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悪役令嬢と手裏剣1

「ってことで本格的に手を組みませんか?」


 エレナはイザベルに話を切り出した。


「実はね。私もパクってたんだ」


 お客様が来ない間、ちょっと、「桃」は確かに作り方を見せたが、『雪の結晶』なんて、エレナも作り方を正式に教わってないのに、見本だけで作り上げてしまった。


「どうして作れたんですか?」


 つまりは、イザベルが最初から最後まで全部一人で作れるようになり、エレナと手を組む必要もなくなったということだ。


「『作り方の基本は同じ』ってヒント渡されて、ついでに現物もあるなら、ちょっと分解すれば簡単に作れる」


「分解...しちゃったんですか?」


 売ったものをどうするかは自由だがやっぱり壊されたらやりきれない思いになる。

 その上、作ったら作った分だけ技術を奪われる。ビッグになる計画は遠退いた。

 むしろ模倣されて、スギタ工房に人が寄り付かなくなるかも。


(あっちの方が断然センスがいいし)


「作ってみたら、まあ、パズルを解く行程は面白かったんだけれど、ときめかないから私にはムリだねぇ」


 自分の不注意でスギタ工房が存続の危機に立たされたと思っていたエレナはイザベルの言葉で顔をあげた。


「ってことは?」


「あんたらが折り紙を作って、私が宝石をつける。それで今後も提携していかないか?」


 ◆


 けばいおばさんがエレナの前に立った。


「けばい女の子だって、お仕事で金を稼いでるんだ。嫌な顔しなさんな」


 顔に出てしまったのだろう。イザベルが横から注意してくれる。


 んー。貴族令嬢としては関わりたくないが、今この場では商売人とお客様の関係だ。

 にこやかに笑顔を作って目の前の女性に尋ねる。


「どのような品をお探しでしょう?」


「これを作ったのはあなたで合ってる?」


「私の師匠ですが?」


「これってなんなの?こんな紙でよく商売しようって思うわね」


 ぷち。扇ぱっちんをやりたい衝動に駆られるが、そこはぐっと我慢して、女が出した折り紙に一つ一つ説明を加えていく。


「えー、こっちは『奴さん』と言って、紙人形です。これは『手裏剣』。でこっちは『兜』です」


「『シュリ剣』ってのはよくわからないけれど、この山みたいなのが、『兜』なのかい?」


「『手裏剣』は小型のナイフですね。よくわかりませんけれど。私の師匠の国ではこういう兜が流行りみたいです。なんでも子供の健やかな健康を願って折ったり、大きい新聞紙などで作った『兜』を子供が実際に頭にかぶって遊ぶそうです」



「この鳥も『鶴』は師匠の国では吉兆の印で『願掛け』に使われるそうです」


「幸運の鳥ってわけね。作り方教えてくれるかしら」


「まあ、売るために作り方をみせるまではいいけれど、あんたの雇い主の許可もなく正式に教えるのはやめといた方がいいよ」


「あ、はい。西マール通りの『スギタ工房』では体験教室を行っております」


 鶴の作り方は教えてもらったが、どちらにしろ人に教えるほど熟達しているわけではない。


「時間は?」


「師匠が留守にしているときや寝ているとき以外です。いつでもお越しください。もし不安でしたら私が予約を承りますが・・・」


「んー。今はいいわ。この手裏剣もう一個買うから、ちょっと、ピアスに加工してくれないかしら。いくら?」


 彼女が手に持っているのは朱色と水色の二色で作られた鮮やかな手裏剣だ。

 店では手裏剣一個『100ロゼ』だが、もうちょっとふっかけていいかもしれない。


「その手裏剣は一個200ロゼです」


「同じ色でお願い」


 バスケットの底を探ると、ちょうど同じ色、同じサイズの朱色と水色の手裏剣があったのでそれを差し出す。


「二つで手間賃一万。石やらビーズやらを追加するならもっとお高くなるよ」


「いちまん」


「いいわ。払う。石は好評だったら付け足してもらうわ。あとから付け足すことは?」


「いつでも承るよ」


 カチャカチャと物の数分でピアスを取り付けた。


「紙だから耐久性はないよ」

「ん、鏡」


 イザベルが、鏡を差し出す。


「ん。気に入ったわ」


 それだけ言って一万ロゼを気前よく払うと、女性は去っていってしまった。


 ◆


「200ロゼの手裏剣が、二個セットで一万」


「呆けている場合じゃないよエレナ嬢ちゃん。これって色や大きさ変えられるんだよね」


「まあ、はい」


「次はもう少し『シュリケン』を多目に持ってきたほうがいい。サイズを変えてね。折り紙の色見本も持ってきな。これから忙しくなるよ」


「はい?」


「それとこれはあんたの取り分」


 お金を渡される。ひーふーみー。


「うそ5000ロゼも」


「取り分は、今後話し合うとして、今日は山分けだよ。そうそう、今あるシュリケン全部買い取るよ。今日はうまい酒が飲めそうだ!あんたも来るかい?」


 イザベルは満面の笑顔で万歳する、エレナは首をかしげ、


「ああ、お貴族様も色々予定が詰まっているんだろうね。また、『師匠』を交えて宴会しよー!!」


 ◆◇◆◇◆◇◆


 その日。


「ししょー。『手裏剣』大中小合わせて20・・・いや30個作ってください!」


 いつもより甘えた、緩みきった声が響いた。

 イザベルと別れたエレナはその日のうちに工房を訪れた。


『ししょー』と浮かれきった声で呼ばれた光弘は警戒の眼差しを向ける。


 また、なんか変なこと思い付いたんじゃないだろうかと。


「は?そんなになんに使うの?」


「それは~。私に手裏剣の作り方教えてくれたら、教えます」


「授業料さえ払ってくれれば、教えるけれど。手裏剣30個はすぐには・・・」


 いくら材料費が安いとはいえ、睡眠時間を削ってまでは、仕事に没頭するつもりはない。一日12時間の睡眠は絶対死守だ。


「十倍!いえ二十倍にして返しますから~」


「んー。いつまで?」


 彼の決意が揺るぐのは、30分後。

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