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ゲーミングヤンキー〜喧嘩最強の男、少女となりて激走する〜  作者: アスク
第二章 Hurtling Burst -online-〜超高速のその先へ〜
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Hurtling Burst 最速戦:09「客席裏のチキンレース」



 シト・ヒナタはあまりにもピーキーな機体に乗っているのが開始30秒でわかった。

 これを狗飼 波標もといファースト・ワンはどう対処するかと言った所。


(まず速さでヒナタには絶対に追いつけない。俺も自信あったけど、あの機体は流石に、スピードが段違いすぎる)


 実況解説で散々言われていることだ。いま会場はトップを独走する彼に釘付け。


(となると、やっぱ、撃破するしか……)


 ファースト・ワンの機体は予選のときとは打って変わり高速小型機だ。ドローンのような攻撃手段は取っ払い、スピードに割り振った。設計、戦略思想自体はヒナタと変わらない。ただただ、スピードの一点において性能差で劣った。それだけのこと。

 だが勝る点も勿論ある。それは追撃が可能か、否か。


(俺の、機体には、砲門が一つだけ設置されてる。対した性能じゃないけど、こんな風に、スピードで自分より優れてる相手への対策で、一個つけた)


 対策はハマった。否、半分ハマった状態か。


(まさか、射程範囲外まで引き離されるのは想定外、かな……ヒナタ、流石鬼葉とつるんでいるだけ、ある)


 鬼葉の仲間、それだけでもう、"やべーやつ"判定だ。全部速度に割り振って、上下にしかコントロールできない欠陥機体で逃げ切りをしようなんて。

 絶対にあのピンクヘッドのやべーやつに頭キメられてしまったか、元々キマっちゃってる同類だったかの2択しかない。

 ファーストはくふふと微笑んだ。


「だから……ここからどうするのか、見ものだよ!」


[────再び30秒!]


 スタート開始から1分。2度目の重力変化が起きる。先程は重力が強くなり、上昇しながら走らないといけなかったが、今回は……。


「「降下!!」」


 今回は重力が弱まった。一瞬の判断でハンドルを切るヒナタ、ファーストの両名。ちなみにこの状況で何もしなければ、勢いよく空の彼方へ吹っ飛んでいき、機体はバランスを崩して事故につながる。

 手動がいかに綱渡りの曲芸なのかは、2人の表情を見ればわかるだろう。

 だが彼らの勝負はここから。攻防はこの綱渡りの最中に行われる。


「そこだ!ショット!」

「っ!?」


[ファースト選手砲撃!あれれ?砲撃が届かないはずなのになぜ!?解説の庭野さん、これは一体……]


 射程範囲外のはずでは?と首を傾げる実況。まさか撃破されてしまうのか!?とざわめく会場。そして解説、冷静に今のを分析してこう語る。


[……おそらくは、ヒナタ選手の機体は操作性能に乏しい関係上……30秒に一度の重力変化に対し一時的にスピードを落とさざるを得ないようですね。機体同士の距離感をよく見てください]


 会場の全員が一位と二位の間に目を向ける。


[あっ!ちょっと近づいてますね]

[そういうことです]


 一瞬の隙を突いた砲撃だ。これでヒナタは落ちて、ファーストが首位に……躍り出ていたらこんな冷静な説明はできていないだろう。


[そんなことヒナタ選手も織り込み済みなんでしょう。きっちり防御膜を貼りましたね]


「くっ、ぬかりないな、ヒナタ」

「お褒めに預かりましてどうも!」

「でも、どうかな?30秒毎に重力変化への対応と、俺の砲撃の対応、その同時対応を一回は成功しても、継続するのは楽じゃあないはずだ」

「……」

「ゴールは、だいぶ遠い。いつまで耐えれるかな」

「耐えるさ、今日のボクは一味違う」



◆◆◆◆◆◆◆



 依然ヒナタは首位を保持し続ける。ファースト・ワンは後方で構え続ける。それ以降はお団子状に複数チームが連なっている。

 このレース展開に不安を募らせているのは、【チーム:アイテール】の監督である小尾だ。


[レイヴン、買収した奴らに指示を出せ。【TYRANNUS】と【The Tempest】に首位を取らせるな]

「監督。指示……といわれましても」

[いいからやれ!]

「はい」


 小尾はボイスを切る。忙しなく貧乏ゆすりをして、あからさまに焦っているのが見て取れる。


「クソ、何をしている!なぜ東雲 讌を見つけ出せなかった!?」


 そもそも【TYRANNUS】を棄権に追い込まなかったことから話が拗れている。それどころか、下で動いてくれているはずの禍炉赦會の幹部たちからの通信が途絶えているとは何事か。

 他の観客や選手たちとは違う意味でまた手に汗を握りながら、レースの様子を凝視するのであった。












「────監督との通信を切ったぞ、シロサギ」

[ああ、助かる、レイヴン]


 起伏の無いレース、雇った選手はみな併走、実況泣かせな展開なのは一つ置いといて、レイヴンはシロサギとだけ通信を繋いでいた。


「なあ、間違ってるぜ、シロサギ。俺たちは小尾の言うことを聞くべきなんだ。仕方ないけど」

[……]

「みんなに指示を出す。エンジンが焼き切れるのを覚悟でアクセルベタ踏みで特攻しろとな。そいつらの残機とトップ2人の残機で相打ちだ……それでこの試合は一位を取る、その後の試合も有利を取る」


 レイヴンはハンドルを握る片方の手を上げて、ウィンドウを開き、【Voice】と書かれた欄に手を伸ばした。


[その必要はない]

「なに?」

[レイヴンはただただ一位を目指して頑張れ、指示は俺が出す。全員に繋いでくれ]

「……わかった。で、どういう指示を出すんだ?」


 レイヴンの操作一つでシロサギの声は、金で雇ったプレイヤーたち全員と接続される。


[俺のオーダーはただ一つ。【チーム:アイテール】を勝たせる立ち回りではなく、各々が一位を奪い取る立ち回りをしろ]

「おい勘弁しろ、まだそんなことを言ってるのか!?」



◆◆◆◆◆◆◆




 シロサギの想いはただ一つ。参加者全員がぶつかり合い、しのぎを削り、最速王座を奪いあう真っ当な試合だ。

 だから八百長もなにもない、贔屓だってしない、全員が一位を目指すように命令した。


 観客席の裏側、会場入り口の手前、誰もいない場所で息を殺しながら、そう願い続ける。


「全員勝つつもりで走れ……他のチームを勝たせようとかそういうのは抜きだ……一位を取れ、一位を目指せ、すべての選手が、自由に走れ……!!」

[……]


 歯を食いしばりながら、思いの丈をぶつける。通信先の者たちは音一つせず沈黙していた。小尾監督の思想と反するオーダーに困惑しているのかもしれない。だが、それでも、シロサギは願いを通そうとする。

 鬼葉の奴がどう、などとは関係ない。これはシロサギ本人の意思だ。もう我慢の限界なのだ。いい加減、ちゃんとゲームをさせてくれと。


「……返事をどうぞ」

[……]


 しかし返ってくるのは沈黙だった。「おかしい」そう気がついたのは数秒後のこと。

 通話相手は複数人、息や感嘆、困惑のひと声やふた声あってもいいはずなのに。沈黙、無言、無反応。これはあり得ない。

 全員に繋いでいる状況ならあり得ない……。


「おい、まさか、レイヴン!?繋いで、ないのか?」

[……]


 ザー。ザー。ゴウ。ゴウ。空中戦を物語る雑音だけは聞こえる。けれども返事は返ってこない。


「レイヴン!」


 しつこく呼びかけて3回目のことだった。ついにレイヴンは口を開く。


[────悪いな、シロサギ。お前は少し頭を冷やしといた方がいい]

「はっ!?」

[ありえない、ありえないんだよ。俺たちは逆らえない。そう決まっている。お前もきっと謝ればまだ間に合うと思う。少なくともこの試合中だけは、報復はされない、と思う]

「何を言って……」

[もう一度言う。頭を冷やせ。小尾さんにはお前のことは報告した]

「っ!?」






「今のオーダーは、どういうつもりだ、白鷺」


 観客席の裏側で、レース場の裏側で、誰にも見られない裏側で、ドス黒いものは蠢いて……。

 そこには、リーゼント風貌の白いコートに身を包んだ、小尾がシロサギを睨みつけていた。

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