悪役令嬢と手裏剣2
「あれ?」
いつもの通り、途中までは折り紙をさくさく進められた。
四つ折りにして、両端を三角に折って・・・
だが、そこからが難しかった。師匠の手元を見て『手裏剣』を折っているのに、なぜか違う形になってそこで手が止まってしまった。
「そこ、間違っている。逆の方向。釘抜き(バール)みたいな形をイメージして」
色々な方向に折ってみるが、師匠と同じ形にならない。
「最終的にはひし形...ダイヤの形になるけれど今の段階で細長の平行四辺形になるのはダメ。・・・最終形まで折って見せた方が早いか」
むーっと唸りながら彼の手元をじっと見てると見知った形になった。トランプのダイヤの形だ。
「手裏剣の上下部分が完成。あとはもう一つ同じの作って組み合わせるだけ」
彼はもう一度エレナが躓いたところまで折った。
(ここまでは簡単なのよ。問題はここから。最終形態を思い浮かべて)
「方向音痴」
ぼそりと呟かれる。
「三角が上につき出すように。こっち方向に折る」
再度の説明にももたついてしまったエレナを見かねて、後ろからエレナの手に自分の手を重ねて指導してくれた。 今日はたまたま背もたれなしの丸椅子に座ってしまったのが良くなかった。
「あう」
「なっ」
触れた指先がかあっと熱を持つ。さきほどまで室温の影響でひんやりしていたというのに。
背中からも彼の体温が伝わってくる。
「こっちに折り返して、あと一つは自分で作って」
彼の指先が離れた。彼の体温も離れる。
微妙に名残惜しくてミツヒロを見ると、彼の耳が赤いのに気づいてしまった。
指先の熱は全身を駆け巡る。
「同じものができたら、二つをクロスさせて、この隙間に先っぽを差し込む」
「なかなか隙間に入らないです~」
早く終わらせて自分の顔を確認したい。お茶でも飲んで熱を鎮めたい。
慌てれば慌てるほど細い隙間に角を差し込めない。
ここで、また失敗したら、彼がまた背後について指導してくれるかもしれない・・・。
(何変なこと考えてるの私~!?)
肩に力を入れすぎたのか、三分ほど折り紙と格闘したあと、肩のぼきっと言う音とともに『手裏剣』は完成した。
◆◇◆◇◆◇◆
エレナが帰ったあと師匠の方は落ち込んでいた。
「あー。やらかしちまった」
うっかり密着といっていいほどくっついてしまった。ご令嬢相手に。
その上、手元を覗き込むつもりが、彼女の胸元まで視界に入ってしまった。
そこそこ立派だったし、優しい花の香りもした。
現実じゃあ、『視線がきもい』って言われて、そのまま警察沙汰になりかねない。
こっちはこっちで裁判なしで暗殺者を送り込まれかねない。気をつけねば。
「見ていましたぜ。先生」
邪念を払う光弘に背後から声がかかる。一度肩を跳ねさせた光弘は振り返って相手を睨み付けた。
「いい加減なウソ記事を書くなよ」
「せっかく知り合いが渦中の人なのに、先生ったら全く私の取材に答えてくれないじゃないですか。こっちとしてあ、想像の羽を羽ばたかせるしかないわけですわ」
そこで、男はどっかり椅子に座り込む。
「若いやつらにてきとーな記事書かれるよりもここらで一発噂のご令嬢にインタビューさせてもらえませんかね? 今ならいいように細工しますぜ」
名前を『x』としているのは彼らの温情だし、正式な記事ではなくコラム扱いになっているのはネタが面白くなるまで育てているんだろう。
今のところ当のご令嬢は、自分のことだと気づかずに刺激のある読み物として楽しんでいる。
ばれたときが怖い。
「でも面白いネタが上がったら手のひらを返すんだろう?」
「ええまあ商売ですから」
はい。『手裏剣』作ってみた結果、見事おりがみ迷子になってしまった作者です。
動画見ながら作っているのになんで同じところでつまずくんだー!
同じところ五回見てやっと出来上がりました
折り方の行程は人によって微妙に違いますので自分の折りやすい折り方で折ってください。
(真ん中に線を入れればいいんだろうか?《折り紙迷子二回目》)
光弘くん。偉そうなこといっていますが、実は第一話では作り方忘れてました。