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ゲーミングヤンキー〜喧嘩最強の男、少女となりて激走する〜  作者: アスク
第二章 Hurtling Burst -online-〜超高速のその先へ〜
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Hurtling Burst 最速戦:08「トップバッターラビット」




 正々堂々としたレース?いいや違う、これは【The Tempest】及び【TYRANNUS】を徹底的にマークした集団包囲網。

 20組の対決?いいや違う、これは多数対一の圧倒的有利な空中戦だ。

 全ては【チーム:アイテール】を勝利に導き、お偉いさん方の喜ぶ通りの結果を差し出すのだ。それこそが、幸福の方程式。

 


「わかっているな?レイヴン」


 【チーム:アイテール】の監督、いや、豚野郎こと小尾は細い目を光らせてレースを見張る。

 いま走っているレイヴンa.k.a衝動というプレイヤーは、他の17機を指揮することができる。裏でボイスMODを導入し、遠方であっても会話を繋ぐ……限りなく違反行為に近いが、大会ルールに記載はない。要するに穴を突いたわけだ。


 無論、レイヴンが全作戦の指揮系統を行うわけではない、大まかなオーダーとして【The Tempest】と【TYRANNUS】の徹底マークは全員に伝えてある。そして。


[わかってます、監督、シロサギ]

「君は優秀だ」

「……」


 勿論、ボイスは小尾とシロサギにも繋がっている。


「スタートと同時に、撃破が理想だ」

[だそうだ。みんな……その、頼むぞ]


 了解、ラジャー、金を積まれた者たちの応答が反芻する。


「……監督、少し席を外していいですか?」


 そう言ったのはシロサギだった。小尾は笑う。「今からレース開始だというのに、緊張でトイレが近くなったのか?」と冗談混じりに。シロサギは「そうです」と答えた。

 シロサギの素っ気ない返事と態度に細い目をしつつも、承諾した。

 今座っている位置は他の選手たちが控えている、観客席とは別の、所謂サーキットピットのような場所。そこから離れて、裏の方へと姿を消した……。



「READY──────────────GO!!!!」














「敵は徒党を組んでいる……そんなのわかっているんだっ!鬼葉からの連絡がない限りね……アクセル全開ッ!!!」


[さあレースが始まりました!第一レース【巨星の地平線】赤く広大な重力圏の中20組のチームがレースを展開し……おっと!?一機すーーーっと前に出てきた!【TYRANNUS】のシト・ヒナタ選手一気に仕掛けてきた!うんとスピードを上げ一気に先頭に立ちます!これは、これは!?攻撃する暇さえ与えない先行!?]


 ズン。ズン。ズン。ズチャ。ズチャズン。ズン。ズン。

 ヒナタは頭の中でビートを刻み、1、2、3、4と速度を上げる。

 周りが気づいてももう遅い。何ふり構わぬ疾走し、先行誰にも譲りはしない。


「攻撃しろ!攻撃しろ!」

「銃弾ッ発射!!」

「打て打て打て打て打て!!」


[回避!回避!なんという速度!]

[鳴り響く轟音からして積んでる推進装置のエネルギーが違うようですね。どうやらこの試合、彼がペースを作りそうですよ]


 トップバッターは【下町の機構師・ラビット】少年のような見た目にオーバオールのウサミミ君。それを操るシト・ヒナタ。

 大きな翼に卵のような推進装置の噴射口が16個も引っ付いた、船のような何か。実にデカくて不恰好で見た目からしてヤバい機体なのは間違いなし、破滅的な勢いで先へ、先へ。


[────それを逃さんと言わんばかりにもう一機抜けた!]


 漆黒の機体が上がってきた。ヒナタの死角に潜む野犬、見えやしないが、それが誰かは知っている。


「波標……いや、ファースト・ワン!」

「ヒナタ、勝つのは、俺だよ」

「どうかな……!」

「!?」


[しかしファースト・ワン選手!距離を縮めることができない!再び差が広がる!速い!あまりにも速すぎる!最序盤にしてラストスパートの如く加速をしているぞ!]


「ヒナタ……きみ、その機体は……!?」



[────推定平均速度682km/時、最高速度4211km/時、調べによると、歴代大会での登録機体史上ぶっちぎりの最速ですッ!!!]




◆◆◆◆◆◆



 会場は盛り上がった。アホみたいなスピードを出して抜きん出て一人旅する奴がいると。

 どこかで燃料切れを起こして途中離脱するのは火を見るよりも明らかだった。


 だが、観客の誰かが言う。きっとその誰かは、ある程度鳩バスの知識を持っている人間なのだろう。誰かが「あれはどういう仕組みなんだ」と言った。

 ヒナタの乗る機体が如何に異常であるかは、わかるやつにはわかる。

 そして大会運営陣の解説役もこれに気がつく。


[あの機体、どういう手順で組み立てたのかは存じませんが……理論上、誰にも追いつかれずにこのレースを制することができる]


[なっ!?と、言いますと!?]


[いやはや、見事、本当に見事な出来ですよ。テンプレートを全て外してから、全部一から作ったみたいですね……相当、研究に研究を重ねたんでしょう。芸術的だ]


[えっ?えっ?]


[おっと失敬。この機体は噴射口が16個付いております、主砲すら取っ払って走行速度にパーツを割いたのでしょう。だから当然速い……速いですが普通に組み立てればこんなもの走った瞬間に爆散します]


[爆散……しかしヒナタ選手はちゃんと走ってますね]


[パーツの位置、角度調整、テンプレートには頼らない手動での精密な設計のもと、一から組み立ててようやく成立している]


 独走状態に入るその機体を見て解説は呟く。


[一体どんなゲームをしてきたらこうなったのでしょう……]




◆◆◆◆◆◆




「お前ずーーーーーっと機体こねくり回してるけどそれ意味あんのか?走る練習した方がいいんじゃあねえのか?」

「うむ、かれこれ4時間ぐらいあの調子だぞ」


 本番前のヒナタは機体に拘っていた。

 ガレージに引きこもり、手元のウィンドウを操作しながら、ああでもない、こうでもない。これには流石の鬼葉と燕歌も呆れた様子。

 ちなみに配信を垂れ流していて、起伏のない様子に視聴者も飽きるだろうと2人は思っていたが。


{これクリーチャー・クリエイトの亜種や}

{パーツ組み立て自由に作るゲームとか完全に栗}

{こういうゲームのヒナたんの集中力エグい}

{そこのパーツ5度右に回した方がいいと思われ}

{右翼と左翼の繋ぎ目もう少し工夫すれば軽量化できるっぽい。後でリンク貼っとく}

{これも完成したら兎さんになるんだろうな……}


 同接200人程度だったからか、【クリーチャー・クリエイト】の実況をいつも見ているコアなファンが盛り上げてくれている様子だった。

 それにしてもヒナタはあまりにもだんまり決め込み過ぎているが。



「────意味はあるよ。勝利の為の意味が」

「お、できたのか」

「うんできた」

「その『できた』はかれこれ10回目だ。信用できんぞ鬼葉殿」

「お、おう」



ーーーーー

【16推進式高速機動兎ちゃん】

形状:ー

装甲:ライトニウム

主砲:バレル型多重機関2版

推進装置:バレル型多重機関2+5版


搭載機器

風圧爆弾 5基

予備エネルギーパック1基

防御膜展開装置 1基

ーーーーー


「はい、兎ちゃんです」

「うわでた兎だ」

「兎さんだ」

{やはり兎}

{この手に限る}

{兎ちゃん}

{正面から見ると兎みたいだな……}

{やっぱり兎}


 兎縛りプレイヤーヒナタの手にかかれば、飛行機だって兎になる。謎の兎への拘りにドン引き、そして機体の不恰好さにドン引きだ。ドン引きコンボだ。


「どんな発想したら砲台を推進装置にするなんて思いつくんだよお前……」

「えぇ!それは鬼葉がやってたじゃん!アーカイブ見たんだよ、ほら」


 ヒナタがその様子を見せる。実際鬼葉はそういう造りの機体を試したことがある。だが結果は。


「おいこれまともに飛べてねえぞ俺!?大丈夫かよ!!」

「安心して!飛べるように調整したから!」

「それで4時間かかったのか、ヒナタ殿」

「え?もうそんな経ってた?」


 鬼葉と燕歌はお互い顔を合わせ、苦笑いというか、冷えた笑いをして、もう一度ヒナタに目を向けた。


「普段俺のこと散々言ってるけどよ、お前も大概イカれてるぜ」

「だな」

「いやいやいや!2人の方がイカれてるから!ボクはまともだから!」



◆◆◆◆◆◆



 一見凄い機体に見えるが勿論明確な弱点はある。それは高速機の宿命。装甲の脆さ。


「ショット」

「ぐっ!?」


[あーーっ!ファースト選手の砲撃が掠って右翼装甲が剥がれました!いくら距離があるとはいえ流石に回避は難しいか!まだ序盤、機体の損傷は軽微でものちに響くぞ!]


 ライトニウムという装甲は文字通り軽い(ライト)。そして空気抵抗が少ない。だが薄い。突けば簡単に壊れる紙っぺらな耐久力。ファーストも速度重視でそこまで砲撃火力に割いていないとはいえ、直撃は致命傷たり得る。

 それに弱点はまだまだある。 


「回避は難しい……っていうか、回避できないよね、ヒナタ」

「どうかな……」

「その機体、ほとんど曲がらないだろ」

「曲がる必要はないからね。だってこのコース、カーブ無いもん」

「だからって、正気の沙汰じゃないな」


 なんとこの機体、X軸方向の操作がほぼできない。噴射口の数と位置のせいで後ろからの砲撃を上下でしか避けることができないのだ。

 頑張って回避しようとする情けない姿は、兎というよりピチピチと跳ね上がる鯉のよう。


「ピーキーすぎるね。俺の機体が主砲装填時間速いやつだったらどうするつもりだったの」

「どうもこうも、そんな機体だとしたらボクの機体を射程圏内に捉える速度を出せない」

「暴論みたいだけど理屈は通ってるね」


 ここまででファーストはおおよそ把握した。目の前の機体が如何につぎはぎでチグハグな歯車で動いている代物なのかを。一つ狂えば一気に瓦解する。もはやネタの領域。

 だから冷静に、致命傷となる一手を狙い続ける。ヒナタはこれより、ファーストの攻撃をゴールまでぶっ続けで対処しなければならないという、地獄のような駆け引きが始まったわけだ。


 そんなヒナタに更なる悲報。最後にして最大の弱点がもう一つある。


「ヒナタ、まさかとは思うが積んでないのか」

「……それはお互い様だろう」

「いやちょっと待って、ヒナタと、俺、条件が違うと思うんだけど」

「……」





[────30秒経過!重力が変化します!]



「「上昇っ!」」



 変化する重力、機体は地の底に引きずり下ろす、惑星の力。

 しかしほとんどの機体は青い光を纏ったと思えば平静としていて、重力場の影響を受けていないように見えた。

 搭載機器の【重力調整機】と呼ばれるものの効果だ。これは重力変化を無視するように機体内部に別の重力波を発生させる、モーションアシスト的な存在。

【巨星の地平線】がどんなコースかはあらかじめ公開されていたので、正常な思考なら【重力調整機】は必須アイテムと判断し、最初に積み込むはずだ。


 そう、正常な思考なら。

 そんなアシスト発動する影もない。異常者はやはり先頭の2人だった。


[まさか!ヒナタ選手、ファースト・ワン選手!機体を上昇させてなんとか地表から離れた!?]


[わーー、これは大変ですよ]


[ええ、大変!大変です!その行動をするということは、その行動をするということは!!!]


 重力ゴリ押し手動対処。

 ヒナタの機体の、最後にして最大の弱点、それは────重力変化への対策を、全くもってしていない事だ。

 


[一度でも操作ミスをすれば地面に叩きつけられて死亡!なんと酷い!シーソーゲームが始まってしまったようです!]


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