三者三様のテンペスト
Hurtling Burst -online-本戦が、いよいよ開幕する────その裏で巨悪は揺らめいていた。
「アイテールに入れたな?」
「ええ」
東京の某所の地下にある広いバーの中。
やたら密集する正装の者たち。顔に傷がある者、歯が抜け落ちている者、黄金を纏い威圧する者、赤いドレスに身を包む者、たまにアロハシャツをきた奴もいれば、見た目だけなら至って普通の者もいて。彼等彼女らはカクテルグラスを片手にモニターや電子端末に目を落とす。
別室では青白く輝くナイトプールもあれば、すぐそばには棒の廻りを女が踊る。実に旧世代的なそんな場所。
────禍炉赦會。一括りにそう呼ばれる。
「しかし、アイテールに入れるってなんでですかい?一番人気で当てた儲けも少ねえのに」
「だからてめーは馬鹿なんだよ中卒が。いいか?賭けってのはな?1発当てることが全てじゃあねえんだぜ?」
「はぁ」
中卒、と呼ばれたそいつはぽかんとしている。
「儲けが少なかろうが当てれば増える。確実に当たるものを選び続ければ増え続け勝ち続ける。そうして地盤固めんのよォ」
「な、なるほど!」
グラスの中のものを飲み干す。
「それによォ……念のために注射仕込んでんだからよォ確実だ……今日は部外者のカモ野郎から濾し取るぜぇ?」
と意気揚々に話していた。
「はぁ」
そんなバーで働いている一人は溜息をつく。
「世の中って汚ねえな」
そんなことを言いながら今回出場するチームと……それに賭けられているものと……あとは順位予想的なものにも目を向ける。出来レースが仕込まれているなあと常々思う。
「【The Tempest】と【TYRANNUS】ってとこには申し訳ないがな……【チーム:アイテール】が勝つようにできてるんだ、このレースは」
と、そこに書いてあるものに対して憐れみを含めた独り言を呟き……。
「おいちょっとまてこれ────!?」
そしてその一人の店員は紙をテーブルの上に置き、恐怖で表情を歪めるのだった。
「お、鬼葉!?」
この場にいる者で、彼は唯一気が付いた。あの日の思い出が蘇る。
組織の下っ端でこれからこの街で根を広げようとした上の者が、根刮ぎ刈り取られたあの悪夢。
胸ポケットから手記を広げ、その教訓を心の中で復唱する。
(日誌記録:X82/5/2、龍頭の街には手を出すな)
◆◆◆◆◆◆
ヒナタと燕歌が龍頭の街にきて1週間。いよいよ大会本戦が始まるので東京へ向かう……
「へいへいへいへーい。ボ……オレはやんきーだぜぇ」
「ふぅーーん。これはカツアゲという奴だよ、さあ跳んでみな。小銭の鳴る音を奏でるがいい」
「うん、ダメだわ、お前ら会場では喋んねえ方がいいな」
特攻服に身を包んだヒナタと燕歌。ここまでコスプレ感満載になるとは思いもしない。それもこれも顔立ちから優しさが滲み出てるのが悪い。
「そもそもなんでこんな格好をする必要があるのだ?」
「馬鹿野郎お前そりゃ大会オフライン会場に奴らが潜んでるからだろ。変装だよ変装」
「はぁ」
八百長問題をめぐり、裏社会の奴らを敵に回した俺たちは……いやコイツらは危険と隣り合わせだ。拉致られて食い物にされちまう可能性は大いにある。
すると燕歌が質問をしてきた。
「鬼葉殿。本戦もオンラインからの参戦は可能だぞ。どうしてわざわざ外に?」
「……俺せっかくイベント会場設営したんだぜ?お家でやるのって、なんか、なあ?」
「「なるほど」」
それに安心しろ。「敵の正体はわかってる」と2人に伝えた。何者なの?と首を傾げる。フハハ、知りたいか。ならば教えてしんぜよう。
「禍炉赦會。東京の組織連合みたいなもんだ」
「そそそ、組織連合!?強大そうな相手だ……」
「噂でしか聞いたことないぞ」
ビビり散らすヒナタ。一つ頷く燕歌。
「組織連合と言ってもまあ東京だからな。ここの馬鹿どもよりは何倍も賢いが……ぬるま湯に使った豚どもなのも違いない」
「……でも」
不安は払拭できない。何故って。
「組織を潰すって、そんな簡単なことじゃないでしょ。そんなのどうやって……」
俺が一体どのような方法で相手をぶっ倒すのかが見えていないのだから当然の反応である。
じゃあ見せようか、禍炉赦會に対抗するこちらの勢力を。
轟々と二輪の吠える音が近づいてきているのに気が付いているか?ヒナタよ。窓から除けば土煙を上げて、やってくる奴らがよく見える。
「目には目を歯には歯を組織には組織を。俺たちの協力者を紹介しよう龍頭三大勢力が一【昏鵺会】筆頭────」
「梅街 虎紀」
「ちぃーーーっすヒナっさん!」
「とととと、虎紀!?キミもそっち側だったの!?」
「びっくりしたか?お?お?現物のヒナっさんは可愛らしいっすねー!!」
そこにいるのはパンクロックな虎の骨頭の男ではない、金髪ドレッドヘアー紛うことなき暴走族の総長、虎紀だ。小柄なヒナタ少年を肩車して嬉しそうに走り回る。上にいるヒナタはビビり散らしている。
「話は聞いたぜ鬼葉ぁ!俺もムカッ腹が立って仕方ねえからよーー!八百長したクソ野郎どもぶっ倒すのに協力してやるぜ!」
「せいぜい足引っ張んなよ?」
「お前こそ俺らについて来いよ?」
フハハギャハハとお互いあいかわらず汚ねえ笑い声だ。
またしてもコイツと同盟を組むことになった。何を隠そう虎紀もまた本大会出場者、対戦相手にそんなズルする奴がいたとなっては黙っていない。
「危険を冒す覚悟はできてっかぁ?鬼葉のツレちゃん二人よぉ」
と、虎紀はヒナタと、そして燕歌に向けてそう言った。先に燕歌が「何を今更」と答える。そして次にヒナタが「うん」と頷く。だが流石に怯えているように見える。当然か。便利屋を暴走族が取り囲んでたらカタギならビビって当然。
「店長さん!助けてこの人たち怖い!!」
「流石の私も、ビビるぞ……ヤクザほぼ同じじゃ無いかこの人たち!!」
「ふぉっふぉっふぉっ」
便利屋店主の影に隠れてしまう。爺さんは嬉しそうに笑っている。滞在中、孫代わりみたいだったからな。
いやしかし虎紀よ。
「お前のせいで俺のツレがびびっちまったじゃねえか、どうしてくれんだ?」
「逆にお前がカタギをチームに引き入れるなんて思わなかったぜこちとらよぉ!それに何が悪いっていや運だろこれ!」
そりゃそう、と俺も返す。だってこんなことあるか?出た大会は注射の仕込まれたブラックファイト、ネットで知り合った奴は筋者の手が仕込まれた奴、多分これ一番可哀想なのヒナタだぞ?巻き込まれたんだからな。
「────個性的ナ人ガ沢山イマスネェ!」
「ああ、まったくだな……ってそれ俺も含めて言ってんだろ!っていうかいやまてその前にお前誰だ!?」
いや本当に誰この人!?知らねえ女が立っているぞ。なんだこいつ何者なんだ!?外国人か!?
「ロックちゃんデーーース!!」
「おい虎紀、こいつ誰だ」
虎紀のツレなのは間違いないが……ふっふっふっと笑ってねえではよ言えボケが。ん?ヒナタと燕歌がわなわなしているぞ。
「ねえ、ロックちゃんの所属するチームって……」
「まさか、いや。この街にいるということはそうか……」
ヒナタと燕歌は顔を見合わせた。「え?なに知ってんのこいつが誰か」と聞いたら頷いた。なんと1週間前鳩バスで練習試合をしていた相手だと。俺がいない間にそんなこと起きてたの?
いや、詳しいことはいい。だいたいわかってきたが、こいつは何者なんだー!!
「ワタシハ!虎紀サンと同ジチームデーーース!!」
「「「そういうことね!!」」」
俺たちTYRANNUS、3人揃ってズッコケながら納得する。一体どこの馬の骨かと思ったがこれなら納得だろう。
さあ、改めてお互いのチームメンバーの顔合わせが終えた。
話が混み合ってきたが、いよいよ向かう。イベント設営の仕事で数回行った東京会場。
「あっ!そうだ鬼葉ぁ!」
「んあ?」
虎紀が何かを思い出したかのように俺を呼ぶ。なんだと聞き返してみれば、こう言った。
「オレのチームメイトと待ち合わせてるから、ちょっくら寄り道する」
「お、おうそうか。そうだな。チームは3人組だもんな。虎紀と、このロックって奴と?あと1人は?」
「この街にいる」
「え」
で、着いたのが警察署。
「お、おいお前出頭するのか?」
「んなわけねーだろ。ここが待ち合わせなんだよ」
「お前のチームメイトはここに住んでんのか?それとも絶賛身柄拘束中か?」
「はっは!!んなわけねーだろ!!」
警察署の自動ドアが開いて、黒い服の少年がとぼとぼとこちらに歩いてくる。その隣には……だいぶ見たことある刑事が1人。
おいおいおいおい、冗談きついぜ。
「やあ、虎兄さん、桃兄さん」
「お前ら馬鹿どもにうちのガキ任せるわけにはいかないからねぇ、パトカー出すわ……頑張っていとしの我が息子!!」
「うるさい」
そこにいたのは。
「波標じゃねえか!!!えぇ!?お前らチームなのかよ!!!」
「ああ!オレたち最強チームだぜ!」
「ウッソだろお前……」
かくして、The Tempestのメンバーが全員揃った。




