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ゲーミングヤンキー〜喧嘩最強の男、少女となりて激走する〜  作者: アスク
第二章 Hurtling Burst -online-〜超高速のその先へ〜
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龍頭街の夜、少年少女は語らう




 最初、鬼葉という人物はやたら勝負に熱を入れるプレイヤーだな、と燕歌────東雲 讌はそう思った。

 しかし予選を経て、その中で八百長に巻き込まれて、試合が終わった後、その八百長した奴らを潰すと言うのだから、いよいよ何者かわからなくなった。

 讌は寮室にある自分のものをリュックに詰め込んで、部屋を出る。


「……本当に大丈夫なのだろうか」


 不安である。

 オレンジの淡い灯に照らされた学院寮の廊下を讌は走る。彼女は一刻も早くここを離れなければ一番危険な状況にある。

 いつ襲われてもおかしくない。

 だがそれと同時にこの学院を抜け出せる、世界が広がると考えては心が少し軽くなっていた。


「もう、無茶苦茶すぎて、学院生活での嫌なことも全部吹き飛んでしまうよ」


 たとえば才能の差を突きつけられたこと。たとえば孤立していたこと。たとえば陰湿な嫌がらせを受けていたこと。たとえば今回みたいな金の受け取りが頻繁に起きていたり。たとえばそれを公言してはいけない暗黙のルールがあったり。刃向かえば────粛清されたり。

 そういったものが少しずつ、少しずつ、讌の心には蓄積され、ストレスに蝕まれていた。

 しかしそれがTYRANNUSというチームに転がり込んでから、明らかに風向きが変わり、視界はすっきりする。


 学院寮から数百メートルの位置。眠らない街の商店街を突き進むと駅にたどり着く。海老世駅だ。

 ここから、各駅停車で指定位置に向かう、の、だが。


「この指定位置もどうなんだ……」


 その指定位置は、住みたくない街ランキング堂々の殿堂入りを果たしている最恐最悪のジャパニーズスラム街。


「龍頭正門前」


 龍頭区の入り口、地獄の入り口。

 そこで待ち合わせだというのだから、一体どこが安全なのかわからなくなった。



◆◆◆◆◆◆◆



「じゃあ、行ってくるよ、お母さん」

「んー、いってらー」


 ()の親は放任主義だった。これから友達の家でお泊まりするといえばどうぞ好きにしてくださいと言う対応を取る。よく言えば多少の自由が効く。悪く言えば子に無関心なのだが。

 シト・ヒナタ────御兎(ミト) 紫陽(シハル)はリュックを背負って鏡の前で髪の毛をセットする。


「うわぁ、大丈夫かな。ダサくないかな。そんないきなり会うと思わないじゃん普通」


 鏡に映る。変声期もなく喉仏も出ず、身長もまるで伸びず、男らしさが微塵もない、丸顔童顔のボブカットの少年。童顔、と言ったが実際に幼いのは間違いない。


「こんな夜に外出るなんて……なんかわくわくするなぁ!」


 遊びを知らない、生真面目な中学3年生にとって、夜に出歩くことそれすら冒険。色んな意味でドキドキしていた。

 それは悪い意味でのドキドキも含む。








「……集合場所が……龍頭正門前なんて」


 龍頭の街。それは紫陽でさえ知る、日本一治安の悪いところ。ゴミ人間の捨て場、最終漂流地。そんなところにまさか、逃げ込むことになるとは。


「これボク自宅にいた方が安全だったような……」


 そう気がついたのは家を出て電車に乗ってからだった。


[間も無く、龍頭正門前、龍頭正門前。next station is────]


 自動ドアが開く。そこはあり得ないくらいにこじんまりとした駅で。

 一体いつ取り付けたんだと言わんばかりに古臭い電灯が不規則に点滅し、そこにはハエが集っている。


「ここ……日本だよね?」


 紫陽は夜の暗さに震えながら、改札口へと足を運ぶ。しかしだ。近くのベンチに差し掛かる辺りで気が付いてしまう。


(なんか……居る!?)


 真っ黒い髪の毛の女性が座っている。

 紫陽は戦慄した。これは間違いないと。 


(霊の類だ……!)


 その女、紫陽の気配に気がついたか。ゆっくり、ゆっくりと頭の角度がこちらに向き始める。

 その余りの恐ろしさに、鼓動が速くなり悲鳴を上げたように心臓を締め付ける。


「ぁ……っ……」


 そして────








 鬼の顔がこっちを見た。


「ぎゃぁぁあ!!!」

「わははっ!驚いたかい?ヒナタ殿!!これ私の地元で買ったドッキリ用グッズなんだがよくできてるだろう?見た目に反してホログラム装置が組み込まれていて意外とハイテク……ありゃ?」


 あぶくを吹いて倒れる紫陽。それを見下ろす黒髪ブルーのインナーメッシュの少女……讌。


 









「なあ。そんなに拗ねないでくれたまえよ」

「別に?初対面で夜会っていきなり脅かしてくるからって別に気にしてないし」

「ああすごい。拗ねている」

「拗ねてない!」


 紫陽はぶーたれた顔をした。この表情、まさにいつもアバター越しに見るヒナタのそれで、讌は心のどこかで安心する。


「しかしキミは……どっちなんだい?」

「どっちって?」

「いやその……」

「あーー。ボクは男だよ……女の子みたいに配信してるけど本当は男……幻滅した?」

「……いや」


 讌はじっくり頭のてっぺんから足先までまじまじ再確認する。


「そこらへんの女より可愛いな、君」

「女子から可愛いって言われんのすんごい複雑……」

「ああ失敬。男たるもの"カッコいい"と言われた方が嬉しいかな?」

「いいよ、ボクお世辞にもカッコよくないし」

「……」

「……」


 少年少女は黙って改札を抜ける。2人がこのとき思っていることは奇しくもリンクしていた。

 そうだ、今自分は異性と話しているんだ。と。

 急に性別を意識した途端小っ恥ずかしくなる。なにせ両者、人付き合いが苦手な類。それも異性となれば会話は止まる。


「……」

「……」

「あっ……そっ……」

「っ……」

「……」

「あの」「えーと」

「あっ」

「あっ」


 お互い何かを喋りたいのか。いや別に喋らなくてもいいが会話しないといけないという使命感か。とにかく合わないタイミング。ぎくしゃくしていて、なんとも言えない空気が流れる。







 そうして結局次に会話をするのは駅を抜けて真っ暗闇の道を進んで恥ずかしさを上回る恐怖が訪れた時にやっと、であった。


「お、鬼葉はこの先の河川敷の橋の下で待ってろって言ってたね」

「……うむ。しかし正気とは思えんな……危険から身を守るために危険な街に潜入すると言うのは……あれかね。木を隠すには森の中的な」

「その使い方間違ってる気がするけど」

「たしかにしっくりこないな」


 目的地に到着する。着替え用のリュックを一旦下ろして迎えを待つ。

 1月下旬の夜はまだ冷え込んでいた。紫陽が見ると讌が震えているのに気がつく。寒そうだった。


「カ……カイロあるけど」

「いただこう」


 ポケットに入れるタイプのカイロを一つ渡す。

 誰もいない夜。橋の下に男女2人。やはりどこかぎこちない。


「ヒナタ殿はいくつだ?」

「今年で15」

「やはり年下か」

「燕歌……さんは?」

「燕歌でいい。それかもうバレてるし東雲でも?私は今年で18だ」

「3つも上だった」

「ふーむ。お姉様と呼ぶがいい」

「の割にボクより頭悪いこと多いよね」

「ストレートにすごいこと言うじゃん君」

「脅かしたのこれでおあいこということで」


 わりとノリのいいヒナタに燕歌は小さく笑う。しかしそれからはぼーーっと川辺を眺めていた。すると今度はヒナタから切り返す。


「まさか、こうなるとは思わなかったな」

「鬼葉殿……いやはやまさか、マジな方の方々に喧嘩をふっかけるとは……」

「燕歌は、なんで鬼葉にのったの?ボクと違って、本当に命の危険があるのに」


「そうだな……」と、燕歌は顎を撫でて。考えてから答えた。


「さっきの、奴らが見せた映像があっただろう」

「う、うん」


 小尾が脅しに使った映像。それは誰かもわからない少女が、大柄な男たちに囲まれて、そのまま……酷い映像であった。


「あの、映像にっ、な。映っているのは」

「ぇ」


 それ以上は聞きたくないとヒナタは本気でそう思った。


「ぁぁ……そんなっ」


 燕歌の表情は崩れてき、涙が込み上げていく。


「あの女の子は、私の、友人だ……」





◆◆◆◆◆◆




 さてさて、俺のチームメイト2人を呼び出した。だがアイツらが駅に来るまでの少しの時間がある。なので今のうちにやるべきことをやっておこうじゃねえか。熱りが冷めないうちにな。


「……話とは、なんだ、鬼葉」

「シロサギ。テメーは選手か?それとも奴隷か?」


 そこには、アバター越しでもわかるくらいにやつれた顔の少年がいた。

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