Hurtling Burst 最速戦:02「ヒナタの推しゲーム」
グランドフロント、東京会場。俺たち決勝進出チームはチェックインを済ませて、一旦外にいる。大会開始まで時間が少しあるんで暇だ。
「おるぁおるぁ、やんきー!やんきー!」
「ヤンキー!ヤンキー!わっはは!」
「ヒナタ、燕歌、ヤンキーは『ヤンキー』って鳴いたりしないぞ」
「「えぇ!?」」
「えぇ!?じゃねえよ!アホかよ!」
イベントはなにも【Hurtling Burst -online- JAPAN CUP X83】だけに止まらず複数存在するホールの屋内でそれぞれ開催されている。外には屋台が並んでいて、一種のお祭り状態だ。
「朝ごはん食べよう!鬼葉!腹が減っては戦はできないよ!」
「鬼葉殿、あの屋台はどうかね。美味しそうなたこ焼きを売っているぞ」
「あーー」
こういう祭りんときの屋台って決まって値段が高えのなんの。近くのコンビニで買った方が安いし、金欠の俺としては「そっちでいいだろ」って言いたい所だが……うっ、すっげーキラキラした目をしやがるコイツら
「わーった。朝ごはん食おう」
「「イェア!!」」
屋外にあるパラソルを立てるようなタイプの白い円形机に腰をかける。さあ、俺の目の前にはブラックの缶コーヒーが3つ置いてある。
「お、鬼葉それ朝ごはん?」
「ああ」
「お腹空いちゃうでしょ!もっと食べなさい!」
「お前は俺のおかんか!」
ヒナタの指摘はごもっとも。でも俺はこれでいい。コーヒー缶を一つぐっと喉に流し込んで、その理由を答えてやる。
「食ったら眠くなるだろ!レースに勝つ、組織も潰す、両方やるのは睡眠時間削る"覚悟"が必要なんだよォ!!」
「理由が至極真っ当だったよ!なんかボクが悪いみたいになっちゃったよ!ごめんね!」
「いや、いい。俺は別に怒っちゃいない……」
怒っちゃいないが……一つ言わせてくれ。
「燕歌テメーどんだけ食ってんだよ!一番危険な奴がすげえ呑気じゃねえか!」
たこ焼き!たこ焼き!フランクフルト!焼きそば!ピザ!ベイクド!ホットドッグ!おにぎり!おにぎり!おにぎり!おにぎり!サイダー缶2つにオレンジジュース1つ!暴飲暴食の限りを尽くすこの女ァ!
いや別に悪いことはないんだけどよォ……なんか、こう、お前自由人かよ!緊張とか遠慮とかしろよ!胃がでけえよ!
「だって、食べるの好きなんだもの。仕方ないじゃないか」
「お前……胃がぶっ壊れてもしらねえぞ……」
「安心しろ、うんちは沢山出るタイプなんだ」
「それ消化吸収されてなくねぇか!?ほとんど腹通り過ぎてるだけじゃねえか!?」
もぐもぐもぐと口いっぱいに頬張って、美味しそうな顔をしている。ああ、クソいやらしい!羨ましい!俺もやりてえよその大食い!身体鍛える為に食事制限もしてるし、どっちにしろ金欠だしできねえんだよ畜生がよ!
「お前が虎紀あたりの野郎だったらデコピン1発かましてる所だったぜ」
「はぁん?舐めんな?オレならそのデコピン避けてカウンターパイ投げするぞコラー」
「噂をすればバカが来たな……」
「よっ」と現れた金髪ドレッドヘアーの特攻服男。総長にしてプロに片足突っ込んだゲーマー虎紀とその仲間である【The Tempest】のお二方。どうやらチェックインを済ませてきたらしく、また合流した。
俺はコーヒー缶を全て飲み干し、残り2つを虎紀に投げ渡し、1つをスカジャンのポケットにしまい、席を外す。
「合流したところで悪いが、ちと野暮用を済ませてくるぜ」
野暮用がなんなのか、ヒナタと燕歌はもちろんわかっている。真面目な空気になって、2人はこっくりと頷いた。
「気をつけてね」
「……最悪、大会棄権してもいい。私の友人のようにはなってくれるな」
「わーってる、心配すんな」
俺は1人、競技の外の戦場へ向かう。後ろから2人に見送られる視線を感じながらも、進む。
◆◆◆◆◆◆
「ったーくよ。コーヒー缶1つでボディガード代とか舐めてんなあ?格安だぜ格安!まあ、このオレ虎紀様にかかりゃ大概のゴロツキは相手じゃねーから安心しな。ヒナっさん!」
鬼葉が席を外して、残されたのはヒナタ、燕歌、波標、ロック、そして虎紀の5人となる。そしてヒナタは虎紀に質問した。
「鬼葉1人で大丈夫なの?」
「へーきへーき、アイツ強えから」
「蜻蛉殿から聞いたが、組織を10個潰したと言うのは流石に嘘ではないのかい?」
「それはマジ」
本当なんだ、と別々の人から証言を得たことで、説得力が増し、ドン引きしかける2人だった。
さて、ここからは時間潰しに雑談をし始めるのだが、最初に喋ったのは波標だった。
「ねえ。2人は、桃兄さんとどうやって知り合ったの?」
それに対して答えたのはヒナタだ。
「ボクは【ロリポップ・パンクラッチ】ってゲームで。燕歌はSNSで今回のチームメンバーを募集かけて」
「へえ。ヒナ君はもしかしてロリパンプレイヤーなの?」
「まさか、キミも?」
「奇遇だね」
カバンにぶら下げた、ロリパンのキャラの1人である【シーフォン・スナイパー】のフィギュアストラップを見せた。「それが推しなんだね!」とヒナタもまじまじ眺めた。
背の小さい少年2人、実はこの2人、15歳で中学3年生の同い年だったりする。そんな彼らが同じ話題で意気投合をしているのを微笑ましく、歳上の虎紀、ロック、燕歌は眺めていた……。
「────それでさ【クリーチャー・クリエイト】ってゲームが面白いんだけど」
「ストップ!ヒナタ殿!人にクソゲーを勧めてはいけない!」
それはいけない!と燕歌はヒナタと波標の間に入って遮る。そしてヒナタはキレる。
「ねえ燕歌。キミ言ってはいけないこと言ったね。ボクは怒ったぞ。兎の餌にされたいか!神ゲーって言って!」
「か、かっ、かみ」
「ヒナっさん!今検索かけたけどこれクソゲーっつーかバカゲー臭半端ねえぜ!」
「あーあ。虎紀アウト。ボクもうキミのこと嫌いになったから」
「え、あっ、悪い。拗ねないでな。オレの感想正直に言っただけだからよ」
「コーヒー代いくら?120円?じゃあキミのことこれから"120円の価値"で呼ぶから。人前で呼ぶから」
「地味な嫌がらせ!悪かったってヒナっさん!」
少し頭を下げた虎紀!しかし怒ったヒナタの暴走は止まらない!そこで余裕こいてサイダー缶を飲んでいるロックにも容赦なく降り注ぐ。
「ロックちゃんはやってくれるよね!【クリーチャー・クリエイト】!」
「ニホンゴワカリマセン」
「嘘つけぇ!」と虎紀と燕歌がやじを飛ばす。流石にヒナタもそんなことでは騙されない。ロックの肩をがっしり掴んで、目と目を合わせてこう言うのだ。
「ユー、プレイ、【クリーチャー・クリエイト】」
いつもはテンション高めに明るく対応するロックなのだが、なぜか満面の笑みでヒナタの放つ不気味な威圧感に、つい2、3回頷いてしまう。それからなす術なく無言で視線を逸らす。
まあ、そんなヤバめな空気が流れ始めているが、波標の次の一言で済む話だったりもする。
「うん、今度やってみるよ」
「ほんと?」
ぱぁっと明るくなるヒナタ。やったーやったーと喜んでひとまず一件落着。




