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悪役令嬢の飲み会(ピンポンマム)

 三日後。久方ぶりにエレナが工房を訪ねてきた。


「試験はどうだった?」


「もう完璧!しばらくはこっちに本腰入れられるわ!」


「折り紙に本腰入れてどうすんの?」


(他にすることあるだろうが!見合いとか見合いとか婚約とか!)


「あ~、それと君の作品が売れたよ」


「買ってくれたの?どんな人だった!?」


 エレナからきらっきらの笑顔を向けられる。この笑顔の前には真実は無意味!


「通りすがりのカップル?だったよ」


 まあ、身内買いとか余計なことを言うべきではない。


「ってことは、男の人から女の人へのプレゼントってこと!?」


「まー金を払っていたのは男の方だったけれど」


「その二人の出会いとか、プレゼントしてもらった時の『彼女さん』のはにかんだ笑顔を想像すると、もーどきどきしちゃって、喜んでくれたよね!?ね??」


「たぶん?」


 光弘的には、従業員の身内に謎の圧をかけられただけで、ぶっちゃけ兄の険しい顔と彼女さん?のそこはかとなく怖い笑顔しか覚えていないのだが。


「ねえ、試験終ったってんなら今日飲みにいかない?子供らにはてきとーなもん作って、てきとーに土産買って帰ればいいからさぁ」


 ビーズアクセサリーを作っていたイザベルがエレナに声をかけた。

 イザベルの料理なら『てきとーなモン』でも光弘の自炊レベルより上だから三兄弟の方は大丈夫だろうが...。


「いいけれど、エレナちゃんのほうは?親父さんが怒るんじゃない?」


 令嬢が夜まで場末の酒場で庶民と飲むのはよろしくないだろう。が、エレナは「だいじょーぶです」と答え、ぷいっと顔を背けてしまった。

 

「俺不味いこと言った?」

「さあ?」


 光弘とイザベルは互いに顔を見合わせ首を傾げる。


「そ、そういうことでしたら他の護衛に連絡を入れておきます」


 サンドラはそういうとさっと、扉を出て、建物の陰に隠れている護衛に話をつけにいった。


「で、今日は何を覚える?」


「簡単でぱーっと華やかなのが良いわね」


「じゃあ、ピンポンマムとかどう?ふんわり感を出すのがちょっと難しいけれど」


 光弘は見本を商品棚から一つ出した。

 花の中心部分が濃いピンクで花びらが白。


「あ、それ前から気になってたんです!」


「私もこれをコサージュにできないかって考えてたんだ」


 エレナが食いつくのは予想していたが、今日はイザベルまで食いついてきた。


「んじゃイザベルも作り方見とく? 後から『色替え』が利くし」


「ああ、」


「そういうことでしたら負けませんわ」


 エレナが無駄な対抗心を燃やし始める。


「いつもは正方形の折り紙を使うけれど、今回は円形に切った折り紙を使う。まず、用意するのはコンパスとかコップの裏とか...とりあえず円を描けるものを探してー」


 結果は光弘の予想通り、エレナの惨敗。

 エレナがまごまごと一個作っている間に、イザベルはモノを完成させてコサージュの試作までやってのけた。


「ちょっとは加減してやれよ...」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「冒険したいのに、冒険できないのよね~」


 エレナはメニューとにらめっこしていた。いつもは、帰ったら夕食が待っているから、一皿をサンドラと分けあっているのだが、今日は、1.5人分くらい食べても怒られないだろう。

 ちらりと客たちを見ると『トマトピザ』でチーズ伸ばし大会をしている。ほどよく焦げたチーズが伸びてとても美味しそうに見えた。が、あれはサンドラに危険だと止められている。


 結局決められず・・・というよりも最初からそのつもりで、隣のイザベルに提案する。


「ねえ、一緒に食べてくれる?」


「いいよ」


「じゃあ、今回は異国の飯を味わうってことで」


 エ「ん~、焼きそばパンも、明太マヨパンも捨てがたいけれど分けるには不向きだし・・・明太子スパゲッティー?」

 光「俺お好み焼き」

 サ「オムライス」

 イ「コーンマヨピザ。それにシーザーサラダ大盛りで、ついでに取り皿四つね」


 できた母さんは野菜と取り皿を頼むのも忘れない。


 スパゲッティーも、オムライスも、ピザもわかる。


「『オコノミヤキ』、好き、焼き?」


 また、エレナは首をかしげる。なんだか繋がるようでひっかかる言葉・・・


 先に、ワインが来て、乾杯。出来上がった順に料理が運ばれ、ついに『お好み焼き』の登場となった。


「うにょうにょ動いています」

「これは食べ物なんでしょうか?」


 ステーキ用の鉄皿に、焦げたパンケーキが載っている。その上では細い薄茶色の物体が生き物のように動いていた。

 店内に風は吹いていない。


(ぽ、ポルターガイスト?)


「鰹節って言って、鰹を干してどっかの行程でカビをつけたものー」


「か・・・かび」


「ブルーチーズのようなものでしょうか?」


「ーの似せもん。普通の干し魚をかんなで削った、君たちが普段使ってる出汁の素をちょっと形を変えただけだから。俺んちでは焼きそばにもたっぷり載せていた」


 そういうと、光弘は一口頬張った。


「んお。かなり俺のイメージにかなり近い。タイショーぐっじょぶ」

「なんでてめーはいつも上から目線なんだよ。ちっとは俺を敬え」


 きのこケチャップソースと謎のご当地ソースを特殊な割合で配合し、マヨネーズとともかけた逸品。甘く香ばくじゅうじゅうとこぼれ落ち焦げたソース。


 見た目は完璧。お嬢様たちに何かあったらいけない。竹串を生地に刺す。さっくり通って、竹串に生地はついていない。魚介類もしっかり火が通っているし、豚肉はぱりっとよい具合に焦げて。


「うめー!まじうめー!! おまえらも熱いうちに食べろよ」


 故郷の味を思いだし、こぼれてしまった涙をさっと拭く。


「そんなに美味しいかしら」


 対してエレナはうにょうにょしたそれをフォークの先でつついていた。 


「キッシュでは無さそうですが」


 生地の中身はほとんどキャベツ。海老イカなど魚介類も入っている。味は焼きそばに似ていなくもない。でも涙が出るほど美味しいかと言われると謎だ。うにょうにょした謎の物体の食感が気になるし、どうもこってりしすぎているような。


「あ、生地に紅しょうがを入れる場合もあるよ」


「紅しょうが・・・大人の味」


 焼きそばパンに紅しょうがを入れるのが正義なのはわかっているが、エレナはあれがとても苦手だった。こってりした料理にメリハリができるのはわかっているがどうも・・・。抜きか有りかは注文時に選べることになっているのだが店主には特別に量を半分にしてもらっている。


「俺もぶっちゃけ嫌いだけれどさ。まさか、この世界で紅しょうがを作れるとは。 

最初は梅干し作ろうと思って、紫蘇がないから色を赤キャベツで出して。ある日、梅干しを乗っけたご飯にアップルジンジャーティをかけたら気づいたわけ。『遠くに紅しょうがを感じる』って」


「シソの代わりに赤キャベツ提案したのも、一か八かで生姜を梅酢に放り込んだのも俺なんだがな」


 騒がしい店内なのにしっかり聞こえていたのか店主が答える。


「酔ってるね」「酔ってますね」


「まあ、故郷(くに)の話を聞いてもな『煮干しってのが、すごくって小魚を干しただけでできるんだ』『煮干しってんなら煮て干すんじゃ・・・』『え、そうなの?』ってな具合だ」


 大将もそんな断片的な情報で、よく料理を再現できたものだ。


「九割がた店主の手柄ではないですか」


 でも、ミツヒロはその料理で儲けようだなんて一切考えないのだ。名誉を求めない・・・そういったところがー


「俺だって最初は『料理チート御殿を建てたるで!!』って思ったさ・・・。料理チートは大将に任せた・・・zzzz」


 いや、考えていたようだ。

本日の折り紙...ピンポンマム。作り方はわりと簡単。かわいさのポイントは花の芯のふんわり感が出せるか。癖でがっつり折り目がついてしまう...。


干物をかんなで削ったからって、それっぽくなるかは不明ですが、そこはファンタジー・・・ぽいものができたということで。

光弘の妄言をちゃんと拾って形にする大将すごい。できたものがこの国の人に受け入れられるかは別問題ですが。


視点がぐらぐら揺れて申し訳ないです。『光弘』ってなっているところは光弘寄りの視点です。

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