知識、彼が西マール食堂にほぼ無料提供しているレシピとどことなく似かよっている。


「『西マール食堂』の新料理のレシピはすべて買い上げていて?」


「はい。滞りなく」


 保護を申し出たのは、ポテトチップスを食べた頃から。

 わざわざ、こちらからつつくつもりはないが、余計な波風をたてたがる者はいる。今は娘の大事な時期。どのように流れを持っていくのが娘にとって幸せなのか。いっそ、有無言わさず修道院に放り込むか・・・


「悩ましいところですわね」


 娘に彼の正体を告げて、今後の付き合いを控えるよう釘を刺すほうが無難だろう。それでも付き合いをやめなかった場合は・・・。


 娘は急な再婚約話に幼稚にも食事もとらずに部屋に閉じ籠っているらしい。(サンドラによると例の食堂でやけ食いしていたようだが・・・)

 でろでろに酔っているようだから、話は明日以降にするしかない。


 ただ、公爵夫人の判断は遅すぎた。


 波風どころか翌日には、大型台風が訪れ、大荒れになるのだが・・・。

ブンバー・ストーン...週刊ピンクの記者? 名前は石竹色から。


次回『週刊紙編』。


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