予選通過と本戦への不安
Vサインをして配信画面に映る俺の顔は女の子の顔だが不機嫌を隠しきれてない。それとは裏腹に。
「やったぁぁあ!!予選通過だ!!さすがだよ鬼葉!!」
「うむひとまずは安心だな」
{うぇーーい}
{うぇーーい}
{おつはー!}
{おつはー}
{はーたんさいつよ!はーたんさいつよ!}
この喜びっぷりである。なあ?もしかしてコイツら俺が予選通過するの期待してなかったのか?おいおいそりゃあ腹パンモノだぞコラ。
「よかった、ほんとによかったよ!しかも2位だよ2位!」
「そこなんだよな」
2本指立てるヒナタ、2本指を人差し指だけにしてそれを指さす俺。
「2位、気に食わねえ」
「えっ……十分じゃ無い?奮闘したでしょ」
「私もそう思うぞ。初めて間も無く予選2位通過は名誉では?誇っていいことなんじゃないかい鬼葉殿?」
「あんなぁ……」
不満が抑えられん。
「俺1位じゃなきゃやだ!ナンバーワンだ!」
「すっごい小学生みたいな癇癪起こすじゃん」
「やだやだ!1位がいいんだよォ!!」
「しかし実際1位は取れそうだったぞ、なんかぐっちゃぐちゃになって雷に打たれたが」
いやさ、マグネットパルサー採用したのは俺だよ?けどコースが天空横断でしかもあんなことになるなら自滅特攻でワンチャンするしかなかったじゃんね?
「で、でも実力はあるってことじゃん!鬼葉はもう大丈夫だよ本戦でもきっと!」
なぜ全力で擁護するんだ。なんか俺が情けなくなるだろーが、やめろや。
しかしな、これ実力ぅ?って感じだ。
「それなんだけどな。お前らに一つ言わなきゃいけないことがある」
「言わなきゃ?」
「いけないこととは?」
二人とも左向きに首を傾げる。あの試合、何が起きてたか、真剣勝負の場というものを根底からひっくり返すアレ。「配信アーカイブ残すなよ」と一応警告して。
「───今大会。数チームが八百長してるぜ」
八百長、勝負の場で別々の選手陣営どうしが前もって打ち合わせし、正々堂々を装って故意に勝敗を決めること。ようするに出来レースってやつ。
「ああもうびっくりしたぁ。配信切ったよ、それで?詳しく聞くよ?」
「……あーー、悪かったって」
「いいよ別に怒ってないから」
「ブチギレじゃねえか……」
さっき、ばちこーーんぶたれたよ。ほんともうすんごかったから。「いきなりなんてこと言い出すんだアホ!バカ!配信裏で話すことでしょ!」とめちゃくちゃ怒られた。いや、悪かったって。機嫌なおしてくれヒナタさんよ。気を取り直していこう。
「コホン。試合中、俺がゴールドルチル4機に狙われてた場面、あとラストスパートで数機がゴールそっちのけで俺を撃退しに来た場面があったはずだ」
「あ!あったあった!あれズルじゃん!って思ったけど……まさか」
「そうだ。シロサギ陣営に雇われた傭兵だ」
「そんな……」
10万とか言ってた気がする。そして見るからに実力面はそうでもなく。どうせ優勝するのは望み薄だから小銭稼ぎしてしまおうって魂胆だろうな。
「大会運営に報告しよう!そんなの即刻失格でしょ!」
「ノノノノン。そりゃ無理って話だ」
「どうしてさ」
「確たる証拠がないからだ。あんな露骨でも試合の内容だけじゃいくらでも言い逃れできる」
「ぐぬぬぬ」
ヒナタは純情だ。凄く悔しそうで恨めしそうな顔をしている。それに奴らが大会運営とズブズブだったらんなことしても無駄の無駄。むしろ変に目立ってマークされて狙われかねない……そこ、すでに変な目立ち方してるとか言うなよな。
「俺の見立てじゃ、裏には絶対アレが絡んでるからな」
「アレって?」
「わるいひとたち」
「ひぇ……詳しいね」
「お前が純粋すぎるだけだ」
まあ、その純粋さは大事にしてほしいけどな。さあ、問題はこの後だ。この話をしてなんだがオチが無いよなァ?
「それじゃあさ、どうすればいいの?ボクこのまま見過ごせないよ!」
「いいこと言うじゃねえかー!ハッハッハッハー!」
「……なにその待ってましたみたいな態度」
「おう。そう口を尖らすなよシスター。俺だって見過ごせないぜ?なんとかしたいよなァ?」
「うん……」
明らかな八百長!本戦でも間違いなく行われる!じゃあ俺たち純朴なる選手たちは見て見ぬふりして直向きに?馬鹿正直に?んなことしたらホントに馬鹿を見るぜ。俺たちがな。
じゃあどうするか。答えはこうだ。
「洗って潰す」
「洗って潰す……なにそれ。なんかの料理工程?」
「ちげーよ。情報を洗いざらい調べるってことだァよ。何を中心に動いてるか、でそこを……叩く!」
拳を掌にパチンと当てる。ヒナタは未だにキョトンとしていた。まあ、無理ないか。ヒナタの知ってる俺は、中身が男っぽくて外見を少女にしてる勝負バカでしかないからな。現実の俺を知らなきゃ何言ってんだこいつってなるだろう。
「……色々ツッコミたいことあるんだけど色々ありすぎて処理落ちしちゃったよボク」
「叩けば治るか?」
「いつの時代の発想かなそれ」
「江戸」
「絶対違う」
ツッコミが溜まってる最中にワンツッコミ捻り出してきたな。やるやんけ。
と、に、か、く、だ。まず相手が何者か調べなきゃ腹いせに仕返しすることさえできないってことをわかってほしい。と、ヒナタに繰り返し説明してやった。
そしたら次にこう言った。
「目星はついてるの?情報の、糸口ってやつさ。なにかヒントがない全くの無知の状態でたどり着けないでしょ?」
「いい観点だな」
その通りだ。切り込むなにかがないと探求はムズい。
「だがそれについては問題ない。すぐそこに、ヒントがいる」
と、俺が指をさす先にいるのは。
「さっきからだんまり決め込んでるが、チームメイトなんだから積極的な意見が欲しいぜ?なあ?」
燕歌さんよぉ?
「黙っていてすまなかった。しかし……怖かったんだ」
「まあ、無理ねぇわな」
そら、金受け取って結託する様子をナマで見たらビビるわな。しかも、その様子じゃ口止めのために教員たちも動いているらしい。
「ハッキリとは見てない、見ていたら私も、教職員から目をつけられると思って、直感で、その場にいない人間になるように」
良い判断だ。
「天然ボケも冴えるんだな」
「おい、だれが天然ボケだ」
「何もないところで転ぶ奴」
「おいそれは誰だ!」
「いやお前だよ」
「なるほど私か……っておい!」
さてコイツがボケてるのが確定したのはいいとして。
以前、シロサギと燕歌が同じ学校の同級生であると聞いた。で、その学校名は燕歌を詮索するより【チーム:アイテール】の公式サイトから調べたほうが早い。
「海老世VDA学院」
生徒を腐るほど、いや腐らせるほど抱えたマンモス校。プロゲーマーが世界的にみるとメジャーになった昨今だからこそ人気の裏に潜む闇もクソでっかい。
「つまるところ俺を攻撃したあのゴールドルチル4機を操ってたのは、そいつらだな」
「ああ。私と同じ学校の生徒で間違いない。あの日【チーム:アイテール】は食堂で、学内下位から中位の生徒を買収した……ハッキリ見てないが前口上は完全にそれだった」
「そうか」
シロサギ運営が自分の足で働きかけているらしい。つまり本戦出場選手の中で関係性の近い奴は、だいたい飼われていると考えて良さそうだ。なぁにがシロサギだよ。まっくろけじゃねーか、詐欺野郎。
「と、なると、シロサギ運営の方からこっちに動くかもな?」
「動く?というと?」
「例えばヒナタ、お前があっち側の人間だったとして予選で散々暴れ回って2位で本戦通過した前情報一切無しの謎選手をみすみす見逃すと思うか?」
「あぁ、さすがに調べるよね……それか接近して、もしかしてボクらを買収する?」
「正解」
絶対来る。十分すぎるぐらいのお膳立てができているのだから。
「Dブロック予選2位通過【TYRANNUS】にはVDA学院生の燕歌が所属しているらしいぜ。わーお、誘いやすいったらありゃしない」
俺は燕歌の方を見た。
「一応確認するが、お前はまだ、金を受け取っていないんだな?」
「ああ。受け取ってない」
「まあそう言うよな……ってなんだヒナタ」
裾を引っ張る、黒髪の中性的な子。そいつは、ああ、むすっとしてる。
「鬼葉!燕歌ちゃんを疑うなんて!チームメイトなんだぞ!」
「い、いや疑うだろそりゃ。ネットでマッチングした相手がシロサギとパイプ繋がってたら怪しさマックスって思わねえ?」
「燕歌ちゃんはそんな人じゃあない。ボク知ってるんだ」
「お前、出会い系でサクラ掴ませられるタイプだわ。人を信じすぎるな、損するぞ?」
「むぅ」
だいたい、俺の正体を見抜けてない時点で説得力皆無だっつーの。
まあただこの燕歌という人物が金で動くか?というと微妙である。なぜなら。
「失敬な鬼葉殿。私はね、主人公になりたいんだ。わかるかい。この射撃の腕前で界隈にその名を轟かせる為に関東に上京してきたのだ。まして他者の為にわざと負けるなど屈辱の極み!」
「でもお前単純に実力ねーじゃん」
「グボはっ……ストレートに言うね君は……」
「頭使って反復練習しろ、頭使ってな。いっつも誰かの指示を待つ感じ、悪い癖だぜ」
「うむ……」
まあ、俺もあんまコイツを疑うようなことはしたくないな。チームを組んでる以上、関係性にヒビが入るとその先は最悪なことしか起きない。近すぎず遠すぎずの距離感を保って接してやらんとな。
「おーけー。燕歌。ヒナタに免じて俺はお前を信じよう。だから一つ頼まれてくれるか?」
「……私にできることならば」
相手は、こっちに近づいて黒い手を伸ばすとわかっている。ならば先に手を打っておこう。
「釣り餌になってくれ」




