Hurtling Burst 最速戦:07「巨星の地平線」
「さあ続いては、本日のゲストをお呼びしましょう」
司会者の一言で観客の目線は舞台袖に一斉に集中する。一体誰がくるんだろう?と思ってる人は少ない。パンフレットを見ればわかるからだ。
わかっていた所で盛り上がるのは変わらないが。
「現役最強の日本人プロゲーマーの【IZANAMI】さん!そして男性にも女性にも大人気!AtoZライバーの【無常パンダ】さんにお越しいただいています!」
「どうもー」と登壇した男性と女性。言わばその道の一番輝かしい者たち。2部リーグの大会にしてはゲストが豪華すぎると言われるくらいだ。
これは大いに盛り上がる。ゲームの大会に興味関心がある層にはぶっ刺さって当然の人選であると言えよう。
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[ちなみにですけど、お二人はどういった経緯で本日の大会にお越しくださったのでしょうか……」
[うーん。帰国して暇だったし、ゲーム大会を覗きたいなぁって、で折角ならやったことあるゲームがいいってマネに相談して……]
[それでこちらに?]
[そんな感じですね]
[パンダさんは?]
[私はーーっ、あーーっ、隣のブースでやってたイベントの出番終わったんでね。まあそのまま帰ってもクッソ暇やし、歩いてきちゃった感じっすねぇ。あ、みんな見てるー?」
[いやはや本当にありがとうございます。お二方のおかげで大会が盛り上がっていいですね。華がありますもん。見てくださいこの会場の熱っ────
電車端末と繋がっていたイヤホンを外した。大会が始まったのはこれで確認できただろ?
あとは俺の代打が上手くその場を凌ぐことを信じて……こっちをさっさと片付けなくっちゃなぁ?早くしねえと試合に遅れちまう。
「ジジイ、ここであってんだろうな?」
[────あっとるよ]
陽炎の店主に電話を繋いだ。敵のお偉いさんが一同集結する秘密の場所。その座標を調べ当てたのは、爺さんやその知り合いの協力あってのことだ。
[そこの角の"がしゃどくろ"と書いてあるじゃろ、そこじゃ]
言う通り、光を失って色褪せたネオン看板のそれがあった。下には地下室に続く階段と玄関が見て取れる。
「みゃーーっ」
「ついでに猫も」
看板娘ならぬ看板猫か。いやちげーな。首輪がついてないし野良猫か。悪りぃな。ちと退いてもらう。黒猫を持ち上げて端に寄せて……おいおい、なんか妙に人懐っこいなこの猫。まあ、いいか。戦いの前の癒しになった。
「おーけー。ここまでサンキューな、爺さん」
[ええよ……便利屋の二代目店主を引き継ぐという条件の元、引き換えじゃからの。寧ろわしが死ぬ前に遺恨を絶やせて良いわい]
「おいおい縁起悪いな。困るぜ。これから禍炉赦會を潰すけどよォ、キッチリその後も残党狩りしなきゃならねェ宿命だ。長生きしろやクソジジイ」
[ふぉっふぉっふぉっ。なるべく頑張るぞい!]
電話を切る。俺は階段を降りた。
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舞台に出揃う、選ばれし20組の強豪。これより、最速の王を決める戦いが始まる。
「私、司会者を務めていますが、なにぶん知識不足でして。申し訳ないですが、解説の庭野さん。ずばり注目選手は誰でしょう」
「なんといってもDブロックのトップスリー。出場段階から優勝候補と言われていた【チーム:アイテール】と、それを崩した【The Tempest】【TYRANNUS】の2チーム。私はやはりシロサギ選手に注目していきたいですね。熱い戦いが期待できますよ」
「IZANAMIさんはどうでしょうか」
「うーん、俺はファーストワン選手かな。ポテンシャルが一番あると思う」
「と、言いますと」
「彼、ドローンを複数同時操作してたんですよね、アレ、競技シーンのプロでもなかなか真似できるものじゃないですよ」
「なるほど……パンダさんは?」
「あ、私。えーと、途中から来たんで、予選がどうだったかわからないんすけど。じゃあ、TYRANNUSの皆さんに注目しときます。消去法みたいですみません」
大会の進行役の人たちがそれぞれの注目株を上げて、場が順調に温まってきたところ。
「おっと、そうこうしている間に準備が完了したようです!」
巨大なホールの会場は一気に広い外の空間にまるっきり変化した。青い青い空に、真っ赤な大地が見渡す限りにずーーーっと続く。
突然の風景の変化に驚きの声が続々と上がる、一方で歓声も上がる。これぞゲームイベントの醍醐味。
大会の開幕を実感できる演出である事と、それまでの会場が暗い室内から開放的で明るい屋外へ切り替わる例が多い事から"オープニングする"と呼称されているお約束。
……ここは、Hurtling Burst -online-の決勝戦は第一レースのスタート場となる。
すでに選手たちが並んでいて、エンジンを蒸している。
それから、20の枠に収まるチーム名とその代表選手を順に読み上げていく。出場者たちは目の前のレースに集中しているからか、名前を呼ばれたとしていちいち反応する様子はないようだ。
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「第一レースはボクが出るよ」
大会当日より数日前、便利屋陽炎の屋根の下でそう言い出したのはヒナタだった。もとよりヒナタはTYRANNUSの作戦担当だった。
鬼葉がその宣言に対して今更とやかく言うわけではないが、質問した。「理由は?」と。ヒナタは答える。
「ボクが、最初に高得点を確保する必要があるから」
鬼葉は眉を顰める。隣にいた燕歌は首を傾げる。"必要がある"という言い方から察するに作戦の根幹に関わる事なのは確かだった。
ヒナタは続けた。
「本戦は順位ごとに割り振られたポイントを集計して勝敗を決める制度だ、だから第一レースで獲得したポイント数によって、第二、第三レースの立ち回りを大きく変えることになる」
「あーーそうだな。第一レースでポイントが多けりゃ、後続が余裕を持ってレース出来る、逆はやべえけどな。無茶を強いられる」
「そういうこと。だから第一レースは走破性と高速機動を両立したマシンが一番最適だ……そして、TYRANNUSでそんな機体に乗れる役はボク以外いない」
純粋な機体操作にはっきり言って難がある燕歌には任せられない。鬼葉も機体操作の技術で不足は無いが他の追随を許さない"撃破性能"を第一レースに使ってしまうのはあまりにも勿体ない。こうなると消去法でヒナタとなるのは当然のことだった。
鬼葉も燕歌も納得して「理解した」と頷いた。
「あとァ、ヒナタの自信次第だと思ってたが……その様子じゃ覚悟キメたらしいな」
「うむ。なんだかいつもの配信している時の雰囲気と違ってピリピリしているぞ」
「そう見えるかい?」
鬼葉から見て、ヒナタはそれまでとは違う風格があった。ただの見届け人であったロリパンSランク昇格戦のあの時とは違う。目の据わった、これから戦場に向かう英雄のような立ち姿。
「────さあ波乱のDブロックを超えたトップスリーがここに集結していますよ!まずは優勝候補【チーム:アイテール】より【レイヴンa.k.a衝動】選手!!」
「そしてノーマークから一気に暴れ回っていた予選代表選手は印象的でしたがこの選手はどうか?【TYRANNUS】より【シト・ヒナタ】選手!!」
「さあこちらも優勝候補、大会荒らしの異名はこの大地と大空にも轟くか【The Tempest】より【ファースト・ワン】選手!!」
観客たちにも一触即発の緊張感が伝わったようで、声援や、レースの予想をする声は抑えて、スタート合図が出るまでを見守る。
「それでは、Hurtling Burst -online- JAPAN CUP X86 第一レース、【巨星の地平線】READY────────────GO‼︎‼︎」
書きたいものを書いていたら展開が遅くなった気がする
反省しつつようやくレース開始でーす




