堕天、後編。
「ふざけるな……」
木菟は激怒していた。同じく讌も、白鷺だって心穏やかではなかった。
「金を出すからこの試合は負けろって?おふざけがすぎる……!」
学院校舎のコンクリートの壁に頭を押し付け、歯軋りをする。
旧チーム:アイテールは、小尾という存在に取り憑かれて、邪神となる。裏社会の魔の手によって捕まってしまえば、そこに出される指令はただ一つ。「羽ばたくな」だった。
「珍しく俺と同意見だぞ、木菟。あの狸野郎……何のためにここまでやってきたか知りもしないくせによくも勝手なこと言うなよな……」
夢にまで見た。1部リーグ。予選最終戦にて事実上の死の宣告を貰う。この状況、勿論彼らの答えは一致する。
「抗議しよう」
「賛成だ。俺はあの狸の道具じゃあない」
木菟と白鷺は揃って歩き出す。
「どこへいく」
足を止めている讌が2人を止める。
「小尾のところだ」
「讌ちゃんこそ来ないの?」
木菟に聞き返された讌は即答する。
「行かない」
と。それからこうも言う。
「行くな」
「行くな?おま、お前、この状況で何もせずだんまりするんのか?」
「ああ」
「讌ちゃん、絶対アイツがおかしいんだ。直談判する。私たちにもモノを言う権利があるはず」
讌も気持ち自体は同じだ。一言二言どころで収まらないぐらいに言いたいことはたくさんある。だがそれと同時に本能的に危機を感じていた。だから2人を止めるのだ。
「長いものには巻かれろという言葉がある。この場合がそうだ。根拠は無いがなにか、なにか大きな物を感じる。従うべきだ」
「話にならない」
「待ってくれ。私だって君らと同じだ!けど……今すぐはダメだ。八百長の話を持ち出す相手だぞ!?絶対にろくでもない奴だ!相手の実態が何者かもわからないんだぞ!」
「讌ちゃん、今はダメで次はいつかな?チャンスっていうのはそう都合よく何度も回ってこないよ」
「しかし……」
やっとの思いで抽選が当たったのに。それをすぐに捨てるなんて愚行を若い少年少女にできるわけがなかった。
チーム:アイテールの総意は一致している、そこに違いがあるとすれば、プロを目指すものとして、どれだけ今を焦っているかだ。
もう3年目と卒業は刻々と迫りそろそろ実績を立てておきたい木菟。
神童と呼ばれプレッシャーを常に感じている白鷺。
そんな両者と違い讌は、今みたいに充実しているのなら別にプロになる必要もないのかもしれないと、そう思っていた。
「私たちは行くよ」
「ふん、別に東雲が来る必要性ないけどな。じゃあな」
それで2人は止まらなかった。
『チーム:アイテールはその後大会で1位を取り、その中でも突出した実力の神矢はプロライセンスを取得することになる』
この広報は真実であるが、いいように脚色してある。
木菟と神矢の直談判は結果からすると軽くあしらわれて失敗に終わった。となると両名が次にとる行動といえば想像に容易いだろう。
「小尾の指令を無視して一位を取る」
そう、木菟がオーダーを出せばチームメンバーも相槌を打って、FPS大会を優勝した。
その王座に座るとき少年少女は歓喜する。普段のぎこちなさも抜きにして、素直に喜んだ。
だが呪詛のついた椅子に座ったが最期、天神は堕天する。
[海老世市で女子学生が意識不明の重体]
[犯人は暴力団関係者か]
くらり、くらり、と昼の時。校舎の反対側に上がる、やけに明るい晴天が嘲笑っているようだ。教室に入れば陰は濃く。
くらり、くらり、と足取り歪み、床にこけては座り込む。
「はぁ」
悔しさでもない、悲しさでもない、ただただ虚しいため息しか出ない。
あとは立てかけてある時計の針の音だけが鳴るばかり。
この半年間であった、思い出という名の記憶を脳内で反芻する。ずっと、ずっと。ぐるぐる回るように。すると1人の人物を思い出す。
木菟が粛清された今、彼は何をしているのだろう。ちょうど考えた時にそれはいた。
「白鷺……」
「今日をもって東雲……お前はチームから外される」
「外される。解散では無いのだな」
「ああ。優勝したチームが即解散するのも怪しまれるからな。小尾は、俺と新メンバー2人を入れてアイテールを継続させるらしい」
「……お前には恥らしさというのが無いのか?」
「うるせえ……従わないとどうなるか、お前も思い知らされただろ」
「……私は最初から行くなと言ったはずだ!」
「……ッ!!」
讌が怒鳴る、白鷺が机を蹴り飛ばす。お互いのその表情を簡単に表すと怒り。だがよく見れば悲壮と恐怖を押し殺した上での怒りであることがわかるだろう。
「仕方ないだろ……俺だって……俺だって……!!」
顔を見られないようにするためか、白鷺はそっぽを向いた。そして色々言いたいこともあったろうが、全てを押し退け言うべきことだけ言う。
「お前は、新しいメンバーでも探してくれ……もう、チーム:アイテールに関わるな」
「……」
「あの讌さんがチームに入ってくれんなら大歓迎だぜ!」
「ふむ。存分に喜べよ。私は最強のスナイパーだからね」
ゲンタとユキ、と名乗る少年たちと新しいチームを組むと言う話になった。曲がりなりにも学生最強チームに所属していただけあって、アイテール抜けてチーム募集しますと言えばすぐに人は集まる。
「ちょっと!あんたらありえないだけど!このチームのメンバーはわたしでしょ!」
と、喚き散らすのはカヤという少し古めなギャル少女だ。どうやらこのゲンタ、ユキ、カヤの3名が元々チームらしく、そのカヤを押し出す形で讌をねじ込んだらしい。反発するのは当たり前と言えよう。
そんな煩い小娘に手を焼く男2人。渋い顔でお互いを見合っていたので、讌は言った。
「恨むなら君のその端にも置かない実力を恨むといい。まあ、相手がこの学内で最強の私な所は同情してやるが」
この時の讌は、過去最悪な性格をしていた。木菟がいたことにより自身の本来の実力を錯覚する。木菟が居なくなったことにより拠り所を失う。その結果、ここまで傲慢に自分を強く見せていなければやってられないほどに、精神が追い詰められていたのだ。
そして、その結果もまた、第二の悲劇へと繋がる。
「お前、下手くそすぎ」
「マジでないわ。あんだけカヤに言っといてカヤより下手だったわ」
「クソゴミ、やめちまえ」
「二度とおれたちに関わるな。金魚のフンめ」
「マジでウケるんだけどぉ!早速グルチャ載せとくわ」
空が曇ってきた。
結局あの夢のような半年間は本当に夢だったんじゃ無いかと、今でも思う。
所詮はおこぼれ。木菟と神矢が凄いだけで、讌はそこに居合わせただけの無能に過ぎなかった。
自分が何もできないから二人はいってしまった。自分は何もできないから二人がいなければこうなるのも当然だ。
噂は瞬く間に広がるわ、話に尾鰭が付いて、最後には「チーム:アイテールが半分解散しかけた理由は全部讌が悪い」と、チームクラッシャーとしての悪名が広まってしまう。
雨が降ってきた。
気がつけば年が明けた。
なんの大会にも出場できず、出れた個人戦でも惨敗を繰り返し、上位から下位学生へと一気に降格。
ゲンタ、ユキ、カヤから中心に、会う者全員が軽蔑の目で見下ろす。
新しく大会が始まる。かつて【チーム:アイテール】のメンバーだった讌はそれを目にして何か思うことがあった。
ああ。たしかこの大会はFPS【Stand Alone Dopeness】の補欠大会として有名だ。
といっても、舐めてはいけない。レースと射撃の猛者が群雄割拠する、アマからプロへの登竜門なのだから。
「Hurtling Burst -online- JAPAN CUP……」
────「お前出るの?無理無理。お前だってカスじゃん」
────「何ができるの?え?教えてクソザコさん」
────「他を当たってくれ、キミみたいな雑魚に構ってる暇はない」
浴びせられるのは、罵声だった。なぜこんなにも言われなければならないのだろうか、その答えは、今思い返せば簡単だろう。
「雨……」
土砂降りの雨が降り注ぐ。彼女は力なく、その場を動くことなく、落ちる汚水を浴び続ける。
「私は、あまりにも弱い、弱すぎた……終わりだ」
実力も、精神も、何一つ、1人では。
渇望、欲望、期待渦巻くビックドリームの道。その裏に必ずある、大量の屍。ああ私も、その1人、いやその中でもとびきり腐った死体なんだと思い知った。
「なんでこんなことになったんだろう」
ぐしゃぐしゃになったそのチラシに、問いかける。
返事は無い。
無いはずだった。
だがそこに微かに聞こえた。電子端末からの通知音。それはよくあるSNSでの"あなたへおすすめ"大概のそれは的外れで、目に留めることもないのだが、この時ばかりは、何故かこの時は、讌はそれに目を通す。
きっと、そんなくだらないことでもいいから、救われたかったのかもしれない。
その想いが運命を動かす。
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シト・ヒナタ@hinata_usagi
私「なんということでしょう!鳩が一羽足りません!」
仲間「えぇ!?鳩バスは3羽で"くるっぽ"しなきゃですよ!?」
私「どうしよう!(大慌て)心臓ばくばく!どうしよう!」
仲間「鳩胸になったわね」
私「DM待ってます」
#鳩バス
#大会メンバー募集
#ゲーム好きと繋がりたい
#Hurtling Burst -online-
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20万文字突破しました。
過去話を読み返してみると地の文がやばかった……
もうちょい丁寧な描写を心掛けます。




