初陣は風をきって:02
[fight‼︎]
試合開始の鐘がなる、と同時に同じ顔の5人中3人が殴り合いを始めた。
【ホウィップ・スカイハイ】の特徴は確かスピードと跳躍力だったか?
「せいっ!」
「んあ?」
殴られた。
「……」
あぁん!?殴られたら相手の心を折るまで殴り返すのが作法だコラァ!!
「どうやらパンチ力は俺の方が上のようだなァ!!」
ホウィップのパンチは実になまっちょろで、クロスカウンターバチっとキメたら相手は吹き飛ぶ。ここまで差が出るのは筋力の影響……ではないな。俺の元の身体の力は反映されてない。
すると『パンチとキックが得意』って説明文通り【ミルキィ・クラッシュ】ってキャラクターが秘めてるパワーか……なんか不思議だな。俺が【ホウィップ・スカイハイ】を使って同じパンチをしても貧弱になるのかね?
「まあ、馬力が違えってことか?」
どっちかっつーとそういう単車に乗ってるって感覚の方がわかりやすいな。ミルキィという車種はホウィップより最高出力が大きいって感じで。
さて、相手の名前の下にあるゲージが表す残り体力は一発で結構減ってもうすぐ倒せる。今度はこっちから攻めるとしよう。
「楽しもうぜ?」
{鬼葉はゆのをキルした}
{鬼葉は袴安十郎をキルした}
{鬼葉は911アイサーサーをキルした}
「大したことねえなぁ?」
久憐の野郎が使ってた【ヴィター・バット】に比べりゃぬるいもんだ。なんでこんなに人気(当社比)なのかわからんな。偶々か?
「ん?」
ぽとん、とカタツムリみたいにクルクル巻きの飴を三つ落ちて地表の少し上で止まり浮遊する。
ここで思い出すのはあの黒猫から教えてもらったアイテム。そう、拾ったらハイになる"ポンキャンディ"
「これか」
手に取ってみた。途端、体内にぎゅるりと吸収される。おいおいこの女の子たちってそういう食事方法かよ……って。
「ぬおお、力がみなぎるぜ!」
ーーーーー
ポンキャンディ:ストロベリー味
パワーが少し上がる。
覚醒技解放まで1/5
ーーーーー
ポンキャンディ:サイダー味
スピードが少し上がる。
覚醒技解放まで2/5
ーーーーー
ポンキャンディ:メロン味
ディフェンスが少し上がる
覚醒技解放まで3/5
ーーーーー
キマッてんなァ。シュッ、シュッとパンチを打ってみると全然違う。力のこもり方っていうか。風圧起きてるし。身体も軽い。
「予想以上だなこの飴の力は」
凄まじいドーピング、副作用とかないよな?
ちなみにシャブってのは食うと力がみなぎるんじゃなくて、食わないと力が出ない身体になるだけだ、みんなドラッグは辞めような!
「さぁて、残るは俺以外に2人か?」
そんなにキャンディは戦いに影響するなら、相手が見つからねえ間はそれ集めるか。
「3つでこれだけ変わるってのに、先に5つ取られたらやべえかもな。ハイになられちゃあ何されるかわからん。さっさと飴を────」
ここで、気が付いてしまう。この勝負、最初の取っ組み合いに乗ったのがあまり得策ではなかったことを。
「あと2人、もしや、もう5つ集めてんじゃあねえのか?」
するとどうだ、今の俺は、体力ゲージが満タンじゃない上に飴は3つ、そして敵の位置も把握しちゃいない。
敵は逆に、スタート位置から動いていない俺を把握し、飴を5つ集め、体力を温存して万全な体勢で待ち構えている。なるほどなるほど?強敵となったわけだ。
「……クククッ」
ああ、いいね。ゾクゾクする。勝つか負けるか分からない勝負の醍醐味ってーやつだ。
「フハハハッ!面白え!」
やってやんよ。こういう逆境を待ってたんだ!
「するってーと2人は上にいんのか?」
ここは立体駐車場の一階。このフロアにいないということは上に逃げたんだろう。上がるルートを確認する。
死角だらけでまあ、不意打ちにはもってこい。最大限の警戒をしながら、坂を登って2Fへ。
「敵は……いねぇか?」
車が立ち並ぶ薄暗い空間。この静けさ。どこに潜んでいる?
「ん?ありゃなんだ?」
遠くの方に、青い輝きがチラと見えた。車と、車の間。駐車場がされていないスペースに、浮遊するそれは。
「キャンディか!」
おいおい幸運だぜ。これで4つだ。もうすぐで俺もハイになれる!っていうとなんかヤクチューみたいだな。
走って歩いて近づいて、キャンディに手を伸ばして────ってそんな馬鹿なことするわけねえだろ!後ろ蹴りを放って迎撃する。
「むっ!?」
「見え透いた罠だなァ!」
蹴りと蹴りが交差する。
舐めんなよ?こんなわかりやすく落ちてるキャンディを疑わずに取りにいくわけがないだろう。まして俺より速く動ける存在がまだ2人もいるなら尚更だ!
「どうした?バレると思わなかったか?」
「くっ!私が勝つんだから!」
予想通り、アイドルじみた衣装のショートヘアーのガキがいやがる。中の人事情は知らんが演技力高いな。本当になりきってら。
脚を回転させて二発ぶちかます……相手は冷静に避けて、蹴り返してくる。腕を交差させて咄嗟にガード。
「押された……?」
「はいやっ!」
踵落とし。さっきまで俺が立っていた地表に少し抉れてヒビが。【ホウィップ・スカイハイ】脚が特に強いみたいだ。序盤の3人とは戦い方も手応えも全然違う。
「あんたのキャンディ私にちょうだい!」
「あげねえ、よっ!」
だがキックなら俺も負けちゃいない。相手は確かにスピードはあるが、まだまだ脅威足りえない。高速スイングバットとは違い、目で追える上に。
「俺との距離が近えぜ?」
距離が近ければ、拳は届く。
「んぶっ!?」
拳が届けば、次の拳に繋がる。
「オラオラッ!おっりゃァァ!!」
無限に殴れば、相手はくたばる。
{鬼葉がローハナをキルした}
相手がくたばれば飴は落ちる。倒して手に入れたポンキャンディと、罠として敢えて放置されていたポンキャンディ。これら2つを回収し、総数は5つ。
するとついに俺はハイになった。
ーーーーー
覚醒技解放!!
【覚醒技:ギンガハメツ】
ミルキィ・クラッシュのカッコ可愛い必殺パンチだ!
右の拳が巨大化し、強大なパワーを持った鉄槌を一度だけ放つことができる。
ーーーーーー
タップで発動【ACTIVE‼︎】
ーーーーーー
残るはあと1人。色々あったがこっちの体制も整った。さあ、バッチバチなガチバトルを……。
「んあ?」
突然そこかしこから唸り声が聞こえた。いや、唸り声じゃない。エンジンを蒸す音だ。1つ2つ3つ4つ。順にライトが点灯し、それは発進し始める。
{5分が経過しました。エリアギミックが作動します}
ここは立体駐車場、なんと止まってた車のその全てが行き来し始めて。
「なん……ッ!」
「もらったぁぁ!!」
車の影より人の影。ずっしりと腹に重たい衝撃が走って。
最後の1人、シト・ヒナタが操作するホウィップの蹴りをモロに喰らった。
「ぐぬうっ!やるなァ?」
「くっ、決めきれないか……!」
受け身を取って対峙する。しっかしまずいな。いまのをモロに喰らっちまったせいで体力ゲージがもうちょっとしかない。
「ふぅ……」
「ハァァ……」
俺も、相手も、間合いをとって警戒する。最終ラウンドだ。
感想、評価、ブクマ、よろしゃーっす!!(ハイキュー観てたら頭運動部になった)