悪役令嬢とハロウィン
エレナは歓迎会の飾りつけを手伝っていた。
「・・・すっごくかわいいんですけれど。特にこのクロネコがぴょこって感じの。こっちの白いのは?」
「おばけ。他はコウモリとか?夜なべして作ったかいがあったな」
「そのうちで良いので、是非作り方を教えてください!」
「カボチャは『箱』に顔を描いただけだからな。『箱』は包装紙次第で見映えが変わるし、応用が効くから覚えといて損はないかな」
外で遊んでいた子供たちが帰ってくる。
「おじさん、これなーに」
日が落ちそうなので、少し早いがランタンに灯をともした。
まださほど怖くないが真っ暗な中で見ると少し怖いらしい。
「カボチャランタンだな。君たちの歓迎会を催そうと思ってな。君たちはこの仮面をつけて、『トリックアトリート』っていうんだよ」
「もうすぐで夕方だよ」
「うん。だから、日が落ちる前に食堂にたどり着くんだよ。ちなみに回っていいのは、イーデスさんところとガントさんところと食堂だな。他は今回参加していないから」
そう言って彼は「好きなもの選びな」と子供たちにお面を差し出す。
「かぼちゃ?」
「僕スイカ」
「これ猫?」
一番下の子は不思議そうに首をかしげる。
「ねこじゃなくて『鬼』だからな!」
「ありがと、おじちゃん」
「おじちゃん・・・いいんだ。鬼のお面があれば豆まきにだって流用できるんだから・・・」
「『鬼』というモンスターは赤い猫なんですの?」
「ちっがう!角の生えていて、赤かったり、青かったりするやつだ」
子供がおばけに化けて、お菓子をねだりに行くらしい。どう言った意味があるかはミツヒロもよくわからないらしいが、変な仮面を描くのも、かぼちゃを彫るのも楽しかった。
ちなみに仮面の担当はー
イザベルが『かぼちゃ』、エレナが『スイカ』、『オニ』はミツヒロしか知らないので、当然ミツヒロになった。
「もうちょっと俺に絵心があれば」
「折り紙にすればよかったんじゃないんですの?」
お化けやカボチャも折れたのだ。
大きな紙で折って、目や鼻口部分を描くだけですんだのではなかろうか。
「さすがに鬼の作り方までは知らない」
◆
「食べるのは飯のあとだよ」
「食べたあとはちゃんと歯を磨けよな」
子供たちはイーデスと、ガントのところでポップコーンとあめ玉をもらうのだが...
とは言っても、我慢できない長男は飴を口のなかに放り込む。
子供たちはイーデスに「あっちだよ」と指差してもらった食堂に無事たどり着いた。
「ダベルさっそく約束破ったな」
「ほっぺの片っ方がぷっくり膨れているわよ」
母があきれ、エレナがクスクス笑いながら子供のほっぺをちょんとつつく。
「おばーちゃんのスープとかーちゃんのパイがお腹ん中に入らねーだろうが」
で、ミツヒロが子供たちにくわっと襲いかかるマネをするがー
「スープ」「パイ!」「どっちもだいすきー!!」
子供たちはかぼちゃパイとかぼちゃスープをちっちゃい身体で頬張っていく。
「パイなんて最近やいてなかったからな~」
久々のパイ作り疲れて肩を揉んだイザベルは、夢中でキャラメルポップコーンをかじっている看板娘に声をかけた。
「息子たちのことよろしくね」
一番下の子のスベルがおねむになったのを合図に、エレナたちは工房に戻ることにした。
(夜の商店街というものは微妙に怖いですわね)
どこに行くのもほとんど馬車。夜道を歩くことに慣れていない箱入り娘は、夜の寒さもあってぷるりと震えた。そして店に顔をむけると。
「きゃっ」
闇の中、店先で赤くちろちろと光る虚ろな目と大きな口がエレナを出迎えたのだった。
思わず、ミツヒロの肩に飛び付く。
「ぷ、くくく。株だともっと人っぽくって怖いよ」
「って、店の中に置いてきたはずなのに、なんで」
出る前にろうそくを消したのはエレナだ。そのときは確かに机の上に置いていたはずーー。
「あ」
店を最後に出たのはミツヒロだった!
「~っ、もう!」
「見事に引っ掛かって、ありがとう!」
彼は腹を抱えてけらけら笑い出した。
その上、子供たちはランタンを怖がるでもなく、キラッキラの目でこちらを見つめた。
「ねーちゃんちゅーしないの?」
「しないの」
「おっさんのほうもこんなに暗かったらばれないんだから、もっとぎゅっと抱いてやったらいいだろ」
「あははは。怒るぞ」
笑顔がひきつっているのは、サンドラが彼の首に剣を突き出しているからだ。
「お嬢様、もやしに抱きつく前に、私に抱きついてください」
「ええ、気を付けるわ」
ちらりと路地の隙間に目をやる。今日は家にはあらかじめ遅くなると伝えていたから、いつもより護衛は多いだろう。
融通の利く母の配下だけではなく、父の配下も紛れているかもしれない。
◆
「もーね。ほっぺが落ちるほどおいしかったの。また食べたいなぁ」
食堂の看板娘は『仲間』にキャラメルポップコーンの美味しさをとろっとろの笑顔で伝えていた。
思い出しただけで、キャラメルの濃厚な味が口のなかに広がる気がする。
「気に入らね」
「え?」
「俺には挨拶もなしだ」
「挨拶あったじゃん一昨日。パスタ持って」
「母親にアヒルみたいに連れられてだろ?」
「「「「「うん」」」」」
『大将』の機嫌が急降下しているを察知した子分たちは皆頷く。
「あのー。えーっと」
看板娘のリタはもごもご言葉を探すがよい言葉が浮かばない。
おばさんによろしくってお願いされたのに。
献上と言っても、この町一番の料理人が二時間もかけて作った物だ。簡単に『ケンジョー』できるわけがない。
それにあの場にあったものは大人たちがお酒片手に平らげてしまった。
「俺に一番最初にアイサツに来るのが筋だろ?そのキャラ・・・なんとかを持ってな」
季節物折り紙・・・イベント名やら○月やらで検索するとかわいいのが一杯出てきます。気に入った折り紙があったら是非折ってみてください。
せっかく折り紙を題材にしたのだから、物語に登場する物は無理のない範囲で試してみる。さすがにかぼちゃランタンもキャラメルも作りませんでしたが、鬼の絵は描きました。記憶を頼りにボールペンで。
はい。髪を盛ろうが、お髭をつけようが、なぜか目付きの悪い猫になってしまいました。
その後、インターネットで正解を確認。八重歯が足りなかったのか~。いや、足してもやっぱり猫だw
リタ・・・食堂の看板娘。父親よりも先に名前が決定。