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悪役令嬢とポップコーン

「じゃあ、はい鍵これ。一応、俺が予備を持っているから、鍵失ったり、こいつが不法侵入したり、なんか困ったことがあったら遠慮なく言えよな!」


「そんなことしません!」


 大家のガントががははと笑いながらイザベルに鍵を渡し、ミツヒロはガントの冗談を慌てて否定する。


 他の物件もあるにはあるけれど、やっぱりお家賃が高くなるのと作業効率の観点からイザベルは『スギタコウボウ』の二階の一室に住むことになった。


 二段ベッド二つ並べただけで、面積の大半が消費されてしまう部屋はエレナの目から見たら、四人どころか一人で住むにも相当手狭なのだが、イザベルは「ちょっと狭いけれど、まあ寝て作業できるんなら十分だ」って住むことを承諾してしまった。


 イーデスさんとの件は、


『孫を可愛がるのはいいが、父親の悪口を吹き込まない』

『互いの生活に干渉しない』


 で、とりあえず折り合いをつけたそうだ。


「エレナちゃんにもライバル出現か~」


「そんなんじゃありません!」


 ガントの感慨深げな声にエレナは尖った声を返す。

 いや、イザベルの身の安全を確保することに頭が一杯で、ミツヒロと彼女が一緒の家屋に住むと言うことがすぽぬけていたのは事実だが。


「悪いけれど、私は旦那一筋だよ」


「いや、女の人が来てくれたのは、目の保養になるけれど、こどもに騒がれるのはぶっちゃけかんべん」


 こどもには「親たちの仕事を邪魔しない」と言い聞かせているが、そんなこといっても今まで、独り暮らしだったのに同居人が四人も増えるのだ。今も、子供たちは二階で暴れまわっている。

 一階では窓工事も行われてて、うるささ二倍増しだ。


「こどもってこんなに元気なのね~。元気なのはいいことだ~」


 ミツヒロはちょっと遠い目で天井を見上げている。


「いや、悪いね。集中したいときは外に出させるよ」


「んー。子供は嫌いなわけじゃないし。ほぼ食っては寝ての生活しているだけだから。それよりもハロウィンの準備を」


「ハロウィンてあなたの国の降霊祭?ですよね」


「別に僕の国のってわけじゃないけれど。こどもが仮装してお菓子もらって回るやつ。歓迎会と、ついでに商店街活性化の起爆剤になればいいけれど・・・イザベルさんにもイーデスさんにも協力してもらうつもり」


「私とあいつが協力するわけないだろ。それよりがきども引き連れて今から挨拶回りしなきゃなんないんだけれど?」


「そっちの用事が終わってからでいいし、できるところは俺たちでやっとくから。別に共同作業しろって訳じゃないから、ね?」


 ミツヒロは手を合わせて、イザベルにお願いをする。

 イザベルが渋々頷いたのを見て、彼はエレナに尋ねた。


「この世界ってキャラメルあるの?」


「必要でしたらすぐ買ってきますが?」



 サンドラがキャラメルをすぐさま買いに走ったのを見て、イザベルが「話はもう終わり?」と尋ねた。ミツヒロがうなずくと二階に向かって声を張り上げる。


「がきどもさっさと降りてきな!出掛けるよ!」


 彼女は、どたばた降りてきた元気な子供たちを引き連れて挨拶回りに行ってしまった。逃げたとも言う。


 折り紙を一つ折っている間にサンドラが戻ってきてくれた。


 早速、キャラメルを食べる。うん。いつもの『プチトリアノン』の味だ。


「うま!!正直、異世界なめてた。めっちゃうまいよ。甘味とこく、塩味、鼻と口一杯に広がる濃厚な香りは・・・バターか?カロリーが高い予感がひしひしとする。めっちゃでっかい牛が目の前を通りすぎる」


 一部なにを言っているかわからないが、涙を流すほど喜んでくれたのなら喜ばしい。

 が、それはそれとして本心は。


(ついに、ニホンとか言うのに勝ちましたわ!)


 エレナは心の中の対抗心をおくびにも出さず艶然と微笑んだ。


「気に入っていただけたようで何よりです」


 だが、そんな笑顔を気づきもしない彼は、二つ目を口に入れながら尋ねる。


「ちなみにお値段は?」


「一粒500ロゼですが」


 キャラメルを買ってきたサンドラが答える。


「三つも食べちまった。500って一粒で俺の二食分の食費越えてるじゃないか・・・」


 一食250ロゼ以下ってちゃんと栄養のあるものを食べているのだろうか?


「どーすっかな。なんか練乳をお湯でゆでれば出来上がるって聞いたけれど、練乳って何でできてんだー!」


「なぜ練乳が必要なのです?」


「歓迎会に、キャラメルポップコーンを作ろうと思うんだ」


「キャラメル?ポップコーン?」


「弾けたとうもろこしにキャラメルをかけたの?」


「えーっっと、キャラメルをわざわざ溶かして家畜の飼料にかけるの?」


 なんてもったいないことを・・・。東の果ての国、ニホンという物の価値観を疑ってしまう。


 ◆


 食堂に入るなりミツヒロは昼の客をさばききって一息ついた食堂の店主に声をかけた。


「おっさんキャラメルの作り方知ってる?」


「知っているぞ」


「やった!金は少ないけれど材料費ぐらいは出すからー」


「ただし、手間だしその間かまどのひとつを使うから、普通は作らんわな」


 店主はタバコをふかしながら答えた。


「新しいレシピにどうしてもってことはないけれど必要なんだ。作ってくれ」



「塩とバターととうもろこしを一緒に入れて、フライパンで焼く。蓋をしっかりして。そしたら弾けてできる。たぶん?」


「相変わらずてきとーな解説だな。おい。割合とかは?」


「俺も、親が全部味付け済みのを作ったところしか見たことないから。そんときは普通の塩味だったし。『そんなんてきとーに決まってるだろ』って答えるしかないね」


 いつもの自分の言葉を盗られた食堂の主人は「ぐっ」と唸るしかない。


 ぱちぱ・・・バチバチバチ!

 恐ろしい銃の発砲音のような音が店内に響き、席に座っていた客数人が、壁際まで逃げる。中にはすっかり机の下に隠れてしまった者もいる。当然、エレナの前にはサンドラがかばうように立った。


「おいおいおい大丈夫か!?」


「音が収まるまで待って」


 音がやみ、ミツヒロの合図でフライパンの蓋を開けるとバターの香りがふわっと漂った。


「この綿みたいなのがとうもろこし?」


「そうそう。塩や塩バターでも十分うまいんだが、俺はキャラメルポップコーンが好きだな」


「白くなっていないものもありますが?」


「あ、ポップコーンに向く種と向かない種があるらしいから」


「そうかー。そういうのを最初に言えよな」


「で、膨れたの食べる」


 ミツヒロと店主は特にためらうこともなく口に放り込む。

 無言で、白い綿を何度も噛み締めるミツヒロ。


「うまいなこれ、がきのおやつにちょうどいいや」


 食堂の店主はそう言うと、そばで物欲しそうにしていた娘に食べさせる。きっとバターの香りに誘われてきたのだろう。さっきの発砲音に物怖じしないなんて、よほど度胸があるのか食いしん坊なんだろう。


「ーっ。・・・おいっしぃ。もう一つちょうだい!」


「本当に・・・おいしいの?」


 エレナは目をキラキラさせる純真な少女におそるおそる尋ねた。少女は「うん」と答える。


「俺ももう一つ」


 光弘はいいながら、三個をぱくりと食べる。


「やっぱうま。バターがめっちゃいい感じに染み渡ってて、めちゃおいしい」


 彼の語彙のなさはおいといて、さて家畜の飼料を食べるべきか、食べざるべきか・・・


(家畜の飼料食べてお腹壊したりしないかしら)


 数瞬迷った後、彼の今までの功績を鑑みて食すことにした。エレナは目を瞑って白い綿モドキを口にいれた。


「お、おいしい」


 ふかふかした感触。口にいれるとバターの香りと味が全体にひろがる。けれどすぐ物足りなくなって次のポップコーンに手を伸ばす。


 なんで、この男はこんな中毒性のあるものばかり思い付くのだ。


「俺の国じゃ映画・・・劇場でコーラ片手に食べるんだ」


「コーラ?」


「甘い飲み物」


 まあ、このふかふかした食べ物なら、ポテトチップスよりかは咀嚼音を気にしなくてもすむ・・・かもしれない。


「甘いタイプのとうもろこしは、バター醤油で焼きとうもろこしとか、コーンマヨピザにしたり」


「家畜の飼料をピザに載っけるんですか?」


「もちろんからからのじゃなくて生とか茹でたとうもろこしを使うんだけれど。ってことでこれは役に立つレシピ?」


「うちの娘と野郎共がてぐすね引いている時点で役に立つレシピだ」


「じゃあ、さっきの件お願い。大将」


「しゃーねーなぁ」


 交渉は成立したようだ。


大将・・・息子一人、娘一人。息子は他の店に修行に出てる。


とうもろこし...わりとこの世界の一般民も食べています。貴族はあんまり...。今回はわざと固めの家畜用を使ってみた模様。


有名菓子店の名前はてきとーに付けただけですので、実在の人物、建物等とは一切関係ありません。

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