談笑、筋者とゲーマー:01
"ロリポップ・パンクラッチ"に【ミルフィーユ・クラッシュ】というキャラが実装された。この事実を知りながらもログインできなかったのは彼女にとって屈辱の極みであろう。
九条蓮巳、プレイヤーネーム久憐。トップオブロリポップ。鳩バス大会予選という突貫工事の修羅場を乗り越えて、束の間の休憩タイム(30分)に入る。
「さて、使ってみますか」
金髪サングラスのセレブ系ロリっ娘に変身したら早速1on1のオンラインマッチで対戦を開始した。
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羅鹿
ランク:E-3
【ミルキィ・クラッシュ】
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久憐
ランク:S-1
【ミルフィーユ・クラッシュ】
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「お手柔らかにお願いね?」
と、対戦相手から切り出した。それに対して久憐はとくに返事をすることなく、戦闘開始の数秒を過ごした。
彼女にとってこれは【ミルフィーユ・クラッシュ】の性能調査であって馴れ合うつもりは毛頭無かった。
「速いな」
まず脚の速さだが、ライト級のような身軽さは無いにせよミルキィと同等のスピード感があった。一気に肉薄する。そして拳を叩き込む。攻撃はどんなものか?手応えを確かめようとした。
「……かわした?」
「ふはははっ」
「!?」
それはカポエイラのような身のこなしで、しゃがんだ体制からえぐりあげるような蹴り脚は顎のラインを掠めた。本当に間一髪反撃をかわした久憐の操るミルフィーユは、警戒して距離を取る。
拳を構える。目の前でゆらりゆらりと酔ったように揺れるミルキィはどこか既視感があった。
今度はあっちから詰め寄ってきて、放つ貫手は右眼の眼球を狙っているようだった。
「貴方は……」
「はははっ」
このミルキィの戦い方は忘れもしない、一度敗北したあのプレイヤーにそっくりだった。
「まるで、人を殺すかのような、生態的弱点を突くような凶悪な攻撃方法……あの戦い方をする奴がほかにいるなんて」
「それ、褒めてる?」
「まあ、私の方がすごいけどね!あへへへへ」
まあ所詮は初心者相手だ。久憐はそう簡単にやられるわけはない。しかしだ。ミルフィーユの性能を確かめている場合じゃなくなるくらいに、そのプレイヤーが気になっていたのも事実。
すると対戦相手の羅鹿から申請が届いていた。ルーム招待である。
「便利な機能ね」
「対戦ゲームならだいたいありますよ。知らないんですか?」
「……知らないわ。あと、アナタは言い方にトゲがある、人に好かれないタイプでしょ」
「好かれたところでいい事ないんでいいです。貴方こそ気味悪がられて人が寄り付かないタイプじゃありませんか?」
「んむむ。そんな事ないもん」
あれだけ動けてゲームに疎いと、何から何まで似ていた。少し違うとすれば微かに感じる恐怖感のベクトルであると久憐は思う。
奴は威圧的な恐怖、こちらは未知的な恐怖といった感じで。
そんな未知なる存在は笑っていた。
「あの、要件あるなら早くしてください、貴重な休憩時間なので」
「んむ?もしかしてお仕事中だったり?」
「そうですよ。ようやく修羅場を抜けて幼女のエキスを吸い込ん────おほん!束の間の安息を楽しんでいたんですから。本当は1秒も惜しい」
時間がないアピールをしても、そのミルキィはゆったりとしていた。それが久憐の神経を逆撫でする。
そして散々待たせて言う内容も。
「ゲームは好き?」
という、久憐にとって言うまでもない話だった。
「好きですよ。それ関係の仕事に就くぐらいには好きです」
「へぇ。じゃあゲームは楽しい?」
「ほぼ同じ質問ですよね。そりゃ勿論楽しいですよ。まあ、たまにイラっとくることもありますが」
「そう」
「……くだらない質問ですね。もういいですか?私ランク戦したいんで」
すると羅鹿は少し考えたような仕草をしてから「ありがとう」と言ってルームを解放しようとする。
その間際言った。
「次やる機会があったら。勝っちゃうよワタシ」
「……」
すると久憐は無言でスクリーンショットを送った。
「ミルキィたんの同人誌百回読んでやりなおしてね」
そこには【ミルキィ・クラッシュ】を下から取ったパンチラ画像が送られていた。
それをみた羅鹿はくくくと笑う。
「ワタシ、アナタのこと好きよ、久憐」
◆◆◆◆◆◆
「部長、どうしましょう」
「ろりぱんろりぱんろりぱん」
そこには、ホットアイマスクをかぶって末期の薬物中毒患者のもうにしゃがれた声でつぶやく大会運営部長の久憐もとい九条 蓮巳の姿が!
「あー!だめだこれ!心が完全にロリパンに置いてかれてる!」
「おい誰だ!休憩中の部長にVR機器渡した奴は!」
そう、まだ修羅場は終わっていないのだ!何故なら大会は本番を控えている!そしてなにより!
「Dブロック、あれどうみても仕込みっすよね」
「だぁな。一応警告文送ったけど、焼石に水だろう」
八百長問題。
この大会でまさか浮上するとは運営チーム思いもよらず。
「2部リーグでそんなことするか普通?」
「たかが2部リーグされど2部リーグなんだろう」
「いろんな想いが交錯する大会。いい!アオハルじゃあないっすか!」
「それ漆黒の意思も入り乱れてんだけど!よくないんだけど!」
リプレイで何度も再生されるプレイヤー:鬼葉を一人狙って攻撃するゴールドルチル4機。
「ゲームの性質上"故意の妨害は処罰の対象です"なんて言えないもんな」
「なんならこれ正当な戦略だよね」
「そうそう、途中から鬼葉もファーストワンって奴と手を組んでるし」
「てか、もしかして八百長なんてないまであるな!わはは!」
「いや、八百長はあるよ」
八百長はある、という発言で一斉に振り向く。ホットアイマスクを外し、我らが部長はデスマーチと共に蘇生された。
「八百長があるって、どういうことだいアンデットモンスター」
「幼女の聖水をくれぇぇぇってバカヤロウ」
「ひえ、変態じゃあないっすか」
蓮巳はみなに見えるようにホログラムを展開した。そこにはチーム:アイテールと、"海老世"の街にあるとある養成学校についてが多く記載されていた。
そしてさらにそこに並ぶ、"禍炉赦會"という文字。
「アイテールの監督とVDA学院関係者は、禍炉赦會としての仲でずぶずぶのようね」
「マジすか?」「やっべえな」と口々に声を上げる中一人手を挙げる。
「あの、かろしゃかいってなんですか?」
若い男性、その横にいた眼鏡の中年が知らないのか?と少し嬉しそうに言って、堂々と補足説明を始める。
「ようは筋者ってやつ。昔のそれと違って色があるわけでも、誰が上にいる組織ってわけじゃないが、関東の……中から龍頭街を除いた、裏社会の広い交友関係図を総称して禍炉赦會という。
ああ、ちなみに名前の由来はそれ関係で初めて逮捕された奴の顔面に"禍"と"炉"と"赦"って文字が彫ってあったからそう呼ばれはじめたとか」
詳しい説明ありがとう。と半目で言う蓮巳。うへへと気持ち悪い笑みが溢れる眼鏡の中年。
「これは身元を洗えば、それこそ一般人の私たちでもすぐ手に入る情報。それで、まあ、関係性があったらそりゃこの大会でもなにかやってるんだろうなって」
若い男性が声を上げる。
「それじゃあ警察に言えばいいじゃないですか。八百長なんて即逮捕ですよ逮捕」
「私にその頭が無いと余ってるのねえ?バカにしてるのねえ?」
「いいえめっそうもございません」
そして蓮巳は言った。
「警察は、まあ、厳重注意をしました!だってさ」
「「「「ですよねーー」」」」
それで動いてくれれば、運営陣がここで頭を抱えることもないだろうに。
「そりゃホットアイマスクつけて現実逃避もしますわ。確たる証拠を突きつけなきゃダメって探偵じゃないんだからさ」
「つーか警察もっと動いてくれよ!」
「だめだめ。禍炉赦會はさっき言った通り組織名じゃないんだ。ただの関係性を指す名称。警察が動いてってそれ言い換えれば『プライベートの彼らの友人関係を壊してください!お願いします』って言うようなもんだから。
「「「「はぁぁぁ」」」」
面倒ごとを片付けるのは彼らの役目。しかし今回は手を出しようにも難しい。それに下手に触って事を大きくすればどうなるかわからない。
「触らぬ神に祟りなし……見て見ぬふりが実は最適な判断なのかもしれない」
蓮巳は自分でそう言って、自分で深く落ち込む。
「運営としてじゃない。ゲームが好きな、いち人間として許したくないよ、こりゃ」
◆◆◆◆◆◆
「お戻りになられましたか、お嬢」
「いきなりいなくなってしまうので心配しましたぞ」
「はいはい」
ついに組織の舵を取る人物が牢屋から解き放たれ、我々の戦いの始まりだ!と息巻いたはいいが、当の本人がすぐさま行方不明になり半狂乱になりかけていた"紅孩一門"はやっと帰ってきた鹿目に安心する。
「いままでどこにおられたのですか」
「便利屋、あとラーメン屋もいった、それから電気屋、でそれから……」
「そ、そうですか。ムショ暮らしがさぞかしつらかったのでしょう。私もわかります若い頃は……」
「ワタシ、アンタに興味ない」
「はっ」
全く馬鹿馬鹿しい。と、桜樹鹿目は思う。たかが血の繋がっているだけの存在の自分に頭を下げるこの愚か者共は馬鹿馬鹿しいと。それとも、彼らの目に映るのは自分ではなく叔父の姿か、と。
「まあいいわ」
そう、どうでもよいのだ。いずれにせよ、今組織の全権を握るのは、組長代理の鹿目なのだから。
「聞いて」
「「「「はっ」」」」
「組織の方針を決めた」
全員が一斉に顔を上げ、どれも固い顔だが、いろんな表情を示す。多くは驚き、そして不安げな表情、緊張、そして一番少ないのが喜び。はあ、と、ため息をついてから、宣言する。
「eSportsというのに、進出する」
するとすべての表情が唖然に変わったのだった。




